この孫崎享という人物、元外務省国際情報局長であり情報分野にはそれなりに長けている人物のはずであるが、日米同盟についての評論ははっきり言って専門家の目から見ると「トンデモ」の類である。彼の昔の本はまだ良かったが、日米同盟について書き出してからはすっかり世間の評判が下がってしまった。
2011-01-29 00:39:47日米同盟についていろいろ書いているから世間の人は彼を日米同盟の専門家であるように考えるかもしれないが、とてつもない間違いである。キャリアの上ではハーバード大の国際問題研究所でわずかな期間の米国滞在があるだけで、彼を日米同盟の専門家としてオーソライズする背景は殆どどこにもないのだ。
2011-01-29 00:45:08権威付けの話はともかくとして、彼の著作はともかく内容が酷い。いろいろ書いているから一冊だけ取り上げるが、新書の『日米同盟の正体』は殆ど前編が「トンデモ」の感を免れ得ないものであった。多少なりとも理解できるのは序盤のシーレーン防衛位の話で、他は相当に思い込みの多い内容である。
2011-01-29 00:47:48とりわけ問題なのは全編を貫く日米同盟とは米国の一人勝ちの構図、日本は単に米国に「意のままにされている」だけという思い込みであるが、この思い込みの結果としてこの本には全編を通じて事実誤認や過剰な陰謀論の強調が多数含まれている。特に第二章の内容などは驚くべきものである。
2011-01-29 00:53:03彼はブッシュ政権が9.11テロの発生を事前に知りながら警告を意図的に無視してテロを看過し、それを米国の大軍拡の正当化に利用したとするのであるが、そうした主張を証明する論拠というのがブッシュの政治的敵対者であるアル・ゴアの著作のみなのだから、その陰謀論振りには殆ど笑ってしまう。
2011-01-29 00:56:17ブッシュ政権が9.11テロの内容を具体的に知りながら「意図的に」テロが起こることを容認した、というのは重大な指摘であり、こんな新書どころではない世界史的な研究の対象になるべきものだ。そういう努力もせずに安易に結論だけを主張しているのが安っぽい陰謀論=トンデモなのである。
2011-01-29 00:58:23冷戦後の米国の新戦略についての彼の評価もおかしい。彼は米国が冷戦後に対抗すべき脅威もないのに世界最強の軍隊を維持するために意図的にイラン・イラク・北朝鮮に対する脅威認識を煽った、とするのであるが、こんな議論をまともに信じる人間は今日の世界には殆ど存在しないというべきだろう。
2011-01-29 01:00:31なぜなら世界は北朝鮮やイランが現に核開発を行って世界の脅威となっていることを十分認識しているからである。それらの核開発は冷戦の終結に先行するものであり、米国はそれら脅威に対抗するために合理的に反応したに過ぎない。軍拡のための意図的な脅威認識の操作等という主張は明らかに根拠がない。
2011-01-29 01:03:21日本外交の特質についての議論も違和感を覚えるが、主要な論点は彼が「日米同盟の協力を世界規模に拡大することは極東での協力関係をむしろ損なう」としている点である。この点は詳細に議論すると長くなるが、私は全く逆に「世界規模で協力できなければ極東の協力関係がむしろ損なわれる」と見ている。
2011-01-29 01:06:46他にもミサイル防衛への評価とか経済的相互依存の安全保障面に対する過剰評価とか、国際関係論と日米同盟の専門家として到底首肯できない記述が数多く含まれているのがこの本であるが、要するにこの本は到底学問的スタンダードに到達しているとは言えない単なるトンデモ本であるというのが私の理解だ。
2011-01-29 01:09:45私自身はこれほど内容のいい加減な本は市場原理の中で自然淘汰されてゆくと見ているので孫崎氏自身に対する評価というのは正直どうでも良いのだが、しかしこの程度の内容の本が一般人に手に取りやすい新書の形で書店に並んでしまうというところが我が国の知的文化の残念なところなのであろう。
2011-01-29 01:12:00残念ながら鳩山政権誕生で日米同盟叩きは一時期キャッチーなフレーズとなった面があるのであろう。しかし少しでも専門書の棚に目を向ければ、この本の内容がいかにいい加減で、物事の一面しか見ていないものであるかは直ぐに分かる話なのである。日米同盟関係でも良い本は沢山出ているのである。
2011-01-29 01:14:37まあそもそも、研究者が新書という媒体を論文とか学術書よりかなり低いレベルのものと見ていることは事実であるが、それでも新書の中にもかなり学術的に優れたものは出てきているし、こうしたトンデモ本が他の新書と同列の形で書店に並んでいると他の新書が気の毒になってしまうのである。
2011-01-29 01:17:46よって読者は流行の新書の内容を鵜呑みにしないというところをまずは重視して欲しいと思う。論文や学術書とは違い、専門家を自称する著者が本当に専門家であるとは限らないし、専門家によるチェックを経た内容でもない可能性が高いのだ。よって中には相当にトンデモ的要素を強く持ったものも出てくる。
2011-01-29 01:20:27日米同盟程に重要な案件が未だにこういうトンデモ本や陰謀論のレベルで国民の間で語られているとすれば私としては大変残念である。これは日本の国益、ひいては日本国民全体の利益に直結する問題なのである。ぜひ学術的に正確な知識を背景とした意味のある議論を振興する空気を作って欲しいものと思う。
2011-01-29 01:22:49