松尾昭典『ゆがんだ月』(1959)

芦川いづみのアイドル力が半端ない。自分が芦川いづみファンだからそう見えるのかもしれないが…。しかし芦川いづみのかわいさはいつの映画を見てもまったく古びない。例えば古い映画でかわいい女優さんを見たときにちょっと化粧が古臭いとか、眉毛が細い、太い、などファッションの流行があり、多少なりとも古臭いかわいさがどの映画にもつきものだけど芦川いづみにはそれを感じない。『ゆがんだ月』では芦川いづみ長門の兄貴の妹といった位置づけで、本人はヤクザ者ではなく曲がったものが大嫌いで長門に説教をたれるのだけど、長門はもうメロメロになっちゃう。

初めて神戸に降り立った芦川いづみの異物感は本当にすごい。その場がパッと晴れやかになり、まるでこの世のものとは思えない。本人は天然なんだけどあっという間に長門を虜にしてしまって、気がつけば長門は東京へ…。兄貴の法要(かな?)で長門が彼女の家にいったとき許婚の男が登場して長門はハートブレイク。完全にもてあそばれてしまっている。天然って怖いね、ほんと。長門はもともと南田洋子と付き合っているのだけど、芦川いづみに惹かれる長門を見てあんなかたぎと付き合える分けない、住んでる世界が違うんだと忠告されるんだよね。でも、南田も長門に首ったけなので追いかけていっちゃう。不意に現れたっ南田を見て長門も抱いちゃうんだよね。だらしがない男の話なんだよね。だから甘い夢見て制裁が下されるわけ。そんなこんなで最後には必死になって南田洋子を助けようとするんだよね、それじゃ遅いって話なんだけどたぶん丸く収まっちゃう。

何の話だっけな? そうそう『ゆがんだ月』の話なんだけど本当に面白かった。姫田真佐久のカメラはキレキレでロケーションもいいからかっこいいショット連発。神山繁の殺し屋も雰囲気がとてつもなくいい。何がいいって神戸から東京へ逃げた長門を殺すために雇われているんだけど、口笛を吹いて登場するの。ハワード・ホークスの『暗黒街の顔役』でもあったかな? って思ったんだけどどうだったかな。必死に路地裏に逃げる長門、逃げ切ったと思って一息ついた瞬間に横にある鏡を見たときに神山繁がドン!って待っているのね。ほんと痺れるねこれ。明らかに長門より走っていなきゃ回りこめないのに先に待ってるのだもん。映画の嘘がクリーンヒットするんだよね。こういうのが見たいんだよ!

その殺し屋も変わっていて、一方的な殺しは趣向とあわないらしく相手に拳銃渡して決闘スタイルで殺すって変わった手法をとる。でもあっけなく長門に殺されちゃうわけ。そのあっけなさもいい。最後までかっこいいキャラでありながらね。あとこの時代の映画でよく見るトルコ風呂ね。ここで性的サービスがあるのだろうけど、特にそういった描写はない。ロマンポルノならあるのかね。それとダブルヘロイン。なんじゃそりゃ?って感じだったんだけど、ヘロインより強いのかな。何か説明をしていたのだけど、よく覚えていないや。「ウィスキーダブルで」って感じで選ぶのかね。「ヘロインダブルで」って。

ヴェーラで見たんだけど古川卓巳『麻薬3号』(1958)と二本立てでね。これも長門南田洋子が主演で『麻薬3号』は南田洋子がメインヒロインなんだけど、完全にメンヘラなのね。別の男を捜しに長門をたずねてきたんだけど、その男が人殺しで自首しちゃう。それを知った南田が長門を好きになる。何で好きになるかは明確に描かれていない。たぶん、映画だから好きになるんだろう。映画の嘘っぱちのひとつなんだけど、これが映画なんだろなー。理由なんていらないんだよね。それでなんでメンヘラか? ってのは長門依存症的な感じなのね、完全に目から病んでるの。ちょっと長門が行方不明になったら薬飲んで自殺しちゃうんだもん。怖いね、ほんと。