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激変するソーシャルゲーム市場、強者連合の意味

かすむ公取委判断 主役交代の足音も

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グリーの首脳陣は、さぞかしほぞをかんだことだろう。SNS(交流サイト)の友人関係をゲームに反映する「ソーシャルゲーム」で国内最大手のディー・エヌ・エー(DeNA)が、家庭用ゲーム機の世界で「風雲児」と呼ばれるヒットメーカーとの提携を手中に収めた。

2700万人以上の会員を抱える「Mobage(モバゲー)」のDeNAと、世界累計販売が1200万本を超える人気シリーズ「レイトン教授」を手がける大手ゲームソフト会社、レベルファイブ(福岡市)が6月21日、包括的な提携の会見を開き、戦略を明かした。

両社はまず、レイトン教授とモバゲー最大の稼ぎ頭「怪盗ロワイヤル」の要素を掛け合わせたソーシャルゲーム「レイトン教授ロワイヤル」を今秋、国内のフィーチャーフォン向けに提供。順次、スマートフォン向け、海外向けと展開し、別のタイトルの開発も模索する。ソーシャルゲームは基本的に無料で遊べるが、有利に進めるためにはアイテム課金が必要。価格体系など詳細は今後、詰めていくとする。

この強者連合は、ソーシャルゲームの2大巨頭の戦いが「大手争奪」という新たなフェーズに突入したこと、そして広いゲーム業界の勢力図が塗り変わりつつあることを象徴する。

排除措置命令にしらけ気味の業界

DeNAといえば、9日に公正取引委員会から「モバゲーにゲームを提供する開発会社に圧力をかけ、競合の『GREE』を運営するグリーとの取引を妨害した」として排除措置命令を受けたばかり。だが、行為から1年足らず、立ち入り検査から半年で、市場の競争環境は激変した。

「モバゲーの排除措置命令? あぁ、出てましたね。でも、業界では話題にもなっていないですよ。そんなことあったねというくらいで、今はそれどころではない。排除措置命令の内容は、遠い昔の話で、あの時とは状況が全然違っていますから」……。

DeNAが排除措置命令を受けた翌週、DeNAとグリーの両社にゲームを提供している中堅の開発会社の役員は、こう話した。「あの時」とは、昨年夏ごろの話だ。急成長する新興産業の激流をさかのぼり、時計の針をさらに半年前の昨年1月に戻す。

DeNAとグリーの両社はしばらく、それぞれ内製のソーシャルゲームで激しいつばぜり合いを演じていた。しかし、2010年1月、DeNAがモバゲーを外部の事業者にも開放し、有料課金型のアプリケーションを提供できるようにする「オープン化」に踏み切ると、両社は業界を巻き込んだ戦国時代に突入する。

オープン化とはすなわち、平均で課金売り上げの3割を手数料として得るプラットフォームビジネスを第2の収益源として育て、「プラットフォーマー」となる戦略。その繁栄は、収益力の高いソーシャルゲームをいかに外部から調達するか、言い換えれば優秀なパートナーをいかに取り込むか、にかかっている。DeNAはオープン化から半年後の7月までに、ソーシャルゲームを154社350タイトルへと一気に増大させた。

グリーの巻き返しに苛立ったDeNA

一方、出遅れたグリーは10年6月、スクウェア・エニックスやバンダイナムコゲームスといった大手による著名ゲームのソーシャル版を中心に、約30社35タイトルでオープン化を開始した。当時、グリーの田中良和社長は「誰もが知るメジャータイトルを厳選した。少数精鋭でやる」と語り、中小開発会社のタイトルを数多く集めるモバゲーとの戦略の違いを強調していた。

だがこの時、大手にはまだソーシャルゲームという新領域で勝負するだけのノウハウも経験も備わっておらず、さほど収益をもたらさなかった。自ら「狭き門」としていたグリーはプラットフォームを広く中小の開発会社にも開放するべく、8月に「オープン化第2弾」を計画。モバゲーの外部パートナーを含め、広範囲に声をかけ始める。これにDeNAは苛立った。

詳細は別掲記事に譲るが、要するにDeNAは昨年7月ごろ、モバゲーのパートナーとなっていた約40社のゲーム開発会社に、「モバゲーかGREEか立場を明確にしてほしい。GREEに出すのだったらモバゲーからは去ってもらう」と選択を突きつけた。

