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ゴーゴーカレーの米国人記者来日「カレーにピザを漬けて食べた」


■ 「ゴーゴーカレー」を愛する外国人ゲーム記者

2010年9月15日からはじまった、今年で20回目を迎える日本最大規模のゲームの祭典「東京ゲームショウ」。この時期になると、はてなブックマークでは、一人の外国人が話題になる。その名は、Chris Kohler(クリス・コーラー)――。2008年、「ゴーゴーカレー」に熱狂的な賛辞の言葉を送った伝説のWIRED VISION記事によって、日本のネット(の一部)の話題をかっさらい、鮮やかな印象を日本人(の一部)の心に残したゲームライターだ。

ニューヨーク発――日本のカレーは、世界で最も完成されたカレーだ。これに異を唱える人がいるとすれば、理由はただ1つ、日本のカレーを食べたことがないからだ。

ともかく1200を超えるブックマーク数をつけた、大人気記事となっている上のエントリーを読んでみてほしい。たぶん、読者は何が何だかよく分からないだろう。なぜこの外国人は、こんなにも日本のカレーに入れ込んでいるのか。もちろん、その理由を記したのがこの記事なのだが、読めば読むほどそんな疑問が頭をもたげてくるのだから不思議である。「ヘロイン中毒との唯一の大きな違いは、ヘロイン中毒は長期間ヘロインを断てば中毒でなくなる点だ」というくだりに至っては、ほとんど「何を言ってるんだお前は」の世界である。
だが、この記事は日本で大きな話題を呼んだ。そのためか昨年来日した際には、彼はWIRED VISION日本版にカレーレポートを3本も掲載した。それだけではない。彼はついでに『おっぱいバレー』の感想記事まで書いた(参考:http://wiredvision.jp/news/200909/2009091820.html)。それらの記事を読めば分かるように、明らかに彼は「にわか」の日本好きではない。もちろん、突然「コブラ会」など総合格闘技関係のマイナーな名詞が登場してくる辺り、何か非常に偏ったルートで情報を得ている可能性もある。だが、彼が相当な日本通であるのは伝わってくるだろう。

■ 「もうすぐ私のバーチャルボーイのコレクションは、コンプリートです」

今回の会場となった欧風カレー料理店「ボンディ」は、「神田古書センター」2F漫画コーナーの奥でひっそりと営まれている。そこでわれわれが予約された席で待っていると、大柄なアメリカ人が登場した――クリスである。


会場となった、神保町のカレー料理店。

参加者が席につき簡単に自己紹介を終えると、さっそくクリスの日本における食生活への質問が飛んだ。クリスの返答は我々の期待を裏切らないものだった。彼は、本当に毎日カレーばかり食べていた。東京に来てから5日間、CoCo壱番屋やゴーゴーカレーでカレーを食べ続け、あげくの果てに原稿執筆の合間に行ったシェーキーズでは、ピザをカレーに漬けて食べたという。さすがに、これは「うまいのか?」と参加者も苦笑していた。
だが、むしろ今回のオフ会で話題の的になったのは、彼のゲームオタクっぷりの方だろう。そもそも、クリスの本業はゲームライターである。彼の著作のうち一つは、日本のゲーム業界の歴史について書かれた本で、邦訳もされている(参考: Chris Kohlerはただのカレーキチガイちゃうで! 著名なゲームジャーナリストやで! - YAMDAS現更新履歴)。わざわざレトロゲームをネタに書籍を執筆するだけあって、話の内容もかなりマニアックな話題に踏み込んだものであった。

日本語と英語を交えて、ゲームについて熱弁をふるうクリス。日本語を勉強したキッカケは、英語版が出ていなかったFF Vをプレイするためだったらしい。

ちなみに、主催者が「今回の来日では何を買ったんですか」と聞いたところ、彼は『バーチャル ラボ』というバーチャルボーイのソフトを挙げていた(なお、前回の来日では、秋葉原でパイオニア「レーザーアクティブ」のソフトを見つけて、大喜びしていたという)。彼曰く、「もうすぐ私のバーチャルボーイのコレクションは、コンプリートです」とのことである。筆者の周囲にもレトロゲーム好きはいるが、バーチャルボーイのソフトを全コンプしようとしている人間は初めて見た。オフ会参加者からは「そもそも、よく動くのを持ってますね」と感嘆の声が上がっていた。

