2010/09/16 00:00

サウンド&レコーディング・マガジンとOTOTOYで世界に先駆けて開始したDSD配信。Webメディア、Twitter等でも大きな反響があり、多くのアーティストも興味を示してくれています。そこでOTOTOYでは実際に、その音源を良いスピーカーとアンプ、良いケーブルで聞いてもらいたいと考え、2010年9月16日13時より丸の内の三菱電線試聴室をお借りして、KORG三菱電線工業の協力の元、DSD試聴会&記者会見を開催しました。今までにOTOTOYで配信したDSD音源を聴きながら、サウンド&レコーディング・マガジンの編集長、國崎晋とOTOTOYシニアプロデューサー高橋健太郎が、配信に至った経緯や、聴きどころを説明しました。本ページは、そのDSD試聴会&記者会見のレポートです。この記事を読んだ方が、1bit Audioについての興味をかき立てられたり、実際に聴いてみようと思っていただけると幸いです。なお、レポートのテキストは当日の喋りをなるべく忠実に再現しています。冗長な部分もありますが、ご容赦ください。

コンテンツを供給することが、結局アーキテクチャを作っていく

高橋健太郎(以下T) : OTOTOYのコンテンツプロデューサーをしております高橋健太郎と申します。それからサウンド&レコーディング・マガジンの編集長の國崎晋さんです。

まず最初にオトトイという会社でやっております音楽配信について、概要を述べさせていただきます。OTOTOYは昨年の10月に改名いたしまして、その前はレコミュニといいまして、2004年の10月にスタートしています。最初はSNSを全面に打ち出した音楽配信サービスとしてスタートしたんですけれども、3〜4年やりまして、なかなか音楽SNSというのが、最近になってAppleがPingというのを始めましたが、少なくとも3〜4年前の状況ではなかなかビジネス・モデルとして成り立たないことがありまして、3年くらいまえからサイトをリニューアルして、どちらかというとインディーズの音源を中心とするショップ機能加えて雑誌的な機能、音楽配信というとだーっとタイトルが並んでまして、どこのサイトでも同じような通常のレーベルからのレーベル・コピーからのさらにコピーといった解説が並んでるだけのところが多いんですけども、OTOTOYはそれぞれのタイトルについて、編集部がありまして、編集部で推したいというタイトルがあれば、それを記事化する、インタビューをとったり、アーティスト、レーベルとコンタクトをして展開を考えるという、レコード店の原点に帰ったようなかたちの音楽配信サイトをやろうということでこの2〜3年続けてきました。

ひとつ大きなターニング・ポイントになったのが、昨年8月に高音質配信、OTOTOYではHQD(High Quality Distribution)と呼んでいるんですけども、そのHQDの配信を開始しました。第一弾は昨年の8/1にクラムボンの「NOW!!!」という曲を24bit/48kHzのWAVで配信しました。24bit/48kHz、24bit/96kHzの配信というのは、それまでいくつかの配信サイトがやっているんですが、だいたいJazzとかClassicalのタイトルが多かったんです。なおかつ全くの新譜がwavのような高音質の形で配信されるというのはなかなか少なかったと思うんです。で、OTOTOYではクラムボンという、J-PopというかRockグループで、コンサートをやれば数千人の集客ができて、CDは日本コロムビアから出てます。そういうメジャーのロック・グループが新曲を高音質配信(24bit/48kHz)でやるということを最初にしかけました。これが大きな反響を呼びまして、昨年もこのような試聴会をやらせていただいたんですけども、その時来ていただいた方も何人かいらっしゃっていると思いますが、これがメディア的にもリスナー的にも大きな反響を呼び、非常に僕らにとって嬉しかったのはレーベル、アーティストの方が「だったらうちもやりたい」と。それまでwavの配信というのは直接マスターと同等なものをユーザーに届けてしまうわけで、DRMが全くかかっておりませんので、そういう意味では、コピー防止という観点からメジャー・レーベルはやれない。インディー・レーベルの方々も、ダンス系のレーベルではwav配信が進んでいるところがあったものの、やはりレーベル的には踏み切れないといったことがあったんですけども、クラムボンというグループが先陣を切ってくれたことでOTOTOYではかなりの数のレーベル、アーティストから「うちも高音質配信をやりたい」ということで24bit/48kHzもしくは24bit/96kHzのタイトルが、今かなり、100タイトルはこえた?と思いますけども、それくらい増やすことができました。

