2012.02.01

理想とする企業はアップル!ITを徹底活用、顧客目線で業績を伸ばす農家の「畑が見える農園」

グーグルマップとも連動し徹底した商品履歴管理
一般的に農協の傘下にある農家は、販路の開拓は農協任せになるため、販売価格は思いのままにならない〔PHOTO〕gettyimages

 ITを徹底活用して業績を伸ばしている農家がある。そのITの活用方法はユニークで「畑が見える農園」とも呼ばれる。テレビでも大きく取り上げられたほか、トヨタ生産方式の研究者や日本経団連の関係者も視察に来るという。

 その農家は熊本県益城町にある松本農園(資本金800万円、従業員31人)だ。ニンジンやゴボウ、里芋、大根などの露地野菜を年間延べ50ヘクタール栽培している。

 松本農園は、野菜を詰めた袋に付いている13桁の数字を専用のホームページに入力すれば、種を蒔いた時から収穫まで、何月何日にどのような作業をしたかがすべて開示され、使用した農薬や肥料の種類までもすべて分かるシステムを導入している。

 グーグルマップとも連動しており、栽培した畑の位置を航空写真上で見ることもできる。万一、出荷した野菜に品質上の問題があり、クレームを受ければ、約30分で栽培した畑や出荷作業担当者までも突き止める。

「安全安心をイメージでは語れない」

 3年前から本格稼働するこのシステムを導入したのは、同農園の松本武取締役(45)だ。松本氏は大学を卒業後、旭化成の医薬事業部で約6年間、病院向けの薬の営業を担当していたが、父の博美氏に「営業をやってくれ」と頼まれUターンし、家業を仕切るようになった。「日本の農業は経営の意識があまりにも低すぎます。コスト意識やIT化など、工夫の余地はまだまだ存在している。やり方によっては十分に利益が上がるようになる」と話す。

 松本農園はIT化の推進によって、農作物の生産履歴(トレーサビリティー)の管理を強化し、それを顧客に開示することで、信用の向上につなげている。同時に経営の効率性も非常に高まった。これらの点を解説する。

 まず生産履歴管理の強化が自社産の野菜の差別化につながり、高付加価値商品として、納入先の大手スーパーに「価格を納得してもらって」売ることができるようになった。要は値引き競争に巻き込まれなくなったということであり、松本農園は生産者として価格決定権を手にしたのだ。実はこれは日本の農産物の流通では珍しいことである。一般的に農協の傘下にある農家は、販路の開拓は農協任せになるため、販売価格は思いのままにならないからだ。

「安心安全をイメージで語ってはいけません。医薬品の場合も副作用のことまでしっかり説明しないと売れません。本当の情報を開示することが新しいお客の獲得にもつながることは農業も同じです」と松本氏は説明する。

 経営の効率性については、作業者は一日の作業が終わると、事務所内にあるタッチパネル式の端末に本日の作業状況など毎日の細かいデータを入力することで、収穫量の推移や作業の無駄、原価管理も「見える化」され、利益目標が立てやすくなったという。
たとえば、畑が140ヵ所に分散しているため、同じ土地で同じ作物を植え続けると起こる「連作障害」を防止するための管理が大変だったが、コンピューター上でどの畑にどの作物を植えればいいのか、簡単に管理できるようになったという。

 このほかにも、無駄を排除するために作業の標準化も推進する。たとえば、農薬の希釈→運搬→散布→空容器処理といった安全管理が重要になる作業の手順書は、航空会社の整備に対する思想を参考して作成した。「農業から遠い産業であろうとあらゆる産業の利点を学びながらそれを取り込むことが経営を発展させるうえで重要」と松本氏は話す。

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