■ カレーを食べるクリスの撮影がはじまった

さて、そんなこんなでカレーとゲームで国際交流を続けているうちに、ついに注文した料理が来た。


「ボンディ」のビーフカレー中辛、チーズのせ。かなり美味しい。

クリスが頼んだのは、ビーフカレーの中辛とチーズトッピング。ここのカレーは元からライスにチーズがかかっているのだが、そこにさらに彼はチーズをトッピングしているわけである。確かに、彼は心臓発作を怖れてはいない
クリスがカレーを食べはじめると、参加者がパチパチと写真撮影をはじめた。クリスもポーズをとって応じている。まるでアイドルである。なお、一番上の写真は、その際に筆者もオフ会参加者と一緒になって、撮影したものである。


カレーを前にご満悦のクリス。


そうこうしているうちに、みんなあっという間にカレーを食べ終えてしまい、その後も会話は盛り上がり続けた。会話の内容も何やら深遠な内容になりはじめていて、日本とアメリカのゲームの違い、「日本に比べて米国のゲームは自由度が高いのはなぜか?」「日本のゲームはキャラクターを中心に作られている」などの話題で、ゲーム好きの参加者と会話が盛り上がっていた。
それにしても、一体なぜクリスはこんなにも日本のゲームが好きなのだろうか? また、どうしてこんなにも日本文化に興味を持っているのだろうか? そこで筆者も参加者の会話に交じって、クリスに質問してみることにした。

――日本文化に興味を持ったきっかけは?

子どもの頃には、スーパーマリオやゼルダの伝説をプレイしていましたが、それが日本から来たものとは気づいていませんでした。でも、そのうちに、自分が好きなゲームはどれも日本から来たものだと気づいたのです。また、大きくなるにつれて、だんだん日本からマンガやアニメが入ってきました。それらはアメリカのコミックスなどとはまったく違うものでした。僕は、周囲の人たちとは少し違っていて、そういう変わったものに興味を持っている人間でした。僕は「オタク」っぽいのだと思います。

――大学で日本語を専攻したということですが、やはり日本のサブカルチャーが好きだったからですか?

そうです。やはり当時はそういったものに興味がありましたから、3年生の専攻を決める時に選びました。金沢大学に留学した際には、子どもの頃にゲーム雑誌を見て欲しかった、スーパーファミコンなどをすぐに買いに走りました。当時、私の部屋の中にはゲームがたくさん積み上げられていました。

――かなり日本のポップカルチャーがお好きなようですが、どこに魅力を感じますか?

難しい質問ではありますが……そうですね。例えば、アメリカのマンガはスーパーマンやバットマンなど非常にシリアスなものばかりですが、日本のはもっと面白くて種類が沢山あります。ロマンチックコメディや馬鹿なコメディなどですね。日本人の作るキャラクターは、クレイジーに見えました。アメリカのコミックには、80年代から90年代にはそういうのはありませんでした。とはいえ最近は、日本の作品に影響を受けて、そうした作品も増えています。

■ はてなブックマークを知っているかどうか?

よい機会なので、「ゴーゴーカレー」記事のブックマークコメントをiPadでクリスに見せて、その反応を確かめてみることにした。


はてなブックマークのコメントページ。1200を超えるブックマークが付いた大人気エントリーである。

クリスは、はてなブックマークで自分の記事が人気を呼んでいたのを知っていた。日本で話題になった際に、今回のオフ会主催者の方から連絡がいったとのことである。あの記事はアメリカ人に向けて書いたものだったのだが、向こうではほとんど反応がなく、日本でばかり大ウケしているそうだ。ちなみに、あれほどの長文を書き連ねた理由は、執筆時に乗っていた飛行機のフライト時間が長かったからつい……だったらしい。クリスは、「読んでくださってありがとうございます」と感謝の言葉を述べていた。

会は結局2時間以上にわたって続き、夜9時過ぎにお開きになった。クリスは、翌日も東京ゲームショウの取材に出るため、そろそろ帰らねばならないとのことであった。「東京ゲームショウ」は今月21日まで幕張メッセにて開かれている。来場した際には、もしかしたら彼に会うことが出来るかもしれない。ちなみに、帰り際に主催者の方にご挨拶をしたところ、「来年もやりたいと思ってますので、ぜひ」というお話をいただいた。酔狂な読者の方は、来年のオフ会に参加してみてはいかがだろうか。

文: 稲葉ほたて

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