◆今回の注目NEWS◆

行刷会議、IPAの中核事業にメス(日経コンピュータ、12月16日)

【ニュースの概要】 政府の行政刷新会議は2010年11月26日、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が手掛ける中核事業について見直しの方針を決めた。「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」の一環だ。見直し対象になったのは、「オープン・クラウド環境整備」「高度IT人材の育成」「情報システムの信頼性の向上」「情報セキュリティ等対策の推進」といった中核事業である。


◆このNEWSのツボ◆

 行政刷新会議が、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の事業に大胆に切り込んだようだ。確かに、IPA事業をまったく見直す必要がないと言うつもりもないが、今回の見直し内容には疑問が残る。

 見直し内容を簡単に整理すると、
●オープンクラウド環境整備 → 廃止                ( 4.5億円)
●情報処理技術者試験    → 民間移管             (31.2億円)
●情報システム信頼性向上  → 民営化を含めた抜本的見直し ( 8.5億円)
●セキュリティ対策の実施  → 費用の大幅削減と体制見直し  (13.8億円)
といったところである。これらの事業予算の合計は、約58億円となるが、このうち情報処理技術者試験は、受験料で賄われているから、実際の事業見直しによる削減効果は、大きくても数億円であろう。

 しかし、たとえば「信頼性向上」事業で行われたモデル契約に関する検討などは、いまだに我が国で、ソフトウエア(システム開発)に関する最初の、そして、いま最も利用されているモデル契約である。こうした仕事は民間では、おそらく困難であったろう。

 また、IPAが提供するコンピュータウイルスなどに関するセキュリティ情報が、わが国で最も利用されるものの一つであることは事実だし、また国際的な情報交換機能の一端を担ってもいる。

 これらの事業に共通するのは、経済学でいう「外部経済効果」が大きく、民間の力では進みにくいという点である。たとえばセキュリティ対策でビジネス化できる分野は、ウイルス対策や侵入検知、ファイアウォールなどの限定的なものにとどまっている。それゆえに、たとえば米国では、同時多発テロ(いわゆるSeptember-11)を経て、情報セキュリティ対策は、国土安全保障省(国防省ではない点に注意)の重要な任務の一つとなっている。

 事業仕分けもそうであるが、最近の行政見直し、行政刷新のターゲットは、どうも“大向こう受け”しそうなもの、あるいは、単に既存の官庁組織などを悪者にする---という傾向が否めない気がする。

 もちろん、IPAにも見直されるべき事業は存在する。特に、民間ですでに取り組みが進んでいる事業に新たに国費を投入するような仕事は、かえって市場を阻害することもある。しかし、今回のターゲットに関しては、疑問を抱いてしまうのが正直なところである。

安延 申(やすのべ・しん)
フューチャーアーキテクト社長/COO,
スタンフォード日本センター理事
安延申

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後,コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO,スタンフォード日本センター理事など,政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。