サラリーマン記者がはびこる日本にこそ必要なジャーナリズムスクール

ピュリッツァー賞が掲げる「ジャーナリズムは公共サービス」の理念
4月19日付のロサンゼルス・タイムズは1面で自社のピュリツァー賞受賞を伝えている

 4月18日、アメリカ第4位の日刊紙ロサンゼルス・タイムズの編集局内で、シャンパンのコルク栓を開ける音が鳴り響いた。ロサンゼルス近郊にあるベル市の汚職を暴いた一連の報道が評価され、ジャーナリズム最高の栄誉であるピュリツァー賞を受賞したからだ。

 しかも通常の受賞ではなかった。報道関連14部門のうち最も格が高い公共サービス部門で受賞したのである。ピュリツァー賞の生みの親ジョセフ・ピュリツァーの理念を象徴しているのが公共サービス部門。だからこそ、同部門の受賞者に限って金メダルを授与されるのだ。

 副市長に80万ドル(6000万円以上)の年俸を払う価値はあるのか---。2010年7月15日付のロサンゼルス・タイムズ1面トップでこんな大見出しが躍った。

リストラで苦しい中でも調査報道に「選択と集中」

 人口3万7000人のベル市。住民の9割がヒスパニック系で、ロサンゼルス郡内では最も貧しい地域の1つだ。それだけに「副市長に80万ドル」という特報は衝撃的だった。

 同紙の調べでは、副市長のほか副市長補佐や警察署長も高額報酬(それぞれ年40万ドル前後)を受け取っていたことが判明。大規模な住民抗議も起き、結局、市の幹部8人が逮捕・起訴されることになった。

 ロサンゼルス近郊に住む私にとってロサンゼルス・タイムズは愛読紙だ。大リストラを経たこともあり、紙面内容ではニューヨーク・タイムズなどと比べてどうしても見劣りする。それでも、ベル市の汚職報道に限っては「よくここまで調べたものだ」とうならせるような記事を何度も目にした。

 編集局の人員がピーク時と比べ半減しても、ロサンゼルス・タイムズは地元ニュースで意地を見せている。1997年から2000年までロサンゼルス・タイムズ編集局長を務め、現在は南カリフォルニア大学ジャーナリズムスクールで教鞭を執るマイケル・パークスはこう見る。

〈 ロサンゼルス・タイムズは昔と違う新聞になってしまった。ワシントン支局を大幅に縮小するなどで、全国紙的な影響力を失っている。記者が大幅に減ったのだから仕方がない。でも、選択と集中を徹底することで、地元ニュースでは今でも優れた報道を続けている 〉

 「優れた報道」とは公共サービスの精神に合致した報道のことだ。具体的には、いわゆる調査報道の手法を活用するなどで権力をチェックする「ウォッチドッグ(番犬)」としてのジャーナリズムだ。ピュリツァーはそこにこそジャーナリズムの神髄があると喝破していた。

 ベル市の汚職をめぐるロサンゼルス・タイムズの特報は、「メディアが動かなければ永久に闇に埋もれたままになりかねないニュース」だ。市民の「知る権利」に応えたという点で、まさに公共サービスだ。

 市民がきちんと権力をチェックできなくては、健全な民主主義は機能しない。チェックするためには権力側が何をしているのか知る必要がある。そこで活躍するのが「第4の権力」とも呼ばれるメディアだ。

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