アップルから新しい「MacBook Air」と「Mac mini」、それにMac OS Xの新版である「OS X Lion」がリリースされてから1週間が経過した。ハードウェア、ソフトウェア、両面の評価も、そろそろ落ち着いてくるころだろう。
PC USERでのベンチマークテストを含め、すでに新型ハードウェアの性能、それにLionの新機能の紹介はおおむね出そろってきた。こうしてコラムを書いておきながら、このようなことを書くのは矛盾しているかもしれないが、改めて追加する情報はない。
ハードウェアの性能は明らかに向上している。ThunderboltやMacBook Airへのキーボードバックライトの装備(13インチモデルは復活)、それにSandy Bridge世代へと一足飛びに進化したプロセッサ性能などは、言うまでもなく魅力的なものだ。
MacBook Airは高速なフラッシュストレージの搭載、それに最適化したMac OS Xのチューニングなどによって、とても古い世代のプロセッサを搭載しているとは思えない機敏な動きをするが、それが最新世代のプロセッサになったのだから、高性能は最初から約束されたようなものだ。
わたし自身、普段はCore 2 Duo搭載の先代モデル(13インチモデル)で、ほとんどすべての仕事をこなしているが、パフォーマンスに大きな不満を覚えたことはない。もちろん絶対的にプロセッサ能力が必要なアプリケーションは遅いことは自明だが、日常的な作業では操作に対する追従性が一番、体感的なパフォーマンスに効く。
そうしたベンチマークテストで評価しにくい性能において、MacBook Airはとても優れている。最近はMacBook Airがベンチマークの文字通り基準となり、Windows搭載PCも起動速度やサスペンドからのレジューム速度を高速化しているが、実際に復帰して使えるようになるまでの時間はともかく、“あっという間に復帰しているように見せる”ことができるのは、アップルがハードウェアとOSを同時に開発しているためと言える。
そのMacBook AirにSandy Bridgeが載り、Thinderbolt、キーボードバックライトまで搭載となれば、ほぼ文句を言うところはない。先代モデルに感じていた不満点は、これでほとんど解決されたと言っていい。正直、今すぐにでも買い換えたいくらいだ。また、Mac miniに関しても、大変に意欲的な製品に仕上がっており、むしろ製品コンセプトとしては、こちらのほうが魅力的な部分もある。
こう褒めまくるというのも、わたし個人としてはとても久々のことだが、今回の製品に関しては突出してはいないものの、やるべきことをしっかりとやってきた優等生というイメージだ。要は失点がとても少ない。続く円高により価格が抑えられていることも、製品をより魅力的に見せている要因の1つだと思う。
一方、Lionに関してはまだこれからの熟成や、ソフトウェア側の対応の進行を待たねばならない部分もある。細かなレベルでの互換性もこれから取られていくことになる。しかし、そんな現状でもおおむね良好な印象だ。
OSの基礎的な部分の改修は、直前のSnow Leopardのときに実施ずみであり、劇的な変化はない。しかし、今回のバージョンアップはユーザーインタフェースの変更や気の利いた機能の追加など、よりエンドユーザーが直接使う機能の向上が多い。特に筆者が興味深く感じたのはフルスクリーン表示についてだ。
長い前振りとなってしまったが、このコラムではフルスクリーンアプリケーションのもたらす価値と将来を中心に話を進めていきたい。
先代MacBook Airが発売されたとき、わたしは「11インチモデルはLionの発売後に、パッケージを生かせるようになるのでは?」と予想して記事を書いた。というのも、11インチモデルはこれまでのアップル製ノート型コンピュータが、決して外さなかったポイントをいくつか外していたからだ。
まず解像度が高すぎた。従来のMacは、画面サイズと表示サイズのバランスを常に取りながら解像度を決めてきている。中途半端な数字の解像度がMacに多いのもそのためではないかと推測している。また解像度を別にしても、アップルは小さすぎる画面サイズを好まない傾向があった。想定しているユーザー体験を損なわないためだろう。これらの条件を、11インチMacBook Airは見事に外していた。
このとき、すでにLionの登場がアナウンスされていたので、おそらくLionへのアップデートに11インチモデルを使いやすくするための、何らかの工夫がされるのではないか、と考えたのだ。
MacBook Airは11インチ、13インチとも新規に追加された仕様の部分はほぼ共通で、両モデルともハードウェアの面では、ほぼ同様のグレードアップを果たしている。しかし、OSも含めた製品全体の完成度という意味では、11インチモデルの躍進が著しい。
13インチモデルはMacBook Proの機能をスライスして切り出したように、広々したキーボードやパームレスト、画面表示やパッドなどのバランスが整えられている。これは従来のMac OS Xのユーザーインタフェースにもピッタリとしているが、11インチモデルは場面によっては、少しばかり画面の小ささを意識する。
しかし、Lionで追加された全画面表示のユーザーインタフェース(フルスクリーンアプリケーション)は、画面サイズによる使用感覚の差違を緩和してくれる。全画面表示でLion対応アプリケションを使う場合、アプリケーションは旧Spacesの1スクリーンのように扱われ、Mission Controlによる作業状況の把握と、タスクの同時操作、3本指の左右スワイプによるアプリケーション切り替えが可能だ。
この操作方法の導入で、「全画面表示アプリケーション」と「手早く切り替えながら作業を進めるマルチタスクのよさ」を両立している。単純に全画面表示をOSレベルでサポートするだけでなく、ユーザーによるタスク制御まで含めた形で改善している点はさすがと言えるだろう。
同様にフルスクリーンアプリケーションと対になる機能として導入されたLaunchpadも、操作性の面でまだ十分にこなれていないものの、やはり小さいディスプレイしか持たないコンピュータでの操作性を改善しようという意図が見える。
単に「小さく軽くしました」ではなく、「小さな画面になるなら操作性も変えましょう」という考え方は、すばらしいというよりも、真っ当なやりかたと表現するほうが正しいように思う。
ユーザーインタフェースのチラ見せを見る限り、マイクロソフトもWindows 8では同様のことに挑戦しているようだが、ハードウェアとソフトウェアの両方から同時にアプローチできるアップルの機敏さがよい結果を引き出しているのだと思う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.