Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ヤケクソで社長に説教した。

社長に呼び出されたとき僕がイラついていたのは、僕の待遇や従業員へのムゴい扱いへの不満からではなく、当該呼び出しが労働契約書に記された所定労働時間外の早朝7:30におこなわれたという極めてミクロな理由からである。社員を各個撃破するように行われる社長による個人的呼び出しは「現場の意見を直接ヒアリングする」という名目でおこなわれているが、実際は社長が権威を見せつけるためだけに実施されている。実に素晴らしい。僕もトップになったら実践したい。社長のいつもと同じ話に眠気を晴らす効能もこめて大袈裟に首をタテに振るたびに人間としてダメになっていくのを実感する。

 

社長の様子がいつもと違うと気づいたのは、話も終盤に差し掛かったとき、社長が「コストがかかりすぎている」と弱音を吐いたときである。非常にレアである。僕の勤めているような親族経営の中小企業では何か変革を起こすときにボトムアップから成し遂げるのはかなり厳しい。やるなら絶対トップダウン。今こそ会社をレボリューションする千載一遇のチャンスであった。社長は人件費の高騰と募集費の増大を嘆いていたので《一身上や心身の都合で辞めていく正社員の穴を残った者と非正規雇用で穴埋めをしている現状。募集しても人は集まらない現実。これからも辞めていく者、休む者は続出することが予想され、これ以上、残った者の過重労働で支えるのは限界》。僕はそういう会社の状況を社長に説明した。

 

僕は近いうちに辞める人間だ。そんな僕がなぜわざわざそんな行為に及んだのか。残していく仲間たちのために少しでも環境を良くしたい…などという思い上がりにも似たキモい考えではまったくない。すべて自分のため。私事になるが僕は転職活動をしている。過日。絶対にしくじってはいけない本命面接時にスーツの股の部分が裂けてモロパン状態に陥り動揺し、受け答えがしどろもどろとなり、その結果昨日夕方先方から「今回はご縁が」連絡をいただいた。あと少しもう少し今の会社にいなければならない。しかし、辞める会社のために残業休日出勤等の過重労働はやりたくない、ついでに毎日のように夢枕に立つ元上司(故人)と元部下(引きこもり)を除霊したい、その2点が僕を衝き動かしたのである。

 

僕は社長の評価を完全に終えている。《プライドの高さゆえ間違いを認められず、柔軟性に欠ける》。誰かに似ている。僕じゃねえか。僕は自分に似た特徴をもつ社長の説教を開始した。己のあとわずかな会社ライフを良くするためだけに。「社長。社長に対してこのような話をするのは釈迦に説法で本来は死刑ものですが」基本へりくだり。「あえて確認のために言わせていただきますと、労務費と募集費の増大に歯止めをかかる方法があります。社長はお利口さんなのであえてそれを口にせず社員の奮起を待っているものと思われますが、ひとことでいえば社員を大事にするしかないと思われます。もちろん退職金のカットや定期昇給の廃止など数々の社員のための改革をなされてきた社長のこと、すでに抜本的な策をお持ちでしょう。ですがあえて私が言葉にします。社長。労務費が増えているのは、辞めていく正規雇用の者のかわりに入れたパート・アルバイトなどの非正規雇用者が原因です」社長は目を見開き「さすがに労働法を専門にしていただけはあるな」。ちなみに僕の専攻は刑訴法で大卒以上の社員は僕だけ。大卒は一年以内に辞めていく。それが弊社。きっつー。

 

「固定給の安い非正規雇用者にすれば労務費が抑えられるような気がしますが、社長がまさかそんなバカな考えで非正規雇用者への切り替えを進めたとは思いませんが、残念ながら弊社の場合は労務費の圧縮にはなっておりません。なぜなら続出する正規雇用者の退職者はすべて管理職。つまり合法か違法かはわかりませんが残業代はなし。残った者と新たに雇用した非正規雇用者の過重労働でカバーすれば今まではなかった膨大な残業代が発生するのは当たり前のことじゃないですか。コストだけの問題ではありません。退職者の労働を過重労働でカバー、さらに悪化する環境によるさらなる退職それをさらなる過重労働でカバー。こんなことをしていれば労働時間に見合う生産性は得られないのは当たり前ではありませんか」社長はことあるごとに「生産性」を口にする《生産性マニア》なのである。「やっとそれに気づいたか」と社長は言った。今まで苦しめられてきた社長のプライドの高さが今は僕の味方だった。

 

「社長。社長が愛してやまない生産性をあげるためには過重労働ではなく、今働いている社員の環境を良くすることが回り道のようで一番の近道なのです!どうかどうか!」僕はその後、昨年末に施行された労働安全衛生法によるストレスチェック制度の概要を説明したり、その導入法についていくつか提案をした。今、僕が望むのは僕が在籍するであろうあとわずかな期間における環境が少しでも改善することである。残業も休日出勤もNOなのである。残していく奴らのことなど知ったことではない。ショーグン様が君臨するかぎりキタチョーが変わらないのと同じようにトップを変えないかぎりウチの会社は変わらない。地獄が天国になることなどありえないのだ。(所要時間28分)