FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

悪を呼ぶ少年/ロバート・マリガン監督

 トマス・トライオンの原作を読んでいたから、双子の秘密は知っていた。だがその秘密を知っていてもなお、存分に楽しむことができた。これは、素晴らしい小説が、もっと素晴らしい映画に仕上がった稀有の例である。
 コネティカット州の小さな村に住まうペリー家の双子。悪戯好きのわんぱくなホランドと、優しく大人しいナイルズ。双子の父は生命を落とし、そのことが原因で母アレクサンドラは病に伏せ、周囲に心を閉ざしつつあった。
 ナイルズの世界はとても狭かった。ホランドの時として残酷な悪戯には振り回されたが、兄がいればなにも怖くなかった。そして、一番の理解者で祖母のエダ。エダとのゲームの最中ならば、ナイルズは鳥になって空を飛ぶこともできた。そう、自分以外のなにものかになることができたのだ。
 ある日、いとこに指輪を見咎められたときから、ナイルズの完璧な小宇宙には罅が入るようになった。
 懐かしさと忌まわしさをともに感じさせる傑作。狂気ものの一種とも言えるが、そう呼んでしまうにはあまりにも繊細でファンタジックな雰囲気に包まれている。
 原作を読んでいたときは、さして記憶に残っていなかった祖母エダが映画では実に印象的だ。幼い孫達と細やかに心を重ね合わせることができる一方、大人の女性の思慮深さをも持ち合わせており、彼女が最後に下した決断と、その行方が哀しい。
 母アレクサンドラを演じたダイアナ・マルドアと、祖母エダを演じたユタ・へーゲンは美しい女優さんだった。
 少年と少女の違いはあれど、子供の無垢性と残忍性を美しく描いた作品ということで、ニコラス・ジャスネル監督『白い家の少女』を連想した。
 綾辻行人ファンや竹本健治ファンは言うに及ばず。ホラー映画が好きならばぜひ。

悪を呼ぶ少年 (角川文庫)

悪を呼ぶ少年 (角川文庫)