シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

キュウべぇが起こしたバイオハザード

 
 一昨日書いた「我欲と暁美ほむら」という文章に、以下のようなブックマークがついていた。

キュウべぇの魔法少女選定も利他的な人間をあえて選んでいるように見えてくるんだよなあ。自分のための奇跡を願える人間は魔女化しない気がする。

http://b.hatena.ne.jp/yajicco/20131107#bookmark-168104270

 私も全く同じ前提を考えていた。で、先日、生物学に詳しい方と魔法少女談義をしている時に、ふと、以下のようなフレーズが口から飛び出した。
 

 
 そうだ、『叛逆の物語』で描かれていたキュウべぇって、要はバイオハザード起こしちゃったんじゃないか。
 
 
 TV版魔法少女『まどかマギカ』のキュウべぇは、まるで養豚業者のようだった。少女と名付けられた、見所のある子豚を探し出しては拐かし、魔法少女として育て、希望から絶望にたたき落としてエネルギー源にしていたのだった。魔法少女の養殖と屠殺は、彼らにとって割の良い仕事だったらしい*1

 
 対して、『叛逆の物語』の世界では、当初、魔法少女に魔獣を狩ってもらうことでキュウべぇはエネルギーを得ていた。TV版最終話でキュウべぇが吸い込んでいた、ペレットのようなものがそうだろう。まどかによって世界のルールが変わり、円環の理によって魔法少女が消滅するようになってしまった以上、TV版のような魔法少女の養豚産業は成立しない。だから、キュウべぇは「円環の理」「魔女化」といった仮説に興味を持つことこそあれ、実際には[魔法少女→魔女]というエネルギー採取からは遠ざけられていた。
 
 でも、キュウべぇは血も涙もない「そういう連中」だから、エネルギー効率の良さそうな方法には目がない。
 
 ほむらから聞き知った仮説を実証し、さらにエネルギー効率の良い方法をキュウべぇは模索したがっていた。魔法少女を魔女に育てることでエネルギー源に出来るなら、魔法少女に魔獣を退治して貰う手法よりずっと効率が良いかもしれない――合理主義者にして効率厨たるキュウべぇ達にとって、効率アップの可能性は見逃せないわけで、早速彼らは「実験」を開始した。ほむらというサンプルを実際に魔女化してみるプロセスを、彼らは実験室で観察してみようと企てた。凝った実験装置をつくり、仮説の検証を開始した。
 
 ところが、養豚場の豚は、安全ではなかった!仮説どおりに絶望すると思いきや、突然変異を起こして襲いかかってきたのである。
 
 TV版のキュウべぇは、エゴイスティックな願いをせず、友達のために、家族のために、何処かの誰かのために奇跡を祈るような無垢な少女を見繕い、その事前評価に合格した“安全な”少女だけを拐かして捕食していた。こうしている限りは、家畜が自分達に歯を剥き出しにしてくる心配も無い。放っておいても魔法少女は絶望し、深く希望し深く絶望するほどエネルギーが手に入る、それも安全にだ。献身的で無垢な少女だけを拐かす――これが、養豚業者としてのキュウべぇなりのフィルタリングだったとも言える。
 
 ところが暁美ほむらは、そうではなかった。度重なる時間遡行と、他の魔法少女達とのコミュニケーションを繰り返してきた彼女は、エゴに目覚めてしまった。フィルリングを突破されたキュウべぇに、なすすべは無い。「わけがわからない」まま、飼い豚に手を噛まれ、身ぐるみ剥がされ、ボロゾーキンになるほかなかった。あるいは、格下の生物と思って油断していたのか。
 
 キュウべぇを捕食者、魔法少女を被捕食者として考えると、案外、捕食者が被捕食者から身を守るためのバリアーとは儚いものだったのかもしれない。そしてキュウべぇが合理的でどれも同じクローンだからこそ、何匹ものキュウべぇが「わけがわからない」まま搾取されるしかなかったのかな、とも思う。人間をはじめ、生物個体のように個体間のばらつきがあれば、非効率ではあってもこうはならなかった筈だ。数割のキュウべぇがほむらに搾取されたとしても、残り何%かのキュウべぇはエゴ丸出しの魔法少女に対抗できる性質を持っていて、それがほむらの跳梁を許さなかったかもしれない。いや、二次創作的に考えるなら、そういうエゴ魔法少女に免疫を持ったキュウべぇ個体が、これから逆襲に出るのかもしれないが……。
 
 もちろん、こういうのは『叛逆の物語』のマトモな「解釈」たりえるものではない。でも、こういう連想を引き出すような暗喩があちこちに埋め込んであるのが『まどかマギカ』であり、最近は、ほかの深夜アニメもだいたいそんな風につくってあるようにも思う。これからも、くだらないお話をどんどん楽しもう。
 

*1:比喩としては、養豚よりもウナギの養殖のほうが比喩としては正確かもしれないが