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iPhoneを製造する中国の工場に潜入したアメリカの大学院生がその労働環境を赤裸々に告白


AppleのiPhoneは大手EMSが中国に構える工場で生産されています。iPhone製造工場では、就労環境の悪さがたびたび問題になっており、そのたびにAppleは火消しに追われ、事態の改善を約束する、というのがお決まりの流れです。アメリカの大学院生が身分を隠して、中国にあるiPhoneの製造工場に潜入して期間工として働き、iPhone製造工場の実態を赤裸々に語っています。

中国 iPhone工場の内側 —— ニューヨーク大学の学生が見た「ネジをつける労働者たち」 | BUSINESS INSIDER JAPAN
https://www.businessinsider.jp/post-1703

アメリカのニューヨーク大学大学院に通うDejian Zengさんは、2016年の夏にAppleからiPhoneの製造委託を受けるPegatronのChangShuo工場に潜入して期間工として働きました。Zengさんの目的はiPhoneの製造工場の労働環境を自分の目で確認して、そこに横たわる中国人労働者の抱える労働問題を確認すること。ChangShuo工場の労働環境の悪さが2014年、2016年にメディアで報じられたことからAppleは改善を約束したため、実際に問題が解消されているのかに焦点を当てて働くことにしたそうです。


ZengさんはBusiness Insiderの取材に応じて、iPhone製造工場での労働環境を赤裸々に告白しています。なお、Business Insiderの事前取材に対してPegatronはコメントを拒否しましたが、Appleは「ChangShuo工場で16回監査を行っており、99%の労働者の労働時間は週に60時間未満であり、Apple製品を組み立てている労働者の平均労働時間は週に43時間だ」と回答したそうです。

◆採用試験
ChangShuo工場に到着したZengさんは、工員に応募する人たちの作る長い列を目にしました。列が進みZengさんの番になると、採用担当者は手を見せるように告げたとのこと。指の欠損がないか、作業に支障をきたさないかのチェックが終わると、アルファベットを朗読するテスト。これは、組み立てラインでは「E26」というように、英語の文字を使うからだとこと。なお、アルファベットが読み書きできない人も、その場で教えてもらうことで採用されていたそうで、工員の採用テストのハードルは非常に低く、望むものは雇ってもらえる状態だったとZengさんは述べています。


窓口での簡単な試験をパスすると指紋を取って身体検査に進みますが、なんと身体検査は有料で70元(約1100円)支払う必要があったとZengさんは話しています。お金がない人は誰かからお金を借りて身体検査を受けることもあるそうです。ちなみにお金を徴収される前に、「もし妊娠していたり、10センチメートル以上の刺青が入っている場合、工場に入ることは許されない」と医師が告げたそうで、思い当たる人はこの段階で列から離れます。

予防接種を受けることも義務づけられていましたが、100人以上の人がいる大部屋で、HIV患者を想定した「免疫系の問題が進行中かどうか?」というような質問をされることがあったそうで、プライバシー侵害ではないかとZengさんは問題点を指摘しています。


身体検査もパスし、顔認証の登録も終わると安全教育と給料に関するトレーニングが行われます。残業、社会保障、モバイルプラットフォーム、WeChatに関するスライドはあらゆる範囲をカバーしていたそうですが、「説明は非常に速いので、最大限の注意を払っていても完全には理解できませんでした」とZengさんは述べています。

◆寮生活
労働者のほとんどは工場の敷地の外になる寮で生活をします。Zengさんは8人部屋で生活しており、1つしかないシャワールームを共用していたそうです。なお、シャワーは運が良ければお湯が出ることがあり、運が悪いと水さえ出ないとのこと。

寮にはWi-Fiはあるものの、仮想コインを購入することで使える有料制。100コインが5元(約80円)で24時間Wi-Fiを使うには20コイン(約16円)かかります。インターネット以外にもネットカフェでビデオゲームをしたり、映画を見たり、電話で話をしたりして過ごすそうですが、寮に帰る頃には疲れ果てていて、たいていの人は1本の映画を見るのみで、眠るのが日課だとのこと。


Zengさんの寮は工場から自動車で約10分の距離にあり、工場への通勤はシャトルバスを利用していました。働きはじめてすぐの頃は夜勤を担当していたZengさんは、午後6時か6時半に起きると7時にシャトルバスに乗り、7時15分に工場に着いて7時半から作業が始まるというスケジュールだったそうです。なお、寮は強制ではなく、恋人や家族同伴の人は工場近くにアパートを借りることも可能でしたが、家賃は高価だとZengさんは述べています。

◆製造ラインでの作業
ZengさんはChangShuo工場のFATPと呼ばれる最終組み立てラインに割り当てられました。組み立ての最終工程を担当する部署(Station)で、ライン上を移動するiPhoneのハウジング(筐体)に1本のネジを取り付けるのがZengさんの与えられた仕事。はじめの数日間は流れるスピードに追いつくのに必死だったZengさんでしたが、来る日も来る日も1本のネジを締め続けるうちにペースがつかめるようになり、次第に余裕ができてきたそうで、最終的には目をつぶていてもネジ止めができるレベルになったとのこと。すると作業は退屈なものに変わり、時折、作業員同士でおしゃべりをすると、監視するラインマネージャーに「声を控えるように」と注意されるそうです。

