【12月21日 AFP】米航空宇宙局(NASA)が今月初めに明らかにした、ヒ素を摂取して成長する新たな細菌の発見について、発表直後から科学者たちの間でインターネットを中心に疑問や否定的な見解が続々とあがっている。

 この発見は、NASAの支援を受けた研究チームが2日、米科学誌サイエンス(Science)上で発表したもの。研究チームは、「この新生命体の発見は、地球外生命体の可能性につながるものだ」と銘打った。

 しかし、まず、カナダ人微生物学者のロージー・レッドフィールド(Rosie Redfield)氏が異論を唱えた。「この論文の著者は、単に無能な科学者なのか。それとも、『地球外生命を発見した』と大声で叫びたがるNASAの片棒をかついでいるのだろうか」と、侮辱ともとれる痛烈な批判をブログで展開した。このコメントが、ネット上での異論噴出の引き金となった。

 レッドフィールド氏のブログには訪問者が殺到。続いて、米ハーバード大学(Harvard University)で微生物を研究する大学院生が自身のブログで、同大の生物地球科学研究者アレックス・ブラッドリー(Alex Bradley)氏が、新たな細菌に関するNASAの発表は誤りだらけの可能性があると指摘していると紹介した。

 こうして、NASAに対する批判は電光石火のごとく広がっていき、ハイテク情報誌「Wired(ワイアード)」からABCニュース、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー(Columbia Journalism Review)のブログ版など、多くのメディアが取り上げた。

 さらに、議論の内容は「ヒ素を食べる」とされる生物のDNAの実態をめぐる科学的論争から、科学分野での論争は長年、科学者によって学術専門誌が独占してきたが、同分野におけるブロガーの役割とはといった問いにまで拡大した。

 NASAの発表を批判する科学者のなかには、争点となっている細菌を入手して再検証を試みようとの動きも出ている。だが、この結論が出るまでには、数か月から数年待たなければならない。

 また、NASAの発見論文を掲載したサイエンス誌にも、読者から専門的な内容の質問やコメントが寄せられており、同誌では、2011年1月号で、これらの質問に対するNASA研究チームの回答を掲載したいと話している。

 研究を主導したNASA宇宙生物学研究所のフェリッサ・ウルフ・サイモン(Felisa Wolfe-Simon)氏やNASAは、メディアの質問に対する直接回答は拒否している。だが、サイモン氏は自身のブログに「活発な議論は歓迎する」と書いており、現在、数多く寄せられた質問に関する回答集をまとめていることを明らかにしている。

 こうしたNASAの新細菌発見をめぐる一連の動きについて、ノースカロライナ大学(University of North Carolina)のピーター・ギリガン(Peter Gilligan)教授(微生物学・免疫学)はAFPのメール取材に対し、「極めて面白い論争だ」と好意的な見方を示した。

 その理由として、ギリガン教授は、争点の対象が「最も権威ある学術誌のひとつ『サイエンス』に発表された論文である点」、そして「そのサイエンスが審査した論文に対し、誰の審査も受けていない鋭い批判がブログ上に登場した点」をあげた。

 また、編集者および古参科学者としての立場から、「情報がいかに素早く世界中に伝わるか」、「少なくとも、ある一部の領域では審査を経た学術誌に掲載された論文と、ブログ上のコメントが同等の重要性をもちうる点」に興味をひかれるという。だがギリガン教授は「正しいのがどちらなのかは、まだわからないが」とも付け加えた。(c)AFP/Kerry Sheridan