横浜地方裁判所で公判傍聴

横浜地方裁判所。ある殺人事件の公判の傍聴にやってきた。裁判所なんていうところに来るのは初めて。最近立て直したらしい石造りの美しい建物。法廷室が取り囲む中央が吹き抜けの気持ちのよい空間になっていて、天井のガラス窓からやさしい光が射しおろしている。静かで荘厳。やや葬儀場に似ている。

この事件は市民の関心が高いようで傍聴券が配られた。私も1枚ゲット。公判は午前10時から始まる。たぶん日本の公的機関のご多分にもれず、傍聴時にパソコンを使用することは許されまい。(写真撮影さえできないからね…)。

川崎市の古い木賃アパートで起こった貧しき人々の悲しい事件。
川崎3人殺害、弁護側は殺意争う姿勢 検察「残虐で執拗」  :日本経済新聞

川崎市幸区のアパートで2009年5月、大家の柴田昭仁さん(当時73)ら3人が殺害された事件で、殺人罪に問われた無職、津田寿美年被告(59)の裁判員裁判初公判が2日、横浜地裁で開かれた。津田被告は秋山敬裁判長に「起訴内容を認めますか」と問われ、「はい」と述べた。弁護人は「1人目の被害者を刺した時点で殺意はなかった」と一部を争う姿勢を示した。

被告人は59歳男性だがまるで75歳の老人に見えた。 福島で極貧と虐待の幼生期を過ごし、若い頃は暴力団とつき合って服役を繰り返し、中年以降ホームレスに転落。50歳過ぎに悪性リンパ腫をわずらい命からがら行政に助けを求める。退院してようやく見つけた静かな古いアパート。

被告人は働くに働けず生活保護をもらって昼間はアパートにいることが多かった。そこで住人と騒音や悪臭を巡りトラブルを起こす。そして積年の恨みが爆発。隣人と大家の合計3名を包丁で刺し殺す。

まるでドラマのような話だけど…本当にこういう人がいるんだね。公判での被告人は、じっと目をつぶって犯行当日の出来事を反芻しているように見えた。冒頭陳述で検察側は彼を残虐な殺人犯と見立てようとし、弁護側は生い立ちの悲しさ、本人のトラブル回避努力を強調。

殺人という罪は許されるものではないが、被告人には同じ(?)社会不適合者として同情の念を抱いてしまった。体力も知能もない彼にはおそらく普通の人が考えるよりずっと選びうる選択肢は少なかったにちがいない。明日は我が身かな…。

法廷は報道席が20、一般傍聴席が50ほどあり、大学の講義室のような雰囲気だった。左手に検察、右手に弁護、中央の奥の高いところに、黒い法衣を来た裁判官が座っていた。検事は40代後半のロマンスグレーの男性、弁護士はまだ30代とおぼしき若い男性。

意外だったのは、裁判官・検事・弁護士ともに平易な口語を使って話しており、一般人にも十分わかりやすかった。まあ殺人事件だからかもしれないが。(後で知ったが、どうやらこれは非法律家の市民から構成される裁判員がいるためらしい。裁判員制度は司法を市民にとって身近なものにすることには役に立っているようだ)

検察と弁護側の冒頭陳述は本当に法廷ドラマそのものだったよ…。興味深いので平日に時間がある人はいちど公判をのぞいてみることをお勧めする。

面白いなと思ったのは弁護士が iPad 片手に冒頭陳述を行っていたこと。テレビスクリーンに PowerPointKeynote で作ったプレゼン資料を映しながら。さすが。だからさ、やっぱり若い人に仕事を任せればきちんと IT を使うんだよ…。横浜市会よりずっと現代的だった。

多分あれは国選弁護人だろうけど、情状酌量のためきちんと仕事をしていたと思う。被告人はいずれにしろ殺人罪で服役しなければなるまいが、ああいう境遇の人たちにもきちんと弁護人をつけている点には好感が持てた。たまには国も褒めてあげよう。

Twitter より再構成)