高橋健太郎(OTOTOY)

このようなことをやっているなかで、さらに高音質のものというのは実はOTOTOYとしてはあまり考えてなかったんですけども、今年始めにサウンド&レコーディング・マガジン編集長の國崎さんから「DSDもやりたい」という話をいただきまして、そのときには「DSDは...」と思ってたんですが、3月に清水靖晃さんと渋谷慶一郎さんのコンサートがありまして、これは國崎さんが企画されたコンサートだったんですけども、それに僕も足を運びまして、コンサート自体もとってもすばらしく、なおかつそのときにDSDで録音しているということを聞きまして「これをなんとかしたいな」とおもったのがきっかけになりました。最初は、まあwavでやりましょうよという話もあったんですけども、色々話をしているうちにDSDでもできるんじゃないかということになりまして、今年の8月に第一弾として清水靖晃+渋谷慶一郎の「FELT」というアルバムを、これは24bit/48kHzのwavと、2.8MHzのDSDに聴ける環境を持ってない方のためにmp3を加えたものを発売いたしました。とっても驚いたのはwavよりもdsdのほうが売れました。これもユーザーからの反響が非常に大きくて「いま聴く環境がないんだけどもとりあえず買ってみよう」で、とりあえず買ってmp3を聴いて「うん。やっぱりこのへんのものを買いたい」(笑)という反響がありまして、とっても僕らとしてもびっくりしました。DSDに関してはまだSACDという形で音源が人々の耳に届いていたんですけども、データという形ではほとんどありませんでした。OTOTOYでは商用音楽配信としてはDSD配信を始めるのは世界に先駆けてと言えると思います。正確には去年の11月くらいにアメリカのミュージシャンが個人のwebサイトでDSDの販売をやった例があるんですけども、OTOTOYのような音楽配信の会社がDSDのタイトルをシリーズとして出していくのは、これは世界初です。ただし、DSDの配信をしたところでユーザー側になかなか環境が揃っていない。あるいはオーディオ・メーカーさんもDSDのファイルをファイル・オーディオとして展開して良いサウンドを聴かせるといった製品ラインナップなり提案みたいなものが揃ってない状況だと思うんですけども、私たちとしてはコンテンツを供給するのが、最終的にアーキテクチャを作っていく、アーキテクチャを先に作ってもコンテンツがなければどちらも売れませんのでそういう意味ではコンテンツが先走って始めたことは実は正解ではなかったかと一ヶ月くらい経った今、思っているところです。実際に音源を制作されているのは、リットーミュージックのサウンド&レコーディング・マガジンが始めましたサウンド&レコーディング・レーベルですので、そのレーベルの國崎さんからDSD配信の実際について、これからお話をいただきたいと思います。

今日からレーベルを始められる

國崎晋(以下K) : 今、高橋健太郎さんからお話がありましたけれども、去年パイオニアさんの試聴室で行われたHQDの発表会に、僕らは取材側として行ってて、今みなさんがやっているように写真をパチパチと撮って、へーとか言って(笑)。まさか一年後にこっち側に居るとは想像もつかなかったんですけど、通常であれば僕らは取材する側であって、コンテンツを提供する側ではないんだけど、一年経つとこんな(提供する)側になっているのは面白いことだと思います。DSDとか配信とかレーベルとか本当は雑誌がやることか、難しいなぁと思っているんですけど、結論から言うとやったら出来てしまう。意外と簡単に出来てしまったというところです。ではなんでわざわざやるのかというと、意義を見いだせた。今回はDSDの配信、まだ環境の整ってないものをやる。コンテンツを先に出すことに意味がある。僕らもそこに意味を見いだせたということだと思うんですね。これが普通のメジャーのレコード会社さんであるとか、インディペンデントでCDをつくってやってらっしゃる方だと、多分そんな冒険には出られなかったのではないかなと。あくまで副業というと変ですけども、雑誌というメディアをやりつつ、それに絡めてコンテンツ提供、配信ができるというメリットがあったので、こういったレーベル活動、まだ二作目なので活動というにはおこがましいかもしれませんけども、あくまで並行してできる、そういった環境が整ったからこそ可能になったことだなと思っております。

