3月11日午後、最初の大きな揺れの後、幼い子どもを連れたお母さんが、世田谷区のある商店街事務所に飛び込んで来た。聞けば、近くのマンションに越してきたばかりだとか。まだ親しい人もなく、買い物のときに目にしていた商店街の事務所にとっさに足が向いたらしい。

 余震が続く中で、老朽化したこの事務所は、彼女にとって何よりの安心感を与えてくれる場所だったのだろう。悲惨な震災が、期せずして商店街の役割を浮かび上がらせた。

サンチャ、シモキタ、ニコタマ、チトカラ
世田谷区は「山の手商店街」の宝庫

 小売店舗数1位、専門店数も1位、商店街数は大田区に次いで2位。下町と比べると、概して分が悪い山の手の商店街だが、世田谷区は個性と元気に溢れる商店街の宝庫である。

世田谷区の商店街――大震災を機にさらに絆が深まる「人と地域の結節点」

 横綱はサンチャとシモキタ。三軒茶屋はお洒落さと親しみやすさが絶妙にマッチし、若者のまち下北沢には創業のチャレンジが渦巻く。大関格にはニコタマとチトカラが控える。再開発が進む二子玉川は、今年3月新たな商業施設がオープンし、玉川高島屋との相乗効果で湧きかえる。千歳烏山は、地域通貨型のスタンプサービスの先駆者だ。パワーのニコタマに対し、いぶし銀の技が光る。

 地域に根付いた活動では、きめ細やかなコミュニケーションを信条とする下高井戸と、商店街活動から地域活動へと輪を広げる用賀が両翼だろう。イベントでは、梅丘の「キャッツハロウィン」と松陰神社通りの「幕末維新祭り」が、共に東京商店街グランプリで受賞の栄誉に輝く。キャラクターなら、ウルトラマンの祖師谷にサザエさんの桜新町。どの商店街も取り組みのユニークさ以上に、しっかりと実績が伴っている。

 そんな世田谷区の商店街を代表する言葉は、「手づくり」。手づくり菓子屋の店舗数、販売額ともに1位。手づくりパンのベーカリーは、販売額こそ2位ながら、店舗数は1位だ。統計では数が追えないが、有機野菜や自然食品の店も多く、商店街の必需品の感がある。