ガリバーインターナショナル、三菱UFJインフォメーションテクノロジー、リコーリース、野村総合研究所の4社のペーパーレス化の取り組みを、第2回第3回で詳しく紹介した。ここからは、実際にペーパーレス化に取り組む際に覚えておきたいポイントを六つ解説する。

 ポイント1からポイント4までは、ペーパーレス化の推進ツールとしてのiPadの運用管理に関するものだ。具体的には、iPadを複数台まとめて導入するときの各種設定作業を効率化したり、デジタル化したドキュメントを上手に活用したりするノウハウを紹介する。

 社内のペーパーレス化を徹底させるためには、iPadとは直接は関係のない部分にも考えておくべきことがある。一つは、ポイント5で解説するドキュメントデータの保存・管理方法。さらにポイント6として、紙ができるだけ発生しないようなオフィス環境やワークスタイル(働き方)が挙げられる。

 ポイント1~6を押さえれば、iPadに代表される“タブレット端末時代”のペーパーレス化実現手段の全体像を把握できるだろう。今回はポイント1~4を、次回はポイント5~6を紹介する。

ポイント1:導入時の設定作業を効率化(キッティング)

 iPadを個人で使う場合、最初に「iTunes」(アップルのコンテンツ管理ソフトウエア)をインストールしたパソコン(MacまたはWindowsマシン)にiPadを専用のUSBケーブルでつなぎ、アクティベーション(正規品であることを認証し、利用可能にする処理)やアプリケーションのインストール、データの同期などをする。

 これに対して企業ユーザーが10台、100台、1000台と多数のiPadを一括導入する場合も、基本的には同じ作業が必要になる。インターネットにつながっているパソコンにiPadを1台ずつ接続してアクティベートする手間は、どうしても避けられない(図1)。こうした作業は「キッティング」と呼ばれる。iPadの導入台数が数十台程度と少なければ情報システム部門が総出で対応すればよいが、数百台以上にもなる場合には外部のキッティングサービスを利用する手もある。

図1●企業向けに多数のiPadを導入する手順
図1●企業向けに多数のiPadを導入する手順
セキュリティ設定など一貫したポリシーを多数のiPadに導入する場合、「iPhone構成ユーティリティ」を利用する。しかし、これだけでは紛失・盗難時のデータ保護や設定の動的変更などができないので、別の手段が必要になる。
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 キッティングの次に必要になるのは、様々な設定をiPadに適用するための「構成プロファイル」を作成・配布する作業である。構成プロファイルとは、セキュリティ設定、VPN(仮想プライベートネットワーク)や無線LANの接続設定、アプリケーションの利用制限など、iPadを実際に使うために必要な設定情報を格納したファイルのこと。図1に示したように「iPhone構成ユーティリティ」というソフトウエアを使って構成プロファイルを作成し、iPadにインストールすることで、統一した運用ポリシーを適用できる。

ポイント2:設定変更をリモートで一元的に(MDMサービス)

 前述のようなiPhone構成ユーティリティと構成プロファイルを使った標準的な方法では、管理者がiPadに設定を一元的に反映できる機会は、最初の接続時しかない。iPadを多数のユーザー(社員)に配布した後で設定を変更するとなると、管理者がiPadを回収して構成プロファイルをインストールしたり、構成プロファイルを配布してユーザーにインストールさせたりといった、個別の対応が必要だ。当然、運用管理の負担は大きくなる。

 そうしたiPadの運用管理の負担を軽減する「MDMサービス」が登場している。これは、複数のiPadをリモートで一元管理できるサービスである。国内ではアイキューブドシステムズが、2010年11月に「CLOMO MDM」と呼ぶサービスをいち早く開始した(図2)。第2回で詳しく紹介したiPadの先進ユーザー、ガリバーインターナショナルも、このサービスを採用している。

図2●クラウド型のMDMサービス
図2●クラウド型のMDMサービス
iPadを外部サーバーから一括管理するクラウド型の一括管理サービスが登場している。例えば、アイキューブドシステムズのサービス「CLOMO」が2010年11月に始まった。また、インターネットイニシアティブ(IIJ)の「Smart Mobile Manager」が2011年4月中に始まる予定。iPad以外にもiPhoneやAndroid端末も管理できる。
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 CLOMO MDMはクラウド型のサービス。ユーザー企業は自社でサーバーを用意しなくても、このサービスを利用できる。主な機能は、リモートからのセキュリティ設定の登録や変更、データの削除や強制ロック、端末情報の取得など。料金は、初期導入費が2万円、月額利用料が1台当たり300円となる。このほか、アップルの開発者向けプログラム「iOS Developer Enterprise Program」(3万3800円/年)に参加する必要がある。

 インターネットイニシアティブ(IIJ)も2011年4月に、クラウド型MDMサービス「Smart Mobile Manager」の提供を始める予定だ。料金などの詳細は未定で、現在は無償で試験サービスを提供している。同社の強みの一つは、iPadの法人向け販売の1次代理店であり、オプションとしてキッティングサービスを提供していること。ユーザー企業は同社に対して、iPadの購入からキッティング、構成プロファイルの作成・配布、運用管理までまとめて依頼できる。

 ビズモバイルもMDMサービス「BizMobile for iOS」を4月に開始する予定である。同社は、クラウド型サービスだけではなく、オンプレミス型(ユーザー企業が自社のコンピュータにソフトウエアを搭載して運用する形態)でも提供する予定だという。