上 : 清水靖晃、下 : 渋谷慶一郎

やっぱりきっかけになったのは清水靖晃さんと渋谷慶一郎さんお二人のコンサートですね。実はコンサート制作を雑誌社がやるというのも最近でこそ珍しくはないですけども、僕ら的にはあまり無いケースでした。あるバジェットを預かりまして、コンサートをやってくださいと言われて、何やったら良いんですかと聞いたら、いやなんでもいいですと言われたので、じゃ、とりあえず好きなミュージシャンを二人集めてやってしまえと思ってやってしまったコンサート、清水靖晃さんはサックスを吹かれる方、渋谷慶一郎さんは今までは割と電子音楽の方として知られてましたけども、去年リリースされた『for maria』というピアノ・ソロ・アルバム、そこでピアニストとしての顔もアピールし始めたところだったので、じゃあサックスとピアノの生演奏によるコンサートというのをやってみたらいいんじゃないかということで、それを3月1日にやって、そのとき多分漠然とした予感はあったんでしょうね。まず、録っといたというのは出したいと思っていたということ。コンサート制作を雑誌の業務から逸脱して始めたその先に、二次利用三次利用できるようにしておこうという頭が働いていたんだと思います。録って、良い演奏だったのでそれを配信したい、というときに色々去年のHQDの話などありましたので、最初にOTOTOYさんに「DSDそのまま配信出来ませんか」というふうに持っていったわけです。コンテンツだけ先に出してしまえという背景となっていたのかなぁと思い出したのは、サウンド&レコーディング・マガジンの今年の1月号で、「“テン年代”音楽の行方からこれからの10年はどうなる?」という対談特集をやらせていただいて、そこで高橋健太郎さんと津田大介さんの対談を組まさせていただきまして、その中で「SACDを本気で普及させたかったなら、例えばビートルズの原盤をソニーさんがごっそり買って、SACDで出すくらいのことをしなければいけなかった。」という話が健太郎さんから出た。誰も聴くハードを持ってないからといってコンテンツを出さないと結局最終的に普及しないですよね。CDが普及したときっていうのはソニーさんは本気だったなーと思うのは最初からビリー・ジョエルであるとか、そもそもCDがベートーベンの「第9」がフルで入る長さに設定してあるとか、コンテンツを考えて出されていたと。でもSACDの時はなぜかあんまりそういう感じではなくて、ある種制作の補助みたいな形で色んなレーベルさんに働きかけていらっしゃいましたけども、なにがなんでもSACDを成功させるぞという気概は一部の方を除いて感じられなかったというところもあった。そういう話も思い出して、自分がたまたま企画したコンサートがあって、それをDSDで録ってあるんだったらこのまま出してみるのも面白いかなと。元々出したところで、失敗したところで損は無いと言うとすごく変な言い方なんですけども、これは配信をやる一番のメリットだと思うんですけど、これがもしSACDをもう一度盛り上げようと思って「清水靖晃+渋谷慶一郎」の音源をSACDで「5000枚プレスして売るぞ」と思ったら、まあもう一回で終わっていたというか(笑)、「はい売れませんでしたおしまい」というか在庫の山がドーンとあって、社長に「お前これどうするんだ」みたいな話になって終わっちゃう。配信はそれがないのが凄いなと。だから今日いらしているかたでもレーベルを始められますよ、というのはそういうことだと思うんですよ。音源、マスターを作るというのは実はそんなにお金をかけずに出来てしまう。そこから盤を複製して作ったりとか、ジャケットを作ったりとか流通を色々通していくとやっぱりものすごくお金がかかってしまう。もしくは売れなくて戻って来てしまう。そのリスクを配信だと回避することができるというのは大きいかなと思いました。