要請を断り、GREEのオープン化第2弾に参加した数社の開発会社には、モバゲーのトップ画面などからその会社のゲームへユーザーを運ぶ「導線」を遮断するなど、報復ともとれる措置を講じていた。グリーに先行して手塩にかけて育んだパートナーがモバゲーでの経験や実績を手土産にライバルへなびくのは看過できないという理由だ。

一方開発会社からすれば、さらに稼げる市場があるのに行くなと脅しをかけるとはひどい、という論理。「やりすぎだ」と憤慨した開発会社や相談を受けたグリーによって問題が表面化し、昨年12月の公取委による立ち入り検査に至った(「モバゲー、公取委立ち入りの深層」を参照)。

行為の悪質性を重視

当初、公取委は取引相手の事業活動を不当に拘束する「拘束条件付き取引」など複数の禁止行為を視野に入れていたが、DeNAの行為が悪質であること、開発会社だけではなくライバルのグリーにも悪影響が及んでいたことを重視。今年6月、DeNAの行為が独占禁止法が禁じている「競争者に対する取引妨害」にあたると判断した。

担当した公取委の審査局第五審査は「開発会社に対しては半分脅しみたいみたいなことをしていた。40社のうち少なくとも過半数はグリーにゲームを提供することを断念しており、グリーの営業戦略にも影響を与えていた」と説明する。実際、グリーが8月に新たに公開できた他社製のゲームは21タイトルにとどまっている。

ただし、これは昨夏の限定された期間での話。DeNAの行為も公取委の排除措置命令も、結果としてソーシャルゲームをめぐる市場形成にほとんど影響を与えないほど、競争環境はめまぐるしく変化した。DeNAは10年12月の立ち入り検査直後に、報復措置を改めた。だが、それまでの半年間でソーシャルゲームは世の中にあふれかえったのだ。

昨夏の時点でDeNAが圧力をかけたのはモバゲーに参加するパートナー約150社のうち、中小の開発会社40社。パートナー数は年末までに2倍の300社以上まで膨らんでいる。一方グリーも、GREEのプラットフォームに参加するパートナーを年末までに約240社へと急伸させた。

半年でレッドオーシャン

10年末時点のゲームタイトル数は、モバゲーが約750本に対してGREEは約560本。さらに3カ月後の11年3月末までにGREEのタイトル数はモバゲーの869本に肉薄する800本以上となった。出足の遅さやDeNAによる妨害をものともしないかのような勢い。主に携帯電話の公式サイトなどでゲームや占い、着メロといったコンテンツを提供していた開発会社が、「稼げる」ソーシャルゲーム市場へと雪崩を打って流入した証左である。

わずか半年でまさに血の海、レッドオーシャンへと変貌したソーシャルゲーム市場。ここで生き残るためには、プラットフォーマーと仲良くし、自社のゲームをなるべく目立たせてもらう方が得策と、結局は自らどちらかの陣営を選択する開発会社が相次いだ。

「ソーシャルゲーム市場には数百社が参入しているが、勝ち組と負け組の差がものすごく開いている。モバゲーであれ、GREEであれ、現状はどちらかに経営資源を集中させているところが勝ち組となっている」。昨夏以降、モバゲーに経営資源を集中させると決めたKLab(クラブ、東京・港)の森田英克取締役は、こう指摘する。確かに、モバゲー、GREEの人気ランキングがこれを証明している。

例えば、モバゲーのランキング(6月15~21日、男性)で11位と20位に食い込むGMS(東京・豊島)は、これまで9本のソーシャルゲームを制作しているが、そのすべてがモバゲー向け。KLabも、「真・戦国バスター」をはじめとする複数タイトルでランクインの実績を残し、現在も月間課金売り上げが複数で1億円を超えるなど好調を維持する。DeNA単独の内製ゲームが20位中12タイトルを占めるが、パートナーのゲーム全体がもたらす課金収入は内製のそれに匹敵するほどに増えており、こうしたパートナーが底上げに貢献している。

一方、GREEのパートナーのみのランキング(6月21日時点)でそれぞれ3タイトルが上位20位にランクインしているドリコム、ボルテージ、gumi(東京・新宿)は、携帯電話向けソーシャルゲームに関して、ほぼ「GREE専業」と言っていい。結果として、どちらかの陣営に集中する開発会社が強い。裏を返せば、どちらかに集中しなければ、レッドオーシャンで勝つことはできないということだ。

