インテル新CPU、比較テストでわかった実力と弱点
「Sandy Bridge」入門(下)
フリーライター 竹内 亮介
米インテルが1月5日に発表した新世代のCPU「コアiシリーズ」(開発コード名はSandy Bridge)は、複数の主演算回路(コア)とグラフィックス機能を一体化するなど、旧コアiシリーズから内部構造(アーキテクチャー)を一新した。多くのパソコンメーカーが2011年春モデルから採用し始めており、その性能は大いに気になるところだ。そこで今回は、デスクトップパソコン用の新コアiを使い、処理性能が旧コアiに比べてどれだけ向上したかを検証した。
テストしたデスクトップパソコン向けの新コアiは、CPU内に4つのコアを内蔵する「コアi7-2600」と、同じく4コアの「コアi5-2400S」の2製品。コアi7-2600は発表された新コアiシリーズの中では最上位クラスで実売価格は2万7000円前後。コアi5-2400Sはシリーズ中では最も動作周波数が低い低消費電力タイプで、実売価格は1万8000円前後だ。
比較対象は旧コアiシリーズの2製品
比較対象の旧コアiは、09年9月発売で4コアの「コアi7-860」と、10年1月発売で2コアの「コアi5-650」の2製品を用意した。
コアi7-860は発売当初の価格が3万円弱で、今回のコアi7-2600に近い価格帯に位置していた。また、どちらも1つのコアで同時に2つの命令を処理する「ハイパースレッディング」という高速化技術を採用しており、新旧製品の性能を比較するにはちょうどいいはずだ。ただし、コアi7-860はグラフィックス機能を内蔵していないため、テスト用のマザーボードには米エヌビディアの低価格なグラフィックス用GPU「GeForce GT 430」搭載のビデオカードを外付けしている。
もう一方のコアi5-650も、発売当初は今回のコアi5-2400Sと同価格帯で売られており、シリーズ内の序列も近い。演算処理を行うメーンチップとグラフィックス用チップを1つのCPU上に並べて封入した構造となっており、新コアiの目玉であるCPU内蔵グラフィックスと比べて、グラフィックス性能がどれだけ上がったかが比較のポイントとなる。
なお、今回テストした4製品はすべて、コアの使用状況などに応じて自動的に動作周波数を引き上げる「ターボブースト」機能を備える。また、テストに使ったマザーボードは、コアi7-2600とコアi5-2400Sが香港ZOTAC製の「H67-ITX WiFi」、コアi7-860とコアi5-650が台湾ギガバイト製の「GA-H55M-UD2H」。CPUとマザーボード以外の環境はすべて共通で、メモリーは4ギガバイト、ストレージは128ギガバイトのSSD、OSは「ウィンドウズ7」の64ビット版を使った。
総合性能は新「コアi7」が他を引き離す
最初のテストは、一般的なソフトウエアの使用状況を再現するツール「PCMark Vantage」(米FutureMark)を使い、日常的な作業における処理能力を数値で比較した。グラフ1は、各テストの総合スコアにあたる「PCMark」の結果で、数値が大きいほど性能が高いことを示す。頭ひとつ抜けた数値をたたき出したのは、やはり新製品のコアi7-2600だった。大半のテスト項目で他を上回っている。
新製品のコアi5-2400Sは、総合スコアでは旧世代のコアi7-860とほぼ同じ数値だが、ウェブでの描画処理能力やデータの暗号化機能をテストする「Communications(コミュニケーションズ)」とビジネスソフトでの各種編集やウィンドウズのファイル検索の効率などを計測する「Productivity(プロダクティビティー)」はコアi7-860を上回った。ゲームなどの3次元(3D)グラフィックス性能を示す「Gaming(ゲーミング)」などはコアi7-860が上だった。
日常よく使う例として、音楽CDをパソコンに取り込む処理も試してみた。アップルの音楽管理ソフト「iTunes 10.1.1 for Windows」で、CD1枚分のデータをAAC形式の音楽ファイルとしてパソコンに取り込むまでの時間を測ってみると、結果は4製品とも1分58秒で横一線だった。CPUの使用率も10~15%とほとんど変わらない。最近のCPUは性能が底上げされており、この程度の負荷では差が付かないことがわかる。
3D描画のテストは厳しい結果に
次は、3Dグラフィックスの描画性能を比較するため「3DMark06」(FutureMark)を使った。このテストはCPUの性能はあまり関係なく、グラフィックス回路の処理性能で差が付く。
結果は、グラフィックスカードを外付けした旧世代のコアi7-860が他を大きく引き離した。新コアiは、演算処理回路とグラフィックス用の回路を1つのチップに一体化することで信号のやり取りを高速化したという理屈だが、コアi7-2600もコアi5-2400Sも数値上はコアi7-860の半分にとどかない。負荷の大きいPCゲームを快適にプレーしたいユーザーにとっては、まだまだ物足りないようだ。
