宇宙航空研究開発機構(JAXA)と茨城大学は8月30日、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載した、JAXAの微小粒子捕獲実験および材料曝露実験「MPAC&SEED実験装置」において、これまでにない鉱物学的特徴を持つ、「Hoshi」と命名された新種の地球外物質を回収したと発表した(画像1)。

画像1。シリカエアロジェル内の光学顕微鏡写真(断面図)と捕獲された「Hoshi」の拡大写真。上はシリカエアロジェル内の微小粒子の飛跡で、下はHoshiを含むシリカエアロジェルの断面の電子顕微鏡画像

Hoshiは、惑星間塵(成層圏で回収された地球外微粒子で、彗星と小惑星起源の塵があるとされる)や微隕石(主に南極の氷あるいは雪を融解濾過して回収される地球外微粒子で、多くは小惑星塵とされる)と成因的な関係があり、なおかつ今までに見出されていない組織と鉱物組成を持つ微小粒子が発見されたことは世界初だという。

このことは、まだ研究グループが手にしたことのない鉱物学的特徴を持つ始原的な地球外物質が存在していることを示しており、太陽系誕生の初期の時代に何が起きたかを解明するための新たな手掛かりとなるという。分析結果については、学会誌「Earth and Planetary Science Letters」において2011年に掲載されたが、このたび、成果を日本鉱物科学会年会で発表することから、改めて発表がなされた形だ。

MPAC&SEED実験装置は、微小粒子を捕獲する装置(MPAC)と材料を宇宙環境に曝す実験装置(SEED)から構成される。MPACは、近年問題視されているスペースデブリ(宇宙ごみ)およびマイクロメテオロイド(微小隕石)を捕獲し、その起源や存在・分布量を把握することを目的としている。またSEEDは、宇宙曝露環境下で使用される宇宙機用材料の耐宇宙環境性の評価や劣化メカニズムを解明することを目的とした装置だ。

両装置は2001年にロシアのISS施設であるサービスモジュール「Zvezda(ズヴェズダ)」に設置され(画像2・3)、2002年から2005年にかけて3回に分けて試料を回収した後、さまざまな観点から分析が行われた。Zvezdaはロシア語で「星」を意味することから、Hoshiと命名された次第だ。

画像2。ISSサービスモジュール・Zvezdaとサービスモジュール搭載MPAC&SEED実験装置(2002年4月撮影)。(c) Roskosmos/RSC-Energia

画像3。MPAC&SEED実験装置一式

この内、2005年に回収された「シリカエアロジェル」(0.03g/cm3の低密度で半透明の固体物質)に捕獲されていた、大きさ30μm程度の微小粒子について、茨城大学の野口高明教授との共同研究による分析の結果、始原的な隕石を特徴付ける「コンドルール様物体」であるものの、既知のコンドルールには見られない鉱物学的特徴を持つことがわかった。

コンドルールとは、太陽系が誕生して間もない頃の情報を多く有していると考えられている球状粒子のことで、多くの隕石中に見られ、地球の岩石には見られない特徴的な粒状構造を有している。また、コンドルールによく似ているが、彗星塵に含まれる、大きさのずっと小さな物体をコンドルール様物体と呼ぶ。

既知のコンドルールには見られない鉱物学的特徴とは、Hoshiに含まれるニッケル(Ni)に富む硫化鉄は、均質でかつNiに富む相を離溶(ある状態の物質がゆっくり冷却することで、ある温度で二相またはそれ以上の明瞭な相に分離すること)していないことから、900℃以上で均質化した後は100℃以上に加熱されていないことがわかった。このような硫化鉄を含むコンドルールはこれまで発見されていない。

分析結果ではさらに、Hoshiに含まれる鉱石(カンラン石や輝石)の酸素同位体比は、これまでに地上や大気圏で得られた惑星間塵、微隕石およびヴィルト第2彗星塵(NASAスターダスト衛星によってサンプルリターンされた塵)に似ていることが判明した。

なお、酸素同位体比は、太陽系の天体ごとに異なっていると考えられている。また、20世紀末にロシアのミール宇宙ステーションでも地球外物質が捕獲されたが、その時は酸素同位体比の測定は行われていない。

Hoshiはコンドルール様物体でありながら、微隕石およびヴィルト第2彗星塵に似た酸素同位体比であるという特徴を兼ね備えた物質で、このような物質はこれまでのところ発見されていなかった。そのため、Hoshiは今までに知られている地球外物質とは違う小天体を起源とする物質と考えられるという。

ただし、惑星間塵や微隕石にHoshiと似た鉱物学的特徴が見出されていない理由として、大気圏通過時あるいは地上における分解・風化が原因という可能性もあるとしている。

どちらにしろ、今回のHoshiの捕獲は、ISSにおけるサンプル収集が地球外物質をそのままの状態で捕獲するという観点で重要な役割を果たしていることを示したものとなった。

MPAC&SEED実験装置は、その後、ISSの日本の実験棟「きぼう」船外実験プラットフォームに搭載されており(画像4)、2010年に試料が回収されている(画像5)。シリカエアロジェルで捕獲された微小粒子について分析が進められており、今後も、太陽系誕生の謎に迫る新たな発見が期待されるという。

画像4。ISSの「きぼう」船外実験プラットフォームに搭載されたMPAC&SEED実験装置

画像5。宇宙飛行士による実験装置回収の様子