若者の「お風呂」離れが進み、20代の4割はほとんど湯船につからない。その背景には、風呂につかっている「時間がない」ことのほか、「風呂に入るコストがもったいない」という節約心理があるようだ。そんな若者に、高額の消費を期待するのはもはや難しいのかもしれない。
「もったいない」「時間がない」といった理由から、湯船につかる若者が減っている
「もったいない」「時間がない」といった理由から、湯船につかる若者が減っている

神戸市水道局、水の適正使用を目的に女子大とコラボ

 若手社員有志が参加している早朝の新聞チェックで、数カ月前に興味深い記事を見つけた。

「若者よ お風呂に入ろう」

(2016年3月1日付 東京新聞朝刊から)

・『もったいない』『時間がない』
・20代4割『ほとんど湯船つからない』
・神戸の学生ら呼び掛け

 湯船にお湯を張る機会が少ない若者に入浴の楽しさを伝えようと、神戸市水道局と地元の給湯器メーカー、神戸女子大家政学部の学生が協力。
「おふろ部」と名付けた情報サイトをネット上に開設して、入浴剤や半身浴など女子大生向けの情報を発信しているという。

 である。
 以下、この記事で最も重要な部分を引用したい。

 「市水道局によると、節水機器の普及や人口減で水の使用量は減りつつある。水が水道管内に滞留すると水質の維持が難しくなるが、水道管の敷設は長期的な計画に基づいており、急には細くできない。有効利用を呼び掛けることになった」

 「対象として浮かんだのが20代の若者だ。市水道局が昨年9~10月に実施した調査では『だいたい毎日湯船にお湯を張って入る』と答えた割合は、30代の66.4%が最も多かった。20代は25%で、『ほとんど入らない』が43.8%。昨年11月に同学部で開催したワークショップでは『一人暮らしでもったいない』『時間がない』などの意見が出た」

 この記事を読んだ筆者がその場にいた若手社員に聞いてみたところ、ほとんどがシャワー派だった。神戸だけでなく、東京でも状況は同じのようである。

 ヨーロッパ大陸のように空気が乾燥していれば、シャワーで済ませるのが合理的だと言えるかもしれない。また、気温と湿度の高さで消耗しがちな真夏には、シャワー派が日本でも多くなるように思われる。

「もったいない」「時間がない」

 だが、20代の若者が湯船につからない理由は上記の記事の通り、以下の2点のようである。

① 「一人暮らしでもったいない」という経済面の合理的な思考

② おそらく、SNSでのやり取りやアルバイトなどでとにかく忙しいため、「時間がない」という時間的な制約

 これらのうち①の関連では、さまざまな維持管理や付随する費用を含めて考えると都市部では自分で車を保有するのは「コスパ(コストパフォーマンス)が悪い」という彼らなりの経済合理的な思考ゆえに、若者の「車離れ」が顕著になって久しいことが想起される。筆者は講演などの場で最近、「お風呂にさえあまり入らない若者に車を買わせようとしても、なかなかうまくいかないだろう」と説明することがある。

 上記①と②は、簡単に変わる(ないし変えられる)ことではない。時間が経ち、世代が入れ替わるに連れて、日本で「湯船派」は徐々に減っていく可能性が高いと、筆者はみている。

 若者の入浴時間が近年になって短くなっていることを実際に示す統計データがないだろうかと思って探してみたのだが、そうしたものを見つけることはできず、逆に、一見すると長くなっているのではないかと思わせるデータが1つあった。

 NHK放送文化研究所が5年ごとに実施している「国民生活時間調査」がそれである。日本人の生活時間がどのようなことに、どのくらい振り分けられているかを示す、時系列データが含まれている。

 今年2月に公表された2015年の最新データ(調査実施期間:10月13~26日)によると、以下のような特徴があった。

 ① 日本人の睡眠時間減少が止まって「早起き」が一層進み、「早寝」が増加

 ② 高年齢層を含めてテレビの視聴時間が減少

 ③ ビデオやインターネットの利用に広がり

「身のまわりの用事」に費やす時間は増加傾向

 調査項目の中に、「身のまわりの用事」がある。
 「洗顔、トイレ、入浴、着替え、化粧、散髪」が具体例として挙げられている分類(時間の使い方)である。

 この「身のまわりの用事」に平日に費やされた時間を、男女別・世代別に見ると、20代の男性は1時間04分で、5年前の調査から6分増加。20代の女性は1時間29分で、5年前から5分増加していた。

■図1:「身のまわりの用事」に費やされている平均時間(平日)
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(出所)NHK放送文化研究所
[画像のクリックで拡大表示]

 同じ世代の動向を探るため、10年前(2005年)の調査における10代と比較しても、男性は9分増加、女性に至っては19分も増加している。土曜や日曜のデータでも、傾向はおおむね同じとなっている。

 「お風呂派」が減って「シャワー派」が増えているとすれば、普通に考えれば入浴時間は短くなるはずである。しかし、「国民生活時間調査」のデータとは整合しない。この謎に関しては、次のようないくつかの解釈が可能だろう。

(A) 全国ベースで見ると、実際には「シャワー派」は増えていない。

(B) 「身のまわりの用事」のうち、「入浴」の時間は減っているものの、それ以外(たとえば「化粧」や「洗顔」)に費やされる時間が増えている。

(C) 「入浴」中に行われる活動が現在は多岐にわたっているため、結果として「身のまわりの用事」の時間が長くなっている。たとえば、「シャワー派」が増えていても、「お風呂派」が防水のゲーム機やテレビなどで長い時間楽しむ、お風呂の中でストレッチをするなどの活動をしているケースが考えられる。

 筆者は上記のうち(B)や(C)が影響しているとみているのだが、現時点では、正解がどれなのかはわからない。より細分化した生活時間の調査結果が待たれる。

麻生財務相が語る、個人消費を伸ばすための条件とは

 個人消費が低迷を続けていることに関連して、麻生太郎財務相は5月31日の閣議後記者会見で、「基本的に個人消費が伸びるためにはいくつか条件がある」と述べた上で、その条件2つを次のように説明した(時事通信の会見詳報から引用)。

■【まずデフレを止める】
 「間違いなく、今より明日の方が安いとなれば買いませんよ。買い物に行って100円だった大根が次の週行ったら97円になってた。次の週は95円になってた、という話をデフレというが、そういった物価が下落状況になるときには消費は伸びない」

■【次に勤労所得層の可処分所得を増やす】
 「給与が増えるということは企業が利益を出し、かつ企業の中の生産性が上がらない限りは利益が出ませんから」「そういった意味では企業が生産性を上げるような設備投資をやって、結果としてこの20年近く止まってる設備投資の多くを、この際金利の安い今、新しく買い替えていく」

個人消費に景気をけん引させるのは、今後も困難だろう

 その上で、会見の最後に麻生財務相は、「消費者の心理がどのように影響していくか」が一番見えないとした。可処分所得が増えても、消費性向(可処分所得のうち消費に回される金額の割合)が低下すれば、消費は減少してしまう。

 だが、麻生財務相は、生産年齢人口が毎年減少していることが消費に及ぼす影響については、記者からの質問に回答しなかった。

 さらに、いわゆる「長生きリスク」にさらされている高齢者のみならず、お風呂の関連で述べた2つの理由や老後への不安などから、若者も支出額を絞り込む生活パターンを変えないとすれば、個人消費が景気をけん引する絵図を描くのは、構造的な面から今後もきわめて困難だと言わざるを得ない。

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