The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

ノスタルジーを乗り越えて SUPER8/スーパーエイト

 というわけで「SUPER8/スーパーエイト」を観てきた。これ、予告編がとても期待感をあおるもので予告編を見てのドキドキ感は今年一番。また、ほとんど事前情報が出ないという極秘体制だったので嫌がおうにも期待は増幅された。で、結果から言うと凄い傑作でした。ネタバレあり!

物語

 1979年オハイオ州の田舎町。保安官代理の息子ジョーを始めとする5人の少年は自主制作のゾンビ映画を作っていた。ある夜、主人公の恋人役にジョーが淡い恋心を抱くアリスを招いて撮影をしていた。スーパー8mmカメラを使い撮影しているとそこに来た列車に自動車が追突し大事故がおきる。何とか無事だった6人だがそれ以降町に次々と異変が起きる。そしてカメラは特別な何かをとらえていた・・・

二人のスティーブン

 80年代のエンタメシーンを支えたのは二人のスティーブンだと思っている。一人は勿論スティーブン・スピルバーグでもう一人はスティーブン・キング。この二人は映画と小説でそれぞれ名を残しているが似た生い立ちでもある。ほぼ同年代であり、小さい頃に父親を失っている(スピルバーグは離婚、キングはタバコを買いにいったまま行方不明)。しかしその父親が二人に強い影響を与えた。いなくなって後二人は父親の遺したホラー雑誌、SF雑誌などを発見し、それが生き方を決定付ける。一人は「激突」「ジョーズ」でハリウッドのトップに登りつめ、一人は「キャリー」でモダンホラーのパイオニアとなる。実際もしこの二人がいなければアメリカの、ひいては世界の80年代文化は大分違ったものになっていたのではないか。
 で、何でこんなことを書いたかというとこの二人、生い立ちが似てるだけでなく作風も結構似てるのである。都会よりも田舎町を舞台にした少年達の冒険、といったモチーフが多い。現在のところがぶりよつで二人が組んだ作品はなかったと思うが一度くらいはコラボして欲しいと思う(もしすでにしてたらゴメン!)。実は今回の「スーパー8」もスピルバーグとエイブラムスは勿論だがほのかにキングの香りも感じたのだった。「スタンド・バイ・ミー」と「E.T.」(このふたつなんてある意味兄弟みたいな作品だ)、「グーニーズ」、「IT」。そういった作品群。閑話休題。 

J・J・エイブラムス

 前回の再録した記事の中で、エイブラムスについて

J・J・エイブラムスは「MI3」にしても「ST」にしても、そつのない演出をするけどコレといって特出するものはない印象。「ST」にしても8割方脚本とキャスティングの勝利なわけで仮に違う人が監督をしていたとしてもそう違ったものにはならなかったのではないかな、と思う。

 と書いたのだが、今回は文句なしに上手いと言わざるを得ない。全体的なプロットは「E.T」と一緒で今回もまず脚本(脚本もエイブラムス)が上手かったりするのだが子供達に対する演出。あるいは列車が脱線して次々と車両が宙を飛ぶ一連のアクション(あれはアクションといってもいいと思う)。「MI3」のバチカンのくだりとかも上手かった。やっぱり、脚本上手くても演出が下手だとダメだもんなー(前後撤回、自己矛盾)。勿論今回はスピルバーグ諸作品(とりわけ「E.T.」)に対するオマージュ的な部分は多いんだけど、そこは時代設定を自分の子供の頃にしているだけあって単なる模倣ではなく自分のものにしていると思う。彼の年代だとちょうど映画とかを意識的に見始めた頃にアメリカン・ニュー・シネマが終わってスピルバーグの洗礼をリアルタイムで受けているのだなあスピルバーグというとその存在の割りに今までエンタメど真ん中のためか後継者的な人材があまり出なかったような気もするが(ジョー・ジョンストンあたりが近いかなと思う)エイブラムスは作品製作の面(単純に監督だけではなく製作者としても)からもスピルバーグの後継者といってもいいのかもしれない。