國崎晋(サウンド&レコーディング・マガジン)

 そういう経験があったので、味をしめてというか、「清水靖晃+渋谷慶一郎」の音源は元々コンサートを録音したものでした。これから続けてやっていこうと思ったときにまず考えたのは、何回もコンサートをやって全部録っていけばいいんだと。要するにコンサート・レコーディングってのをやろうかなと思ったんですね。会場をどこがいいかなとか色んなことを考えているうちに会場を借りるのがいくらかとか計算を始めたんですけど、うーん、そこでまたリスキーだなと。つまりある程度の広さの会場を借りてしまうとどうしてもお金がかかってしまってある程度の集客がないとペイ出来ない。怖いと正直思ったんですね。つまり集客があるアーティストを呼ぶということは、その人を呼ぶのにもお金がかかってしまう。例えば坂本龍一さんを呼びましょうというとお金がかかる。… どれくらいなのか知らないですけど(笑)、高かったらそれをペイするには何人お客さんが入ってチケット代幾らにして、みたいなことを考えなくちゃいけない。その段階で実はリスクが先に生じてしまうなあと。「清水靖晃+渋谷慶一郎」のコンサートはその辺のリスク無しに僕らはやれたんですね。コンサート・プロデュースということだったので。でもイチから企画してやるときにコンサートのリスクをしょってまでというのは難しいなと。で、どうしたらいいんだろうとうちのスタッフなんかで色々相談して、「大きい所でやらなきゃいいんじゃないですか」みたいな話が出て来て。スタジオ… この場合は練習スタジオみたいな所ではなくて、レコーディング・スタジオをかりて、そこでライブをやって、録音して、人も呼んじゃえばいいんじゃないですかというアイディアが出てきまして。レコーディング・スタジオに行かれた方は少ないと思いますけども、普通は人が大勢がやがやと入って、演奏を観たり聴いたりするところではないんですね。ある広さがあって、演奏者が入って自分たちで演奏するだけですね。そこにお客さんをいれてしまおうと。逆に言うと50人くらい入ったら満員だと。そうなるとさっき気にしていた集客リスクというのをものすごく抑えることができる。50人だったらどんなアーティストでも集まるんじゃないかというところで、変な話すごく著名な方でなくても僕らが音楽的に面白いと感じた方を呼んで面白い演奏をやっていただくことが出来るなと。スタジオでライブをやることに関してはその自由度が得られるなと思いました。それと、ライブ・レコーディングといってホールとかライブ・ハウスでやる場合、様々な困難がつきまとうんですね。さっきこの記者会見が始まる前にかけていた音楽は「清水靖晃+渋谷慶一郎」の音源なんですけど、あれはホールでとったものなんで、様々なノイズであるとか、あと会場に来ているお客さんにそもそも音を届けなくちゃいけないというPAがまず前提としてあって、PAのためのマイクのセッティングだったり。録音のためのマイク・セッティングとやっぱりちょっと違うんで、完全に良い音で取るのは難しいなと思ってました。

