韓国は富川(プチョン)市で開催中の「第14回富川国際ファンタスティック映画祭」に、ガンダムの生みの親である富野由悠季監督が登場。韓国のファンを前に、1時間を越える濃厚なトークイベントを行った。
その記念すべき一部始終と、日本のファンに負けない韓国ガンダムファンの熱さを、現場からレポートします!

毎年、ホラーやSF、アニメなどエンターテインメント映画を中心に、世界の名作・話題作を紹介してきた同映画祭。7月15日に始まり25日まで開催される今回は、特別展として『機動戦士ガンダムI~III』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』などのガンダム映画8作品を、韓国では初めて公式の場で上映することに。富野監督の訪韓は、それに合わせて企画されたものだ。

ガンダム映画の上映を企画し、自身も大のガンダムファンであるクォン・ヨンミンさんは、今上映を通して、「かつての若者がガンダムから受けた感動は、国や状況が違くても大差はないことを、日本に伝えたかった」と話す。

31年前に日本で誕生したガンダムアニメは、口コミや海賊版ビデオなどを通して(当時の韓国では政策により、日本の文化を自由に楽しむことができなかった)、かなり早い時期からアンダーグラウンドの場で、韓国のアニメファンに知れ渡ることとなった。
近年はライセンスをクリアした、アニメ『新機動戦記ガンダムW』『機動戦士ガンダム00』のケーブルテレビ放送や、ガンプラ、ゲームの人気により、若いファンの心をつかむように。

「映画祭での上映が、健全な形でガンダムを楽しめるようになるきっかけになれば」とクォンさん。そんなガンダム映画の初上映は、発表時からすでに大きな話題を呼んでおり、他にもラインナップにあがっている日本のアニメ『劇場版 銀魂 新訳紅桜篇』『名探偵コナン 天空の難破船』とともに、チケット予約が殺到したそうだ。

富野監督の出演するトークイベントは、17日の23時から翌朝6時にかけて夜通し行われる、ガンダム映画3本の連続上映を前に開催されることに。
会場となった富川市庁には、20代男性を中心とするガンダムファンが集合。そこには女性の姿もちらほら見受けられた。
試しに筆者は、日本なら秋葉原でよく見かけそうな風貌の、リュック姿の男性に声をかけ、どのガンダムが好きか聞いてみると、「ターンエー最高です。
そこには富野監督の哲学が込められています」と熱い回答が。すると周りにいた男性たちがわらわらと集まり出し、いろいろ話したいというような視線で筆者を見つめるため、その場にいた全員にインタビューすることになった(ありがとうございました)。

観客がおおよそ着席し、司会者がイベント開始のアナウンスすると、スクリーン前の舞台に、かの富野由悠季監督がさっそうと登場。観客は全員立ち上がり、盛大な拍手で迎えた。
トークショーは、韓国のファンから事前に集められた質問に、監督が答えるという形式で進められた。「どのモビルスーツが好きか」「どの作品が気に入っているか」といった司会者の問いに、まるで用意された論文を読むように明快に答えていく監督。
プロとは何かという富野哲学や、ガンダムを生み出した時の思いなどを、淡々と分かりやすく語っていく。

通訳の人が韓国語に翻訳する前に、監督の言葉にダイレクトに反応する観客が多いのが印象的だった。
監督の口から「他人のつくったガンダムを観ることができません」「手書きの文章が一番重要なデータ」「嫌いなものでも、100人ぐらい褒めているものがあったら、それは観ておくべき」といった名言が飛び出すと、ファンはすぐ熱い拍手を送り、共感の思いを示した。

途中、司会者と監督だけのやり取りにしびれを切らしたファンが、突然立ち上がり「もっと自由に質問させてほしい」と発言する場も。
やがて訪れた質疑応答の時間は、手を挙げた観客から数人を選ぶのは荷が重いという司会者の言葉で、座席番号による完全な抽選によって行われた。
いきなり指名されても、質問を準備していない人もいるのではと筆者は思ってしまったが、座席番号を呼ばれた人のほとんどが、待ってましたとばかり、監督に質問を投げかけていたのには驚かされた。
中には、「リング・オブ・ガンダムの詳細を教えて欲しい」といった、マニアらしい質問も飛び出した。
また「韓国や韓国のファンについてどのような印象をお持ちですか」という質問に対し、監督は「この席(ガンダムのことについて話すイベント:筆者注)で、そういう話はどうでもいいことじゃないですか」と話したうえで、「じゃあ、とりあえず外交辞令。韓国大好きですよ」と発言。そのやりとりは、いかにも監督らしい茶目っ気があり、大きな笑いを呼んだ。

富野監督は最後に、「できましたら、もう60年ぐらい応援していただけると嬉しく思います」と挨拶。再びのスタンディングオベーションが沸き起こり、トークイベントは幕を閉じた。


日本を代表するロボットであるガンダムが、韓国のファンにも深く愛されているという事実を目の当たりにし、感動すらした筆者であった。お台場の次は静岡に登場した実物大ガンダム、世界を循環する日は近い、かも。
(清水2000)