実際にPCゲームを動かした結果も同様だった。カプコンの対戦格闘ゲーム「ストリートファイターIV」を動作させて、「ストリートファイターIVベンチマーク」と呼ぶツールで計測したところ、やはりコアi7-860がトップだった。画面表示もスピーディーでコマ落ちなどは一切生じない。
一方、グラフィックス機能を内蔵する他の3製品は、画面表示が頻繁にコマ送り状態になり、まともにプレーできる状況ではなかった。新コアiは旧世代のコアi5-650と比べれば進化したとはいえ、本格的なPCゲームで遊ぶにはまだ外付けのグラフィックスカードが必要という結論になる。
「クイック・シンク・ビデオ」の効果は絶大
最後に、新コアiの新機能である「クイック・シンク・ビデオ」の効果を調べた。これは、映像のデコード(復号)・エンコードを担当する専用チップを追加して処理を高速化するとともに、CPUの使用率を下げるという機能だ。
これを使うには対応ソフトが必要で、いち早く対応を表明した製品が出てきている。今回は、動画ファイルを携帯電話や携帯音楽プレーヤーなどに最適化された形式にエンコードする「MediaEspresso6.5」(サイバーリンク製)と、高度な動画編集機能やさまざまな形式に動画を変換する機能を持つ「TMPGEnc Video Mastering Works5」(ペガシス製)の2つのソフトを使い、クイック・シンク・ビデオを使うときと使わない時で、エンコード時間にどの程度差が出るかをテストした。
オリジナルの動画ファイルは、ソニーのデジタルカメラ「DSC-HX5V」で撮影した。解像度は1920×1080ドットで、転送レートは毎秒17メガビット。時間は5分19秒で、ファイル容量が654メガバイトの動画を使った。
まずMediaEspresso6.5では、アップルの多機能端末「iPad」用に軽量ファイルを作るという比較的負荷の低い処理を試した。元の動画を動画形式がMPEG4 AVC(H.264)、音声形式がAAC、解像度が1280×720ドット、画面比が16:9の動画に変換した。
一方、TMPGEnc Video Mastering Works5では、1920×1080ドットの解像度を維持する負荷の高い処理を試した。元の動画をMPEG4 AVC形式でプロファイルが「High」、解像度が1920×1080ドットに変換した。エンコード方式は2パスVBR(可変転送レート)、変換後の転送レートは最大毎秒9メガビット、平均毎秒6メガビットに設定した。
グラフの「CPU名+HW」はクイック・シンク・ビデオを有効にしたときの結果で、それ以外はクイック・シンク・ビデオを有効にしない、またはその機能がないコアi7-860の結果だ。単位は「時間:分:秒」で、いずれもかかった時間が短いほど性能が高いことを示す。
どちらのテストでもわかるとおり、クイック・シンク・ビデオの効果は絶大だ。コアi7-2600とコアi5-2400Sは、コアi7-860に比べると処理時間が4分の1程度に短縮する。コアi7-2600とコアi5-2400Sの差がほとんどないことにも注目したい。新コアiであれば、少なくともエンコードに関しては低価格な製品でも上位モデルに匹敵する性能があるということだ。
どちらのテストでも、クイック・シンク・ビデオを有効にしないとCPU使用率が100%近くに上がる。しかし、有効にすると20~40%程度で収まり、エンコード中にほかのソフトを使っても操作に引っかかりを感じたりすることはなかった。
性能重視なら新コアi搭載モデルがおすすめ
今回のテストで、新コアiのおおよその性能が確認できた。PCMarkVantageでは総合スコアで確実に旧コアiを上回り、クイック・シンク・ビデオを使用した動画エンコードは、比較にならないほどの差を付けた。安さ優先で型落ち品を狙うのもパソコンの買い方の1つだが、性能重視であれば迷わず新コアi搭載の新モデルを選ぶべきだろう。
一方で、3Dグラフィックスの描画性能は、旧コアiより改善したもののまだ弱いことがわかった。今回使用した外付けグラフィックスカードは性能の低いグラフィックスチップを搭載したものだが、差は歴然としている。もっともこれは、3Dグラフィックスを多用するPCゲームのような用途に限った話で、ウィンドウズ7の「Aero」機能などを使う分にはなんら問題ない。
今回はデスクトップパソコン用のCPUをテストしたが、新コアiシリーズを搭載した11年春モデルのノートパソコンも徐々に市場に出回りつつある。ノートパソコンでも引き続き同様のテストをしていく予定だ。
1970年栃木県生まれ、茨城大学卒。毎日コミュニケーションズ、日経ホーム出版社、日経BP社などを経てフリーランスライターとして独立。モバイルノートパソコン、情報機器、デジタル家電を中心にIT製品・サービスを幅広く取材し、専門誌などに執筆している。