キャスト

 主人公のジョー(ジョエル・コートニー)はこれがデビュー作らしい。「小さな恋のメロディ」のジャック・ワイルドを少し優しくしたような風貌。ディック・スミスの本から特殊メイクを自主学習するような映画オタクだ。これは幼馴染のチャールズの影響を受けたものか。あるいはキングやスピルバーグがそうだったように死んだ母親がそういうのが好きだったのかもしれない。
 その幼馴染のチャールズは映画監督志望でデブだがチームのリーダー。10代にして映画理論を使いこなす未来の大監督(ただしゾンビ映画専門)。「スクリーム」シリーズのジェイミー・ケネディを思わせる。実は彼もアリスに恋心を抱いていて親友ジョーとその話をするシーンは実に良かった。そのほか主演俳優ののっぽのマーティン、カメラ担当のプレストン(潔さが彼の身上)などがいるが、個人的に好きなのは火薬オタク・ケアリー。この爆破命の火薬野郎が最後大活躍するのである。「小さな恋のメロディ」にも爆弾オタクいたね。
 で、何と言ってもヒロインのアリス役のエル・ファニングである。ご存知の通りダコタ・ファニングの妹なのだがこれがまだ13歳とは思えぬ大人びた感じ。姉貴の方は安達裕美に似て大きくなっても子役っぽいのに・・・凄いスタイルいい。これは松井珠理奈がまだ14歳だったと知ったとき並みの衝撃。将来的にも期待のできる未来の有望株。はっきりって姉より好みです。劇中劇のリハーサルで素晴らしい細やかな演技で周りを感動させた後、肝心の本番は通過する(後脱線)列車がうるさいのでただ大声で怒鳴るだけ、というのも面白い。
 で、彼らが劇中で作ってた自主制作映画(この映画に使われたフィルムが「スーパー8」である)はゾンビ映画でなかなかよく出来ているのだが、パンフによるとこれ、監督が子供達に「劇中劇何撮りたい?」と聞いて、子供達が「ゾンビ映画がいい」ということになり脚本から何からほぼ彼らだけで作ったのだそうだ。「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」冒頭を思わせるラスト、50年代風の服装などセンスが光る。ちなみに監督であるチャールズの部屋には「ゾンビ」のポスターが貼ってあります。
 一方大人組は保安官代理のジョー父親ピーター・ジャクソン版「キング・コング」で勇ましいのか情けないのかよく分からない俳優ブルース・バクスター(オリジナルのジャック・ドリスコル役をエイドリアン・ブロディと分け合った)を演じた、カイル・チャンドラー*1。飄々とした感じを出しながらも息子思い(時に強引な)の父親を上手に演じている。
 ヒロインであるアリスの父親、金髪のロン毛に太いもみあげ、筋骨隆々のバイキングみたいなダメ人間を演じているのがロン・エルダート。彼が昼間から酔っ払って勤め先の工場を無断欠勤した結果、代わりに出勤したジョーの母親が死んでしまったという経緯があるためジョー一家との仲は複雑でそれがアリスとの仲もこじれさせる原因となる。
 その他、街に黙って隠ぺい工作をする軍人(アメリカ空軍)側の代表がノア・エメリッヒ。彼も含めて大人組は皆1965年生まれでエイブラムス(1966年生まれ)と同世代。面白いのは64〜66年生まれの1979年当時劇中の少年達の年齢だった世代がこの作品では親を演じているんだよね。
 その親と子の中間世代であるヒッピー風のボンクラ青年がショーン・ウィリアム・スコットを思わせていい感じ。

 結果として空軍が秘密裏に捕獲していたエイリアン(知的生命体)を虐待してたため心ある関係者が逃すために輸送列車を事故らせる。それが原因として町に異変が起こるのだけど、このエイリアンが怪獣を兼ねていてこれが「クローバーフィールド」の怪獣と「地球へ2千万マイル」のイーマを合体させたようなデザイン。どちらかといえば「クローバーフィールド」寄りでただ人間を襲う脅威としてだけならともかく知性のある同情できる生命体としては微妙なデザイン。少し物語的にも客が感情移入させるには難しい。一応知性を取り戻してからはお目眼がつぶらになる描写もあるんだけど。
 ラスト。ジョーは母親の形見のロケットを手放す。それはエイリアンが地球を去ると同時にこれまでの後ろ向きな母親へ思いを捨て、新しい明日へ前向きに向かう、という決意なのかもしれない。

おまけ妄想

 この映画は世界観は「クローバーフィールド」と地続きだね!絶対空軍はあのエイリアンの細胞とかサンプルとってたはずだし、それを30年かけて復元させる過程で生まれたのがあの怪獣なんだよ、きっと。似すぎだし(まあ、同じ人がデザインしてるからだけど)。「タグアルト社」の名前も劇中で出てきたようだ(僕は見逃した・・)。勿論お遊びもあるだろうけど。
 後、エンディングに当時をあらわすヒット曲として一発屋の代名詞ザ・ナックの「マイ・シャローナ」が流れるんだけど、これタランティーノ(彼もエイブラムスとほぼ同世代だ)が「パルプ・フィクション」で使いたかったらしく何かのインタビューで「ケツを犯されるとき*2にかけるには最高の曲だ」みたいなことを言っていたのが記憶にあるので少しこそばゆかったです。

*1:関係ないが「地球が制止する日」でチャンドラーが演じた役名はジョン・ドリスコルである

*2:ブルース・ウィリスヴィング・レイムスがゼッド達に襲われるシーン