週刊ダイヤモンド「解雇解禁」(1)

連載の途中ですがちょっとお休みして別の話題。現在店頭で販売されている週刊ダイヤモンドの表紙に大書された特集は「解雇解禁 タダ乗り正社員をクビにせよ」。新幹線車中で読んでみましたので感想を。
内容はかなり多岐にわたっているのですが、前提が「日本では大企業正社員の解雇が困難である、それは法制度によって厳しく規制されているから」というレベルで議論されているので、いかんせん表面的で情緒的に流れている感が否めません。労働者にこれだけのものを求めている以上、そうそう簡単に解雇を許すわけにはいきませんよ、という考察が欠けているわけです。たとえば、最初のほうに経営者へのアンケート結果が紹介されていて、解雇規制の緩和の賛否については実に80%が「どちらともいえない」と回答しているのですが、その背景には「労働者は同じように働いてくれて、それで解雇だけはもう少しやりやすくなるならいいなあとは思うけれど、そりゃ無理だよね」という考え方もあるのでしょう。
法制度や統計についての混乱もあるようで、冒頭に労働者に相当の非があるにもかかわらず上司による指導の不在といった手続上*1の瑕疵をもって解雇不当とされた例を紹介し、それに続けて水町先生の「整理解雇はきわめて行いにくい」とのコメントが出てくるのはなんなんだろうという感じですし、女性のいわゆるM字カーブについては「雇用者に占める女性労働者の割合」と書かれていておいちょっと待てよという感じです。給与の比較なんかもこれ年齢(≒経験年数)や学歴の違いは考慮されているのかなあとかですね。
個別の記事をみると、「タダ乗り正社員」=フリーライダーの話がまず来ていて、「こういう人、いるよね」という感じのいかにもなダメ社員の類型が示されています。「こんな奴、クビにしろよ」という感情に訴える記事で、この手のビジネス誌ではこういう記事が需要されているのだろうなあというのはまあよくわかります。ただ、一般サラリーパーソンはともかく、人事管理の見地からは「こんな奴クビにしろよ」ですませるわけには参らないもの当然です。世の中で実態は記事にあるような「一部のタダ乗り社員」と「多くのまじめな社員」で出来上がっているわけではなく、多くの人はその間のグラデーションを漂っているのであり、今日のマジメ社員が明日のタダ乗り社員となる、あるいはその逆も多く起きているでしょう。それは社員本人の責任であることもあるでしょうが、企業、上司の「使い方」のゆえにそうなるということもあるでしょう。さまざまな従業員をその特性に応じてうまく使いこなし、できるだけ「マジメ」の方向へ引っ張っていくのが職場の管理職、あるいは人事管理の役割です。アメとムチの使い分けが求められる場面であり、「クビ」はその一つの手段ではあるでしょうが、かなりの劇薬であることは承知しておく必要があります。「降格」や「降給」であってもかなりの副作用をともない、安易に行えるものではありません。
次の派遣労働の記事はあれこれ書いてありますが、とりあえず程度の低い派遣業者が放置されているのが問題だというのはそのとおりだと思います。悪い業者を排除するルールを作り、違反した業者には強硬に対処することが重要です。記事は取締行政のマンパワーを増強することを求めていますが、これは質・量ともにでしょう。悪徳業者にはコワモテも多いでしょうが、これに毅然として対処できる質の高い取締行政を望みたいものです。後段では「同一価値労働同一賃金のしくみがない」と批判していますが、しかし派遣労働者と正社員はそもそも同一価値でないとすれば、そのしくみも不要になるわけで、ここにこだわればこだわるほど「壁を壊す」のは難しくなるでしょう。多様性を認め、多様な働き方を可能とすることで壁は確実に低くなるはずです。
次の最低賃金の記事は一般向け解説記事という趣で、単純な引き上げでも抑制でもなく、実態に応じた複眼的政策が必要というのはそのとおりでしょう。問題はその中身なわけですが。長くなってきたのでこれも続きます。連載の間に別の連載というのもいかがなものかとも思いますが。

*1:これが手続かと思われる向きもあるでしょうが、最終的に解雇に至ろうとする人事管理においては指導の実施とその効果の記録は不可欠の手続と申せましょう。