Appleが現行のMacBook Air (mid-2011)でAMD製Fusionプロセッサの「Llano」を採用する計画を持っていたという元AMD従業員のコメントを米Forbesが報じている。この計画がどの程度進んでいたのかは不明だが、結局AMD側がLlanoの早期サンプルのAppleへの提出を間に合わせることができず、採用計画はご破算になったようだ。もし実現していればプロセッサとしては初のAMD製品採用ということになり、AMDの事業計画にも大きな影響を与えていた可能性がある。

この件はForbes (オンライン版)が「Apple Considered Putting AMD Processor In 2011 MacBook Air」のタイトルで報じている。これはもともとは3月12日号のForbes誌面に掲載される「The Predator」という記事を抜粋したものだ。この記事ではAMDの新CEOに就任したRory Read氏を中心に、AMDの成り立ちから過去の苦難、そして将来への道筋をまとめている。そのサイドストーリーにはいくつか興味深い話があり、例えば「AMD Talked With Nvidia About Acquisition Before Grabbing ATI」というAMDがATIの買収を決定するまではNVIDIA買収を計画していたという逸話もあった。今回のAppleへの製品提供計画にまつわるエピソードも、そんなサイドストーリーのひとつというわけだ。

AppleはもともとMacBookのようなノートを含むMac製品ラインでATIのRadeonを採用していたが、後にMacBookを中心にディスクリート/チップセット統合型のNVIDIA GeForceにスイッチした。NVIDIA製品はIntelのグラフィック統合型チップセットより性能が高いものの、製造トラブル等でたびたび問題を起こしており、それを巡ってAppleとNVIDIAの間でやり取りが続いていたことが知られている。最終的に2011年の段階で薄型軽量モデルのMacBook AirはIntelの統合型チップセットを、MacBook ProはIntelチップセット+AMD Radeonの組み合わせを採用し、現在に至っている。

そしてNVIDIAは現在はチップセット事業を縮小しており、GeForceなどのディスクリートGPU、GPUコンピューティングのTesla、モバイルSoCのTegraの3製品へとフォーカスを絞っている状態だ。結果、Appleとの縁が薄くなったかに見えるNVIDIAだが、一方で、現行製品ではATI Radeonを採用しているMac ProでNVIDIAグラフィックスを採用するとの噂があったりと、Appleがベンダー間の力関係を調節しようと動いているようにも見えて面白い。

今回のForbesの報道によれば、そんなNVIDIAからIntel+AMDラインへのスイッチが行われたタイミングで、MacBook AirのプロセッサにもIntel製品ではなくAMDのFusionプロセッサを採用する計画があったということになる。だが前述のようにFusion開発の難航からLlanoのサンプル提供が遅れ、最終的にMacBook AirはIntelプロセッサを搭載してリリースされることになったようだ。ただし、実際に複数のAMDの元従業員が話したところによれば、AMDとAppleが最終的な契約締結にどこまで近付いていたのかは疑問だという。実際にオファーがあったことは認めつつも、Llano自体の欠陥もあって最終的に採用に至らなかったという見方もあるようだ。

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