公取委の立ち入り検査から半年。じつは、ランキングにはもうひとつの変化が現れている。大手の台頭だ。

存在感示す「ガンダム」や「ディズニー」

モバゲーのランキングを見るとトップ20のうちDeNA単独で作った内製ゲームが12タイトルも占め、依然として圧倒的な強さを維持する。だが、残る8枠のうち5タイトルは中小のソフト開発会社ではなく、既存の娯楽産業で実績のある大手によるものだ。

任天堂やソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)を中心とする家庭用ゲーム機の市場に長年、ゲームソフトを供給し続けてきた大手ゲームソフト会社は、当初「ソーシャルゲームに弱い」とされていた。ところがこの1年でキャッチアップし、存在感が高まっている。

モバゲーでは、コナミデジタルエンタテインメントの「戦国コレクション」やコーエーテクモゲームスの「100万人の信長の野望」がトップ20圏内で安定的な人気を誇る。

バンダイナムコゲームスがDeNAと共同開発した「ガンダムロワイヤル」のように、ゲームのソーシャル化とキャラクター部分を分業して成功した例もある。10年12月に登場したガンダムロワイヤルのユーザー数は配信開始からわずか6日で100万人を突破し、業界を驚かせた。同タイトルは現在でもランキングの3位につけている。

注目すべきは、ウォルト・ディズニー・ジャパンの「ディズニーマイランド」や、フジテレビジョンがDeNAと共同開発した「大奥」といった、非ゲーム産業からのタイトルが上位に位置していることだ。GREEでも大手はその存在を光らせる。

開発会社より、有名ブランド

コナミはGREEのパートナーのランキングで1位と2位を独占。モバゲーに比べると中小の開発会社の比重が高いが、トップ20にはコーエーテクモやセガも食い込む。グリーは非ゲーム産業のブランド開拓にも余念がなく、今年2月に業務提携した角川グループホールディングスの大ヒットアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」のソーシャルゲームを6月に配信開始したばかり。今夏には、人気番組「料理の鉄人」をテーマとしたゲームをフジテレビと共同で提供する。

「1年前はソーシャルゲームを作れば作るほど儲かる状況。でも今は過当競争になり、開発会社1社1社の重要度が希薄になってきた。結局、小さなゲームがたくさんあっても千三つの世界。プラットフォーマーが今欲しいのは、ブランドがあるビッグタイトル。何だかんだいって、無名ブランドより、ガンダムやディズニーの方が堅いことがわかってきた」

ソーシャルメディアに関するコンサルティングを手がけ、ソーシャルゲーム市場も俯瞰しながら分析を続けるループス・コミュニケーションズ(東京・渋谷)の斉藤徹社長は、こう話す。

いかに多い固定客を持つ有名ブランドを手に入れるか。今やプラットフォーマーの照準は、ソーシャルゲームを矢継ぎ早に投入してくれる開発会社より、有名ブランドに向けられ、水面下で激しい奪取合戦が繰り広げられている。その象徴が、レベルファイブの「レイトン教授」というわけだ。

レイトン教授シリーズは謎解きをしながらストーリーを楽しむカジュアルなゲーム。任天堂の携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」向けの4作品はいずれも国内外で大ヒットとなり、累計で1200万本以上を出荷。今年2月に発売した「ニンテンドー3DS」向けの最新作も国内累計が約30万本と、3DS向けソフトの柱となっている。

レベルファイブがDeNAを選んだ理由

このキラーコンテンツを手に入れたDeNAは、1000万人以上が遊ぶ自社のキラーコンテンツ、怪盗ロワイヤルが得意とするSNS上の友人とのバトルや協力といったゲーム性を組み込み、ソーシャルゲームに仕立てる。

レベルファイブの日野晃博社長が「お互いの一番強いブランドを持ち寄った」と言うように、出せば売れる「鉄板」同士のタッグ。ネット上では早くも「大ヒット間違いなし」の声があがる。特に、レイトン教授シリーズには1本約5000円のソフトを購入する一定の固定客がついており、DeNAとしては課金前提の新規ユーザーを取り込む起爆剤として、是が非でも自陣に取り込みたかった。狙っていたのはDeNAだけではない。

「僕はグリーさんも含め、いろんな会社と同時に一緒にやる可能性を模索していた。その上で、南場社長の人柄と、会社の空気、社風が近かったことから、DeNAさんに決めました」。日野社長はそう明かす。今後、グリーと組む可能性はあるのかとの問いには「ゼロではありませんが、今は優先的にDeNAさんとやっていくと決めている」と答えた。