大友良英+高田漣

けれど、ちょっと発想の転換をしてレコーディング・スタジオであくまでレコーディングのためのマイク・セッティングをしておいて、お客さんにはPAではなくて本当の生音を聴いてもらおうというやり方が面白いんじゃないかなということを考えまして、これをウチの雑誌の、サウンド&レコーディング・マガジンのシリーズ企画としてやって行ってみようかなと思いました。タイトルとして「Premium Studio Live」と名付けまして、その第一回目を先月27日に東京の一口坂スタジオのスタジオ1という一番広い部屋… 通常はオーケストラのレコーディングをしたりとかするのに使うくらいの広さのスタジオでレコーディング・ライブというのをやりました。そのときの模様は皆様のお手元にお配りしている資料で、四枚ほどのカラー・コピーを同封させていただきましたけれども、これは昨日発売となりましたサウンド&レコーディング・マガジンの10月号に掲載しております記事のコピーをしたものです。いつもはコピーを出すのは好きじゃないんですけど、今日は特別に資料のつもりでお配りしております。そこにレポートといいますか、見ていただければどんな場所かなんとなく分かるかなと思いますけれども。ここにお客さんを50人ほど入れてコンサートをやらさせていただきました。一回目の出演者としてお願いしたのが、大友良英さんと高田漣さん。大友さんは即興演奏の名手として知られていたりとか、最近だとカヒミ・カリィさんのプロデュースをされていたりとか、実に様々な活動をされているギタリスト兼、うーん、ノイズと言いますかターンテーブルを使ってさまざまな音を出す方ですね。もう一方、高田漣さんはマルチ弦楽器奏者というふうに自分のことをおっしゃっていますけども、スチール・ギターであるとか普通のギター、バンジョー、様々なエレクトロニクス、短波ラジオを鳴らしたりとか色々なことをやる、二人とも不思議な音をだすミュージシャンということです。元々お二人ともウチの雑誌と付き合いが深かったのでこういうプロジェクト、こういうライブをやるんだけども、やりませんかということで快く引き受けていただきまして、ライブが行われて録音をしました。そのときの録音に使ったマシンがまさにこれですね。KORGさんのMR-2000SというDSDレコーダーになります。皆様からみて右側にあるのはMR-1000というこれもKORGさんのDSDレコーダーなんですが「清水靖晃+渋谷慶一郎」の時はこのレコーダー(MR-1000)を二台使って録音しています。「大友良英+高田漣」の時はこれ(MR-2000S)を三台使って録音しています。今日は「清水靖晃+渋谷慶一郎」の音源と「大友良英+高田漣」の音源をそれぞれ聴いていただこうかなと思っていますが、先に「清水靖晃+渋谷慶一郎」のほう聴いてもらいましょうかね… 今日の試聴室は三菱電線さんがさまざまな高級なオーディオ・ケーブルを作られていてそのケーブルの善し悪しを体験していただくためのスペシャルな試聴室をお借りさせていただいておりますが、三菱さんの誇るDIATONEというブランドのスピーカーがございますが、それでの試聴となります。聴いていただくのは清水靖晃さんが書かれた「KIWA」という曲ですね。

K : … 悪いマイクではないんですけども、とはいえ普通サックスをレコーディングするときにはもうちょっと離したところに置いて、いい感じの音を録るとかいうことをやるんですけども、そもそもがコンサートですので、それが出来なかった。にもかかわらず、凄い音で録れたのではないかなと。次に「大友良英+高田漣」の音源をかけますが、これはちゃんとしたレコーディング・スタジオであくまで録音のためにマイク・セッティングをしたものになってます。細かなマイク・セッティングは先ほどお配りした資料に書いてあります。聴いていただくのは、高田漣さんが歌ってらっしゃいますが、「It's Been A Long, Long Time"」というビング・クロスビーさんのカバー曲ですね。

K : 聴いていただいたのは、高田漣さんの「It's Been A Long, Long Time」という曲でしたが、なんだノイズが入っているじゃないかと思った方もいるかと思いますが、一応解説しておきますと、あれは大友さんがわざと出しているノイズで、大友さんはこのレコーディングが終わった後に凄く感心してたのが「今まで自分は長年ノイズを出す音楽をやってきた。で、それを録ってもらうといつもがっかりしていた。こんなノイズじゃないと。もっと凄いノイズをだしているのに録れてない。今回録ってみて初めて録れた」と「これは凄い」とたいそう感動していらっしゃいました。シンセサイザーみたいな機械を使って出しているノイズもあれば、カラカラした音とかパチパチした音はアナログのターンテーブルを回転させながらそのハジになにかこう、不思議な破片みたいなものをこすりつけて鳴らしたりとか、なんかパチパチやったりとかして、非常に不思議な音の出し方をされていましたが、それです。わざと(事前に)説明をしなかったんですけども、本当のノイズに聴こえたんじゃないかと思います。もう一曲試聴していただこうかなと思っているんですが、ここまで清水さんのサックス、渋谷さんのピアノ、高田さんの歌、ギターと、さっき健太郎さんもおっしゃってましたけども、なんだクラシック、ジャズっぽい、そういう音楽にしか合わねーんじゃねーかと、SACDの時もそういう傾向があったんですけども、そうじゃなくて、いわゆる凄いギターの音、轟音なギターとかそういう音にもDSDは合うのだぞということを体験していただこうかなと思っております。最初は静かに始まるんですが、途中でものすごくけたたましくなりますのでご注意いただければと。

