公取委、再販制度の見直しなしと回答 | こんな本があるんです、いま

公取委、再販制度の見直しなしと回答

明けましておめでとうございます。新年くらいは明るい気分でいたい。こう右肩下がりで出口がみえず、八方から攻めまくられる出版不況が続くと、気分が滅入るのを飛び越して、慣れっこになる。中小零細出版社はなんといっても、さして売れそうもない専門分野をやっていて、もともと取引条件が悪く、給料は安くて遅配も驚くことではないくらいだ。代表者が給料をとれずにかみさんに食わしてもらっていたり、親の身上を潰したりなど珍しくもない。そんなこんなで不況耐久力は抜群なのである。私の会社とて82年の創業以来、ずっと不況が続いているわけで、それでもなんとかやって来られた。書店さん、取次店さんに足を向けては寝られないのである。改めて感謝したい。

流対協は、昨年9月に公取委を訪れ、①電子書籍非再販問題、②2005年のポイントカードについての野口公取委取引企画課長見解、③テナントビル内の高率ポイントカード問題、④ネット書店の価格表示問題などで申入れを行い、11月29日に回答を得た。電子書籍を非再販商品にすることは、水野副会長が前号の「ひとこと」でくわしく触れた。

公取委は、②の2005年当時のポイントカードに関する野口課長見解については現在も変更はないとの回答であった。ポイントサービスは値引きであるが、お楽しみ程度のものまでも再販契約違反の値引き行為として規制することは、消費者利益を不当に害することになるとの見解である。ただ、そのポイントの率については、具体的に示した過去のデータを見る限り、1%ないしその近似値である。3%という数字は見当たらなかったと語った。

また、ポイントサービスが再販契約違反になるかどうかは、「当該当事者間において判断されるべき問題である」との政府答弁書のとおりであると答えた。これは流対協の依頼で大脇雅子議員が提出した質問主意書に対する平成13年7月31日付小泉首相答弁書のことである(公取委との話し合いの詳細は、出版ニュース1月上中旬号の拙論「再び存置された再販制度」をご覧ください)。

今回の公取委との話し合いでの最大の収穫は、平成13年の著作物再販制度の当面存置から10年目の節目に、公取委が同制度の法改正による見直し行わないことを表明したことである。制度の見直しは、「政官分離の原則から、政治マターであり、官の側から、つまり公取委の側から行う考えはなく」、「公取委の立場は、平成13年の当面存置の結論のままである」ことを改めて言明した。

また、著作物再販協議会も、各省庁内の「事業仕分け」で、ここ2年の開店休業状況を踏まえ、所期の目的が達成されていないという理由で廃止が決まった。かわりに関係業種ごとのヒアリング方式に切り替え、有識者、消費者団体を加えずに出版業界については出版四団体と1月13日に行うとのことである。新たな「談合型行政指導」の始まりが危惧される。

公取委は、ここでヒアリングすることは、流通・取引上の弊害是正の問題であって、再販制度そのものの議論ではないと明言している。公取委の弊害是正要求に従えば従うほど再販制度が空洞化してしまう問題は残る。

ともあれ、当面存置から10年、制度としての著作物再販制度は延命できた。その間、新聞業界は制度の防衛のために強硬かつ原則的な姿勢を崩さなかった。出版業界はといえば、流対協を除けば、公取委の意のままに弾力運用に血道をあげ、再販制度の実質的な空洞化に拍車をかけてきた。今回の件が業界ニュースにもならないのはすでに空洞化しているということかもしれない。

書協など出版再販研究委員会は、再販制度を守るために弾力運用は絶対必要との大義名分を掲げていたが、公取委側からは再三、そんなことは言っていないし、関係がない、流通・取引上の弊害是正は弾力運用ばかりではない、「これ(弾力運用)をやれば再販を存置する対価関係にあるものではない」などと公の席でたしなめられる始末であった(2007年12月の高橋省三公取委取引企画課長補佐の発言など)。著作物再販制度が向こう10年は制度改正がなくなった今、弾力運用派はなにを理由に弾力運用をすすめるのか、楽しみなことだ。

もともと現行再販制度のルールの中で、時限再販も部分再販も実施するのは版元の自由である。再販制度廃止を叫ぶ版元は、評論家など動員せずにどんどん新刊から自由価格で売り出せばいいのだ。理念に忠実に、あるいは資金繰りが苦しい、売れ行きが悪いのなら、そうすればいい。なぜやらないのか。制度的保障がありながら、誰も止めないのに、都合のいい時だけ勝手なやり方でやっている。これでは、手を縛られた書店や取次店側から不満がでる。

再び存置された再販制度下でやるべきことは、まずは出版社が新古書などを併売する書店やネット書店よりも新刊だけを売る書店を業界で後押ししていくことである。ユニクロやオンワードが古着を扱ってはいまい。古書併売が著作権者の利益を侵害していることが明らかである以上、出版社は著作権者の利益を代弁すべきだからだ。また電子書籍を再販商品として紙の本と同じ価格で売ることである。

暮れのさる忘年会で文化庁の元長官とお話しする機会があった。グーグル問題における出版業界の対応は不甲斐ない。出版社は出版者の権利を獲得するためにもっと声を出さなければだめだ。ろくに要求もしない。要求しなければ取れるものもとれない。書協の方と一緒にハッパをかけられた。アルコールが入っての発言とはいえ耳が痛かった。公取委の要求は丸呑みする、グーグルにはやむを得ない。これでいいのか。欧米の人間との交渉にあたっては、ファイティングポーズをとらないと相手にされない、馬鹿にされるというのはよく言われることである。私が心配することでもないが、これで出版界は大丈夫なのか。

●高須次郎 緑風出版 /流対協会長)

『FAX新刊選』 2011年1月・203号より