"見ろ、オレの必殺技、超級列車砲!"『アンストッパブル』


 さて、年甲斐もなくツンデレ大活劇な『ロビン・フッド』を作ってる兄貴(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101230/1293672340)に続いて、弟のトニー・スコット監督も新作を発表であります。
 簡単に言うと、

 まあこんな感じ……。


 大量の燃料と有毒な化学物質を積んだ貨物列車が、運転士のミスで無人のまま暴走を開始する。時速110キロを超える速度でこのまま進めば、人口密集地で脱線し、大惨事となる。鉄道会社は損失を怖れて脱線の機会を逸し、停止作戦にも失敗する。偶然、同線に出ていた新人車掌とベテラン運転士は、自らの機関車で、暴走する怪物と化した列車を追う。市街地に住む家族を守るために……。


 赴任してきたばかりの新任車掌の視点に対して、貨物列車運用の基本がレクチャーされる親切設計。ベテラン運転士と新任車掌の会話で、やや慣れないぎこちなさを孕みながらもアメリカンらしいフランクさで、彼らの家族関係も小出しにしていく。
 我々観客にとって映画というのは、基本「初めまして、これから2時間ほどよろしく」というものなんですよね。我々はこの主人公の新任車掌のように、勝手を知らない世界に不意に飛び込んで行く。そこをいかにスムーズに物語の世界に引き込むのか、という基本中の基本をしっかりやっている。シンプルな構成で、わずか100分ほどを見せる今作だからこそ、こういう部分が効いてくる。


 ここ最近のトニスコ演出は、カット割や場面転換でスローモーションやエフェクトなどやりすぎで、ここでそんなテクニカルなことする意図は?と、やや迷走している感があったのだが、今作はゆったりと緩急をつけ、列車がじょじょに加速していくと共に、物語が転がりだす感覚を出している。
 ほんとうに小さなうっかりさんの連鎖から、貨物列車が転がりだしてしまう冒頭。出だしは大した速さじゃなくて、みんな飯食いながら笑ってる。一報を聞いた指令所も「ブルシット! めんどくせ〜な〜」という態度。しかし、ブレーキかかってとろとろ走ってるだけかと思われた列車は、凄まじい速さになっていく。


 日頃、電車に乗る時を思い出す。駅で通過してく特急とか、鉄のかたまりがとんでもないスピードで目の前を吹っ飛んで行く。そりゃあここに飛び込めば楽に死ねるだろうよ、と巷で起きる人身事故の数々を思い起こす。
 後半はそんな列車の危なさ、迫力、スピード感をたっぷり堪能出来る。意外と、カメラが引いて遠くから見ればそんなに速いようには見えない。でも近づくととんでもない速さでぶっちぎっていく。
 進路を塞いだ車や貨物が、本当にブリキの玩具のようにひしゃげ、紙細工みたいに打ち壊される。何かの冗談のようでいて、それでいて圧倒的に本物だ。


 映像の素晴らしさもさることながら、早い切り替えしの中で、長い芝居など見せる余地のない役者陣も、その一瞬の中でいい表情を見せる。人物描写は薄めだが、はっきり言ってんなこと語ってる場合じゃないんだから(笑)。とりあえず、デンゼルとクリス・パインのニカッと笑った歯の白さにやられました。


 中盤以降はマスコミの報道が過熱。脱線したら吹っ飛ぶ場所で写メ撮ってるバカも登場。暴走させた機関士から、止めようとしてる二人まで、全員顔写真がテレビで公開されてしまう。家族もビックリ仰天。別居中の嫁が電話かけてるんだが、クリス・パイン車掌は列車止めるのに必死で全然気づかない。後で着信入ってるのに気づいてほっこり。うう〜ん、まるで絶体絶命の危機なのに時間止めてだらだらしゃべくる某パニック邦画への嫌味……じゃねえよ、これが当たり前だよ!
 余計なものをバッサバッサと削ぎ落としつつ、きっちりフーターズのようなお遊び要素も入れているのが素晴らしい。デンゼルの娘が二人してフーターズでバイト中、テレビで父に声援を送る、というシチュエーション。当然、他の店員も……ということで、必死に戦う男達をフーターズガールが応援すると言う、夢のような状況が無理なく生まれてしまうのである。


 新しいところなんて何もないんだが、ハードパンチャーが正しいフォームでまっすぐ打ち抜いた右ストレートのような、説得力と破壊力に満ちている。兄貴と同じくどこもおろそかにしない職人の技巧を、気心の知れた役者と、自分の最も得意とするスタイルでぶつけた、正統派の一本。新年早々、いいパンチもらって気分がいいぜ、ふふふ……!

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