K : … ご自身でエレキ・ギターを弾かれる方だとアンプを鳴らしたときにどんな音が聴こえるのかってことは分かると思いますが、まさにそれが本当にキャプチャーされているんじゃないかなと。何度聴いてもこれはびっくりするくらいかなと。いままで普通にCDで聴いているエレキ・ギターの音がなんと狭くされてしまっているのかと思うくらいの、なんといったらいいんでしょうね… ダイナミック・レンジが広かったりとか音域の上下がきちんと出ている、ちょっと驚くべきことかなと思っております。今の曲は大友さんは歌とギターを担当されていて、漣さんはハーモニウムというちょっと不思議なオルガンみたいな楽器であるとか、バンジョーであるとか、実にさまざまなものを出して色んな音を演奏されていました。さきほどはうちのリスクを軽減するためにスタジオでやったみたいなことばっかりの印象になっちゃったかもしれないですけども、お聴きいただいてわかるように大友良英さん高田漣さんの音ってのはまさにスタジオじゃないと演奏出来ない、様々な楽器を置いてある種即興的に色んな音を出しつつそれを綺麗にキャプチャしていくというのはレコーディング・スタジオでなければ出来なかった技かなと思っております。驚かれるかもしれませんが、この大友さん、漣さんの演奏というのはリハをほとんどやってないですね。さっきの渋谷さん、清水さんのもリハって30分しかやってないですね。コンサートに対するリハとして。何を言いたいかというとですね、ミュージシャンって凄いんですよ。潜在力が凄いんですね。良い音、良い演奏が出来るのに実はなかなかその場に恵まれていない。ライブとかで好き勝手できるかもしれないですけど、それをパッケージにして販売するとなると「これ売れないんじゃないの?」とか売るために例えば曲を短くするとか、もっと作り込んだりとか、変な話、音程、歌が悪かったらピッチ直そうとか、そういうふうにして作られてるのが昨今の、主にメジャーさんの作品だと思うんですけど、変な話全てそれをとっぱらって、好きにやってくださいと。うちのこの二つの作品のディレクションらしきディレクションと言えば「好きにやってください」。若干のテーマは与えたりとかしてるんですけども、思う存分やってくださいということでミュージシャンの方は喜んで、「え? こんなのやってもいいの?」みたいなことでその場でアイディアを出しながらやったと。本当にその一発の演奏、やり直しのきかない、昔のレコーディングに詳しい方ならダイレクト・カッティング、実際にアナログ・レコードを作るときにいきなり溝を刻んじゃうみたいな、それに近いようなやりかたが今回のプレミアム・スタジオ・ライブでのDSDレコーディングだったんですけども、その一発やり直しのきかない部分でミュージシャンの方々が持っている潜在力を存分に発揮してくださってるんじゃないかなと僕は思っております。というところで試聴は終わりで大丈夫ですか?