最初はiPhone 6のスピーカーの固定作業を行っていたZengさんはその後カメラのプロテクター部分の作業に移り、2016年8月以降はまだ発売前のiPhone 7の製造に関わりました。発売前のiPhone 7はまだ試作機段階で、ラインは専用のものが構築され、作業もまったく別物だとのこと。iPhone 7の製造の様子はペガトロン社員が「クライアント」と呼ぶ、Apple社員が監視しており緊張していたそうです。

作業は1日12時間でたった5台の電話機を作る作業の一部を受け持つのみで、作業が終わるとほぼ2時間を何もすることなく待つということもあり、労働者はみな作業を拷問だと感じていたそうです。睡魔に襲われて寝てしまうこともよくあり、ラインマネージャーの足音を感じる度に「ダメだ、ダメだ、ダメだ」と言い自らを覚醒させていたZengさんでしたが、眠っているのを見つかり、「立っていなさい」と座ることも許されなかったと語っています。

◆食事
作業は2時間連続して働くと10分間の休憩をとることが許されます。しかし、夜勤は睡魔との戦いで、多くの人がつかの間の休憩時間でも眠るとのこと。4時間働くと50分の食事休憩があり、工場で働く全員が巨大な食堂で食事をとります。食事は野菜、肉、パン、麺類などがあり、金額は料理によって異なりますが、おおむね5元(約80円)から8元(約130円)の価格だとのこと。食事の品質について聞かれるとZengさんは、「とても高品質とは言えません。例えば、鶏肉では胸肉、もも肉を見ることはありません。いつも首や他の部位で識別できないような肉です。しかし、作業員はとても空腹なのでどんなものでも食べられるし、なにより心身を正常に保ってくれます。良いことだとは思いませんが、他に選択肢はありません。」と答えています。

なお、工場の敷地内には仕事の後に食事を取るレストランもあるそうですが、20元(約320円)と非常に高い料金となっているそうです。


◆同僚
研修や寮で共同生活を送るうちに友人ができたZengさんは、よくある固定観念が間違いだと感じたとのこと。Zengさんは「彼らとは中国国内の南北関係や米中関係、南シナ海の外交問題など、その時点でのニュースについて話しました。また、エンターテインメントの話題や、有名人などのゴシップについても話しました。時々、アメリカの歴史について話すことさえありました」と述べ、アメリカ人の多くが中国のiPhone工場で働く工員を無教養だと考えがちですが、決してそうではないと語っています。

そして、自分たちが毎日行っている作業は「iPhoneを作る」行為であることも正しく認識しており、一部のAppleファンとはAppleの歴史やデザインについて語りあうこともできたとのこと。ただし、iPhoneを所有する人はほとんどおらず、「多くの人がOppoなどの中国製スマートフォンを使っていたそうです。

◆残業と給料
1日の基本的な労働時間は8時間ですが、仕事の終わる時間は残業次第だったとZengさんは述べています。たいてい残業は月曜日から木曜日は2.5時間、金曜日と土曜日は2時間で、残業がある日は工場で合計12時間すごすことになるとのこと。Zengさんによると、残業には平日は1.5倍、土曜日は2倍の賃金が支払われており、Appleはルールを守っているとのこと。しかし、大きな問題は残業が半ば義務化されており、たとえ疲れていても断ることができない点だとZengさんは述べています。

ちなみにZengさんの同僚の一人は、「iPhone 7の大量生産が始まると日曜日に働き11日連続勤務をした」と話す人もいたとのこと。このような休みなしの勤務はAppleの就業ルールに完全に違反していますが、同僚によると普段と同じようにタイムカードは通されていたそうで、工場がどのように処理していたかは分からないとZengさんは述べています。

断ることが不可能な残業を含めて、Zengさんには最初の1カ月で3100元(約4万9000円)の給料を支給されました。なお、Zengさんによると工員はみな同じ額を与えられていたはずだとのこと。iPhoneを製造している労働者は、2カ月間一銭も使う事なく給料を貯めることで、ようやくiPhoneを手にすることができるというわけです。

「劣悪な労働環境を問題視する意見についてどういうアドバイスをするか?」と問われたZengさんは、「Apple製品のボイコットを呼びかけるのは現実的ではありません。Apple製品の購入を止めることは非常に難しいでしょう。もっと、このことについて話し合うべきです。ソーシャルメディアに投稿したり、日夜、同僚と話しあったりするべきです。ちょうど今、手にして使っているiPhoneは人間の手で作られているのです」と答えています。

・つづき
iPhone製造工場に潜入した学生が「なぜアメリカにiPhone製造を呼び戻せないか」を語る - GIGAZINE

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in メモ,   モバイル,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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