「ベンチャー企業はトップ(社長)で決まる」とよく言われる。事実その通りだと私も思うが、この言葉の意味するところは、論者によって大きく異なる。


一般的には、先見性があり、実務能力の高いトップが、強いリーダーシップを発揮すると、会社は成長するという意味で使われるているのだろうが、私は必ずしもそうは思わない。それははっきり言ってアメリカのEntrepreneurshipの教科書の読みすぎだ。アメリカにおける理想の起業家像は、例えばアップルのスティーブ・ジョブスのような、“革新的ヒーロー風マイクロ・マネージャータイプ”に偏っている気がする。日本で言えば孫正義タイプか。いかにも“ベストプラクティス好き”のアメリカ人らしい発想だが、日本でこの種のタイプを、成功する起業家のベンチマークにするのは危険だ。


実際私の在籍したリクルートコスモスから上場企業のトップは現在5人出ているが、このタイプは1人を除いて存在しない(全ての人をよく知っているわけではないので、伝聞情報も含んで言っている点はご容赦頂きたい)。比率で言うと20%ということになる。そしてリクルートコスモスのOBがトップをしていて、まもなく株式公開という会社がいくつかあるが、そのうち私にとって身近な3社のトップも全てヒーロー風マイクロ・マネージャータイプではない。IPOが成功のモノサシとは言わないが、そのレベルに達しているベンチャー企業のトップで見ても(サンプルが少ないので、統計的には意味はなさないが)、日本で実際に成功する起業家で、強力かつ個性的なリーダーシップを発揮しているというケースは意外な程に少ない。


もちろんこれらの人々は凡人ではない。先天的か後天的かは別にして、優れた人々である。そしてこれらの人々に共通して優れた点だと感じるのは、「柔軟性」と「キャプテンシー」だ。カリスマでもスーパーマンでもないが、事業のディレクションは会社を取り巻く環境を見極めて機敏かつ柔軟に行い、そのディレクションを実践するチームをスピーディーかつ的確につくる。そして責任は自分が全て負う覚悟だけは決めて、チームに任せてしまう。もちろんチームを励まし叱咤することもあるだろうが、成果を引き出すためには、時に自分の弱みまでさらけ出す。「その分野はよくわからないし、苦手なんだよねー。助けてよ。君達ならできるよ。責任はオレが取るから」といった具合に。


キャプテンシーもリーダーシップの一種だが、目線が違うのだ。上から下を見てはいない。同じレベルに一旦目線を落として行うコミュニケーションだから、時には弱みを見せるネガティブ・コミュニケーションで相手のホンネを引き出すことができる。その上に成り立つ関係性は双方向だから、逆にチームが経営者目線を持つことにもなる。効き目絶大である。


もちろん何の準備もなくこれを実践すればOKというものではない。コンテクストも見極める必要がある。またこのアプローチが唯一無二だとも思わないが、成功のパーセンテージの高さは事実が証明している。