T : 少し補足で説明しておきますと、DSDのファイル形式はOTOTOYではdsfという形式のファイルで配信をしております。今のところ2.8MHzです。KORGのこういう機械は5.6MHzまでいけるんですが、データ容量と色んな状況を考えると2.8MHzで始めるのが妥当かなと思っています。それから再生環境ですが、ここにあるKORG MR-2000S,、MR-1000、MR-2、このへんはどちらかというとミュージシャンであったり、録音をする人向けの製品ですね。KORGのこれらの製品があれば再生機器として再生することはできますし、KORGの製品を買うとAudioGateというソフトウェアが付いてきまして、Mac用、Windows用両方あります、プレイヤー・ソフトでもあり、ファイルの変換を行ってくれるソフトでもあります。このAudioGateがありますと、DSD形式で再生されるわけではないですけども、このソフトがリアルタイムで(PC用に最適に)変換してくれてPCでも聴くことができます。それからソニーのVAIOの現行モデルでは全くバンドルされなくなってしまったんですが、2005年から2009年くらいまでの一部モデルではDSDの再生が可能でした。DSD配信が始まってそれがdiscontinueになってしまって非常に皮肉なことではあるんですけども。それからDSDのファイルは"DSD_DISC"という形式のDVD-Rなどに焼くことができまして、それはソニーのプレステ3と現行のSACDプレイヤー2機種で再生することができます。これの試験をしてみたんですが、DSDディスクのポテンシャルっていうのは非常に大きいですね。ソニーのXA5400ESというSACDプレイヤー、実売だともう11,2万くらいになってますけども、これで聴いたところ本当にSACDクオリティの音が聴けますし、非常にびっくりしたのは、最近のSHM-CDをこのAudioGateでDSDのファイルを作りまして、ディスクを作ったものと、同じタイトルのSACDと、SHM-CDから作ったDSDディスクを聴き比べてみたんですね。とあるオーディオ評論家のお宅で500万のアンプと600万のスピーカーで二人で聴いて、ひょっとしたらDSD_DISCが一番良いんじゃないかという結論になりまして... というのはSACDはとっても柔らかな音なんですけど、普通のCDの方がかなりガツっとしたマスタリングが効いてることがあり、それからDSD-DISCを起してみましたところ、そのガツっとした音圧感もあってなおかつSACD的な滑らかさもあって意外にいいとこどり的な、もちろんタイトルやマスタリングの状態によって色々だとは思いますがDSD-DISCはプレステ3の販売台数を考えた場合には意外にマーケットとしてのポテンシャルがあるなぁという印象を受けました。サウンド&レコーディング・レーベルとしてはこのあとさらに3タイトル確定している?

K : そうですね。プレミアム・スタジオ・ライブ、さきほどの大友さんと漣さんのがVol.1ということだったんですが、とりあえずVol.4までは予定をしておりまして、Vol.2が10月31日の日曜日なんですけども、クラムボンというバンドのボーカリストである原田郁子さん、そして高木正勝さん、…  映像作家としても知られていますけども、このお二方によるライブ・レコーディングを10月31日に行います。

T : OTOTOYとしてはサウンド&レコーディングとのDSD配信を始めましたところ非常に反響をたくさんいただきまして、「自分たちもやりたい」というレーベルからもお話をいただいておりまして、今日の時点ではちょっと決定としては発表できないんですけど、いくつか決定している作品があります。それからオノセイゲンさんがマスタリングされたThe coronaというアーティストのDSD配信が、9月29日には行われると思いますので、サウンド&レコーディング・レーベルだけでなく、思いのほかはやく他のレーベルの作品も揃ってくる状況にあります。是非皆様方のお力添えもいただいてDSD配信と配信が楽しめる環境が早く充実してくれるといいなと思ってます。ではここから先はなにかご質問がありましたら…

アップリンクの方の質問 : 先ほど大友さんの発言でこんなに良い音でノイズが録れるんだってのがありましたが、DSD録音が広まっていったときにそういった形でミュージシャンの方のプレイに対する意識とか、こんなに良い音で録れるんであればこういうプレイに変わってくるだろみたいな、ミュージシャンの意識の変化があると思うんですけど、そのあたりのお話と、プレミアム・ライブでは観客の方から見れば普段見れない編成のライブが見れるということで興行の面でも貴重な試みだと思うのでイベントからの側面からの話を伺いたい。

