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どうすればいい?大企業のソーシャルメディア運営

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最近,大企業がソーシャルメディアに取り組む場合の組織運営に関する質問を頂戴することが多くなりました.大企業も本格的にソーシャルメディアの活用期に突入したことを実感します.

企業のソーシャルメディア運営モデルとして,多くのコンサルタントの方が参考資料にあげるのが,jeremiah owyang氏(Altimeter Group)の"Companies organize for social in 5 ways"です.

owyang氏は,企業のソーシャルメディア運営形態を5種類に類型化しています.企業でソーシャルメディアに対応する組織を検討する場合に,参考になると思いますので,本稿ではこれを紹介したいと思います.下図はその内容を纏め,一部筆者が追記したものです.

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owyang氏の資料に追加した情報は,以下のとおりです.

・各パターンを説明するための日本語をあてはめました.
・モデルにおける意思決定者・チームを赤とピンクに,指示に従うメンバー・部門をグレーに色分けしました,
 意思決定者・チームのなかでも赤は全社を統括するチーム, ビンクは個別部門のチームとしています.
 (以下では,意思決定者をコミュニケーション・マネージャーと称することとします)
・運用体制と特徴に,owyang氏のコメントに筆者の考えを付加した内容としました.

それぞれのパターンをみてみましょう.

パターン1  Centalized(中央統制)

方針から具体的な対話内容まで,中央統制部門から指示をする体制です.異なるチームに同様の問い合わせがあっても、一貫性のある対応をとることが可能です.反面,部門の自主性を育むことや個性を発揮することが難しいことと,利用範囲も中央統制部門が指示できる容量を超えて拡大できない弊害があります.生活者とのコンタクトチャネルが多数存在し,ブランド力のある大企業で保守的に運用する場合には,先ずはこのパターンを準備することが適当でしょう.

パターン2 Distributed(自然発生)

メンバー・組織が自然発生的に運用を開始するパターンです.リタラシーの高い(ITやソーシャルメディアの取り扱い経験の豊富な)社員だけで構成されている企業では,それを許容しているケースが見受けられます.各運用チームが独自の判断で対応するため,迅速な対応が可能になります.管理するオーバーヘッドもありません.反面,複数の運用チームが協調して,全社で一貫性のある対応をすることには向いていません.生活者とのコンタクトチャネルが限定的であるB(法人)向けの企業で可能な形態です.代表的な企業として挙がっているSunのほかにIBMもこのパターンに該当します.これらの企業では,厳格な服務規律の遵守も徹底されています.

パターン3 Coordinated(チーム同士の協調)

パターン1(中央統制)から個別チームに権限を移譲する場合や,パターン2(自然発生)が整備される場合が考えられます.この体制をとるには,ピンクの人(コミュニケーション・マネージャー)が各運用チームに配備されることが前提になります.代表的な企業・組織にあがっているRed Cross(米国赤十字)は、700を超える支部を持ち,100万人を超えるボランティアと3万人を越える従事者を抱える巨大組織です.米国赤十字社は「献血」「募金」「ボランティア」を常に募集しています.応募者との関係を構築するには,ソーシャルメディアは絶好のツールです.当然に各支部は独自にソーシャルメディアの運用を開始し,直ちにパターン2(自然発生)状態になりました.支部が自由勝手に運用するため,折角の運用経験・ノウハウも発散してしまいます.その上,利用者も支部により対応に差異が生じ,不信感や混乱を与える事にもなりかねません.そこでヘッドクオーターが支部間の調整役(赤の役割)に乗り出し、運営を支援するともに運営実態の把握に務めています.また,ハンドブックOnline Communications Guidelinesを整備し,運用チームのレベルアップにも腐心しています.
  
パターン4 Multiple Hub and Spoke(チームのHUB化)

パターン3(チーム同士の協調)で経験を積むと,新しくソーシャルメディア運用を開始したいチームは,既に運用を軌道に乗せているチームの指導をうけながら運用を開始した状態です.新しく運用を開始したチームも徐々に独自判断できる範囲を拡大し,更に新しく運用を開始したチームの指導ができるようになってゆきます.指導的役割を果たすチームが自律的に生まれる状況になれば,大規模な組織でも適用が可能になります.代表的な企業・組織にも,HP・MicrosoftといったIT業界を代表するC(生活者)向け企業があがっています.

パターン5 Holistic(全社員ソーシャル化)

組織に所属するすべての社員がソーシャルメディアを運用する例です.つまり特別にソーシャルメディアを運営するチームは存在しません.代表的な企業・組織に名前のあるzapposとBestbuyは傑出した存在です.zapposには,10の条文からなる「コアバリュー」が全社員に徹底されています.ソーシャルメディア運営においても、コアバリューを念頭においた行動をすることで,顧客との関係性を深めています.そもそも,採用時やトレーニング期間に厳格な適性評価がなされ,合格したもの以外は社員になれません.Bestbuyは@twelpforceというTwitterアカウントを2,200人の社員が運用しています.生活者とリアルタイムに対話し,そのやりとりは全世界に公開されます.社員の意識改革,企業風土の変革を促すきっかけにもなっています.少し古いですが,調査した記事を参考ください.

既に大勢の社員を抱えるC(生活者)向け大企業では,パターン5(全社員ソーシャル化)には相当の時間と労力を要することが予想されます.このため,パターン4(チームのHUB化)の体制を志向することが考えられます.そのためのマイルストーンとして,パターン3(チーム同士の協調)を目指すことになるでしょう.パターン3では,リーダーシップをとる,中央に存在する赤のチームがなければ機能しません.このチームには適正なコミュニケーション・マネージャーをアサインするとともに,権限を付与し,そのことを全社に周知しなければ「絵に描いた餅」となってしまいます.経営者のコミットメントが不可欠ですね.

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