開発会社を囲い込む時代から、大手の強いブランドを一本釣りする時代へ――。1年前にソーシャルゲーム市場の中心にいた開発会社にしてみれば、数百という中小の相次ぐ参入で血の海に放り出され、大手の参入でさらに状況は悪化。プラットフォーマーと戦略的なパートナーシップを組まなければ生き残ることは難しい。だから、どっちを選ぶかでもめていたあの頃が「遠い昔の話」となり、排除措置命令にもしらけムードが漂う。

法曹界から懐疑的な声

法令違反について、DeNAは真摯に反省し、真のグローバル企業となるために襟を正さなければならないのは疑いようもない。が、競争環境が短期間であまりに激変したために、DeNAの行為も排除措置命令も、両社の営業戦略や市場に大きな影響を及ぼすことはなかった。もっとも、公取委が「取引妨害」を適用した判断自体に、法曹界からは疑問の声もあがっている。

「DeNAが開発会社に対して排他的に自分とだけ取引することを要求したわけだから、今回のようにぱっと見て(拘束条件付き取引の中の)排他条件付き取引のような事案を取引妨害とするのは、ちょっと違和感を感じる。取引妨害は、マーケットシェアが高いか、実質的な被害を被ったかを考慮せずに、妨害があったというだけで違法にできる。違反の範囲が際限なく広がってしまう問題があると、多くの法学者も指摘しています」

独禁法に詳しいアンダーソン・毛利・友常法律事務所の植村幸也弁護士は、こう話す。事実、独禁法の研究を続けている東京大学大学院法学政治学研究科の白石忠志教授は、今回の排除措置命令書を読んだ上で、こう説明した。

「命令書には、公正競争の阻害性があるとする排除効果が示されていない。つまり、開発会社の少なくとも過半がグリーを通じてゲームを提供することが困難となった、というだけであって、グリーの事業活動が困難となったとは言っていない。公取委としては、取引妨害を用いることでその点を取り繕うことが可能となる。私は、そのような使い方に賛成ではありません」

崩れつつある垣根

法解釈はさておき、開発会社から大手へシフトしたDeNAの移ろいは、あまりに流れが速い成長市場の競争を規制することの難しさも露呈したといえる。

DeNAとレベルファイブの強者連合には、もう1つ、象徴的な意味がある。家庭用ゲーム機の世界とソーシャルゲーム業界とのあいだの垣根が崩れつつある、ということだ。

レベルファイブはゲーム開発を受託する「ディベロッパー」として、スクウェア・エニックスの人気ゲーム「ドラゴンクエスト」のシリーズ8作目と9作目を手がけた実績がある。04年に発売された8作目は、国内で発売されたプレイステーション2向けソフトとして最多となる約370万本が売れた。09年7月に発売されたDS向けの9作目は、発売から5カ月でシリーズ最高の約415万本を突破。社会現象にもなった。

07年にレイトン教授シリーズを投入してからは自社ブランドで販売する「パブリッシャー」としても台頭。DS向けソフトで空前のヒット作となった「脳トレ」シリーズにヒントを得たものだが、ストーリー部分の声優に大泉洋や堀北真希を起用するなどした新たな世界観が、ゲームから離れていた一般ユーザーに広く受け入れられた。

DS向け人気サッカーゲーム「イナズマイレブン」シリーズでは、マンガ雑誌やテレビアニメでもキャラクターを同時展開。「ニノ国」ではスタジオジブリが初めてゲーム制作に関わるなど、ゲーム業界の常識を打ち破る風雲児として、家庭用ゲーム機の世界でも引っ張りだこだ。この会社が、任天堂のプラットフォームで育んだ人気ブランドをモバゲーに持ち込んだ意味は大きい。

日野社長は、「世界で大きな利益を得る、大きな結果を残すことを最終目標としたい」と話す。つまり、モバゲーを「世界で稼げるプラットフォーム」として認識しているのだ。

主役交代の足音

10年は「ガラケー」から「スマホ」へ移行する節目の年となった。ガラケー専門でやってきたDeNAとグリーにとってこの変化は死活問題となる。両社は昨夏以降、このスマートフォンに対応する新プラットフォームの構築を最重要戦略に据え、全神経を注ぎ込んできた。同時にそれは、海外市場への参入も意味する。