K : 最初の質問の、DSDということでミュージシャンになにがしかの変化が起きるかというのは、ミュージシャンさん次第かなと思います。そういうことを全く気にせずに常に最高のプレイを心がけてるという方もいらっしゃれば、これは何用だよね。CD用だったらこういうふうにしている、アンプのセッティングはこういう風にしている、まあ、ここまでしか入らないからその中でベストにするにはこうだ、というセッティングをされてるかたもいらっしゃいます。そういう方が変わっていく可能性はありますけども、これはホント、ケース・バイ・ケースだと思っております。ただ大友さんは変な話、ノイズの作品は出さなかったんだよねと、というか出せないと彼の中では判断していたんでしょうね。さっきの歌は高田漣さんの歌があってその背景にノイズがあるっていう曲だったので、普通の形でやれてたんだと思うんですが、大友さんは背景のノイズだけ、みたいな音楽もやってらっしゃって、それを今までは出すのを諦めていた、それをこういうレコーディングの方法や、配布方法が広まって来たら、出せるねということ言ってらっしゃいました。そういう意味で変わっていく方はいらっしゃるでしょうということです。二番めの質問のイベントの興行としての面白さは、これは僕らもやってみて、変な話お客さんと同じ目で、観客の目で観ちゃって、いやぁ楽しかったとしかいいようがない(笑)ですね。ライブ・ハウスだとステージと客席というのが、普通は段が分かれていたりするんですけども、同一平面なので、その気になれば近くまで寄れるというと変ですけども、間近に見ることができる。本当に手元まで見ることができるという意味では貴重な機会だったんだと思います。惜しむらくは50人以上入れると本当に無理なので、そういう意味で「プレミアム」スタジオ・ライブということで、次回の原田郁子さんや高木正勝さん、このお二方もそれぞれファンをものすごい数抱えてらっしゃるアーティストなので、チケットは恐らく抽選になりますね。大友さんと漣さんのときもそうだったんですけど、ホント抽選で50名近くの方しかご覧いただけないという意味では心苦しいっちゃ心苦しいですが、しばらくはそうやっていこうかなと思っています。

配信(権利)者の方の質問 : DSDのマルチ・トラックでの制作というのは現在可能なんでしょうか?

K : 可能ですね。

配信(権利)者の方の質問 : DAWソフトとかも?

K : あります。ただ、現状スタジオ作業でデファクト・スタンダードとして知られているPro Toolsのような自由度があるDAWソフトというのは無いですね。非常にベーシックな編集しか出来ないですね。でもあります。それを使った制作をされてる方もいらっしゃいます。で、そういうものを敢えて使わないというのも、さきほどの話とちょっと被りますけど、やり直さない、編集しないというのをこのシリーズでは一つのポリシーにしようかなと。実際に(は)全部やり直しはアリにしてます。今のダメだったからもう一回最初から演奏し直しっていうのはアリと考えているんですけど、ここだけダメだったからここだけやり直そうとかはナシにしてます。良い悪いの問題じゃなくてこのシリーズはそうしようと決めています。ある種の限界状況をミュージシャンに与えることによって最高のプレイを引き出したいというところですね。

T : 本日はありがとうございました。

DSD配信曲はこちら

第1弾 清水靖晃+渋谷慶一郎『FELT』
2010年3月8日、東京芸術劇場中ホールで行なわれたコンサートより、この日が初顔合わせだった二人の、デュオでの演奏が6曲と、それぞれのソロ・パフォーマンスが1曲ずつ収録されています。

1.Kiwa / 2.フーガの技法 コントラプンクトゥス 第1番 / 3.パルティータ 第4番 アルマンド / 4.無伴奏チェロ組曲 第2番 サラバンド / 5.Dolomiti Spring / 6.Samayoe Renga / 7.Ida / 8.Stardust

販売形態
1.『FELT』DSD+mp3 Ver.(※1.16GB)
2.『FELT』HQD(24bit/48kHzのWAV) Ver.(※654MB)
第2弾 大友良英+高田漣『BOW』
2010年8月27日に一口坂スタジオで行われたライブ・レコーディング・イベント「Premium Studio Live Vol.1」の模様をお届け。

1.街の灯 / 2.It's Been A Long, Long Time / 3.教訓1 / 4.At The Airport / 5.BOW

販売形態
1.『BOW』DSD+mp3 Ver.(※1.15GB)
2.『BOW』HQD(24bit/48kHzのWAV) Ver.(※617MB)
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