ガラケーとは違い、スマートフォンは米アップルの「iOS」や米グーグルの「Android(アンドロイド)」といった国際標準に収れんされる。多言語化さえ済ませば、国内向けのシステムだろうが容易に海外向けとしても利用できる。両社は欧米や中国におけるソーシャルゲーム関連企業の買収や提携も進めており、対象とする市場を国内のガラケーから世界中のスマートフォンへと一気に急拡大させるべく準備を重ねてきた。

その基礎固めを終え、6月25日で取締役に退く南場智子社長は「レベルファイブさんのゲームを世界に届ける」と最後の会見で自信をのぞかせ、大仕事を後任の守安功取締役に託した。

対照的に、任天堂やSCEといった伝統的なゲーム産業のプラットフォームを中心とする家庭用ゲーム機市場は下降の一途をたどっており、日野社長の発言はソーシャルゲームのプラットフォーマーがゲーム業界の主役になりつつあることを示唆しているとも言える。

むろん、家庭用ゲーム機の市場縮小とソーシャルゲーム市場の拡大に直接の因果関係が認められているわけではない。

娯楽産業全体の勝ち馬

任天堂の岩田聡社長は4月26日の決算説明会の場で「スマートフォンで遊ぶようになったのでDSでは最近遊んでいないという方が1人もいないとは申し上げませんが、統計的にみると有意な差はありません。逆に、有料でソーシャルゲームを遊んでおられる方は、DSの稼働状況がむしろ高いことがわかりました」と語った。

売り上げ規模にしても11年3月期、任天堂がソフト関連だけで4022億円の収入を得たのに対し、DeNAの連結売上高は1127億円と4倍近い開きがある。だが、かつて任天堂が「ゲーム人口拡大戦略」で従来のゲーム市場とは別の市場を切り開いたように、DeNAやグリーが、家庭用ゲーム機とは関係のないところでゲームを商材とした新市場を開拓しているのは事実。

しかも、ハードの開発に莫大な投資が必要なわけでもなく、季節要因に振り回されることもなく、四半期ごとに安定して右肩上がりの成長を続けている。直近の四半期、11年1月~3月期のDeNAの営業利益は、前年同期比60%増の157億円。同期間、年末商戦を終えた直後の任天堂の営業利益は、同80%減の122億円だった。

海外売上比率が8割を超える任天堂とは違い、DeNAやグリーはこれから海外を開拓しようというところ。成長余力は、明らかに伝統的なゲーム産業のプラットフォーマーを上回る。娯楽産業全体の勝ち馬とも言え、そこにレベルファイブが乗ったという事実は大きい。

問われるかじ取りの手練

携帯電話向けコンテンツを開発していた数百のプレイヤーに加え、伝統的なゲーム産業にどっぷりと浸かっていた大手ゲームソフト会社、加えて、テレビ局や有力ブランドまでもを巻き込みながら、世界獲りを目指すDeNAとグリー。そのライバル関係があってこそ、今の強い市場が生み出され、「日本発グローバル」を狙う土壌が築かれた。

国内で最も熱い「ライジングマーケット」の中心で戦う両社の競争環境は、今後も凄まじい速度で変化していくに違いない。世界では、さらに厳しい競争が待ち受けている。DeNAやグリーのみならず、ソーシャルゲームに関係するすべてのプレイヤーが随時、戦略転換を求められるのは必至だ。KLabの真田哲弥社長は、こう語る。

「狭い国内では、トヨタと日産を一緒に扱う販売店がないように、TOTOとINAXと平等に取り引きする工務店がないように、選択は得策だった。でも、スマートフォンという地殻変動が起き、グローバルを目指す今、もうモバゲーだGREEだと言っている場合じゃない。未曾有の国難を前に自民党か民主党で揉めている場合じゃないのと同じですよ」

米アップルはiPhone(アイフォーン)向けのアプリケーション販売サービス「AppStore(アップストア)」そのものを、ソーシャルゲームのプラットフォームへと変貌させようと機能改良を繰り返している。フェイスブック向けのソーシャルゲームで大成功を収めた米ジンガも、スマートフォン向けのプラットフォーマーとしての道を虎視眈々と模索する。中国にもDeNAやグリーと同じことを狙うIT企業はたくさんいる。

その混沌としたグローバルの渦の中で、ソーシャルゲームの激流とどうかかわっていくか。かじ取りの手練が、娯楽産業に携わる多くの企業に問われている。

(井上理)

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