Bootleg vol.2 Love Storyを読む

 今日は文学フリーマーケットに行き、映画評の同人誌、Bootleg vol.2を買ってきた。
 今回のテーマは「愛」。
 私はろくに恋愛映画を見ないので、なじみのない話になるかと思ったがそうでもなかった。
 以下、各記事の感想を。

対談:雨宮まみ×峰なゆか 恋愛映画狂想曲『(500)日のサマー』大解体!

 今年、映画ブログ界隈で『(500)日のサマー』ついて様々な評価が飛び交った。トムとサマー、どちらに共感するか/しないか。あるいはどういった認識や視点を持つかで見方が劇的に変わる映画だったと思う。まー私はどっちにも共感しないので、トムのズレっぷりをつっこみつつ味わう映画だと思ったわけですが。
 そんな映画について雨宮まみさんと、峰なゆかさんが対談し、大熊さんが司会を行うという記事。今回の本で一番面白い。大熊さんの「サマーっていわゆる悪女だと思うんですけど」が怒涛のつっこみを受けるあたり、実にこの映画の中に(そして現実世界に)あるような「認識のズレ」というものをよく示している。大熊さんによるとかなり司会が突っ込まれてカットした部分があったようだけど、それも気になる。

功夫 『(500)日のサマー』とは、いったい何だったのか?

 こちらは映画の『(500)日のサマー』についてその独自の視点・軸について解説した評。
 オーソドックスなセオリーに則りつつも一人称視点をもとにしてどのように恋愛体験を観客に伝えているか、この映画の特性を解き明かしている。

深町秋生 耐えしのべ。親と一緒にセックスシーン

 親と見るときまずい映画の性愛・性暴力シーンについて、回想を挟みつつ論じていく自伝的(?)映画評。
 映画の性描写は性描写を楽しむよりも時にどぎつさ、いかがわしさ、あるいは滑稽さを感じる側面があることが伺える(特に家庭で見る場合には)。
 それにしても邦画の性描写がおっさん臭いというのは、言われてみるとなるほどそうだと思ったw

とみさわ昭仁 殺したいほどI ♥ YOU 妻殺し映画の系譜

 「愛」というテーマで愛憎半ばする妻殺しというモチーフの映画を紹介するとは、さすがとみさわさん。
 しかしさすがに妻殺し映画では幅がありすぎたのか、映画ごとの説明の濃淡の差が大きい。
 「半落ち」の真相解説の意外さには思わず笑った。しかし渡辺淳一が『半落ち』の直木賞選考評で「ひたすら風俗で遊び尽くした、とでもいうほうが遥かに説得力がある〜」としたのよりも人間味がある。

古澤健 恋愛やめますか?それとも人間やめますか?トリュフォーと愛の狂人たち

 トリュフォーの『恋愛日記』のベルトラン、『暗くなるまでこの恋を』のルイなど、愛に取り付かれ、ほとんど狂人と化した登場人物からトリュフォー映画の「愛」を浮き彫りにした記事。今回のテーマに最もあった記事は、この記事かもしれない。トリュフォー映画を見返したくなった。

速水健朗 「エマニエル夫人」は乗りもの映画である。〜もちろん二重の意味において〜

 オリエンタリズム映画としての「エマニエル夫人」を余すところなく解説した記事。
 飛行機、オリエンタリズム、性愛という三大噺のような要素の関連がうまく論じられている。しかしこの流れでオチが「エアポート'80」になるとは…。クリステルが出演した事は知っていたが、すっかり失念していた。

破壊屋 ケータイ小説の愛

 この手のネタは、侍功夫さんが怒りそうなテーマだなあ…。
 ケータイ小説映画全作品を制覇したギッチョさんによるマイナーなケータイ小説映画のストーリーと解説記事。雑誌でもあまり話題にならなかったし、ああいった映画をまとめた記事は貴重だ。ケータイ小説独特のDV、自殺、ドラッグ、レイプなどの理不尽なシナリオを解き明かしつつ、本来のケータイ小説が持っていた若者文化や心理描写を失っているとの視点は鋭い。

真魚八重子 B級ホラーアクション界のクリスチャン・ラッセン野郎レニー・ハーリンを再発見せよ!!

 影の薄いレニー・ハーリン映画を年代順に解説、その魅力と印象の薄さを紹介した記事。映画によって熱の入れようが変わっていて、中でも『ディープ・ブルー』の解説が素晴らしい。
 レニー・ハーリン映画の黒人俳優の扱いは典型的なパターンを踏んでいるようでいて独特なので、前回の黒人映画特集でもっと扱われても良かったと思っている。

功夫 Love of the DEAD ジョージ・A・ロメロとゾンビ、愛憎の世紀

 これ、「愛」のテーマなのかなあ…。
 ロメロの映画史的解説というか、ゾンビとともに歩まざるをえなくなったロメロとその映画の変化と影響を論じた記事。ロメロとその映画についてはこれまでも様々な論評があったが、こういった視点での文章はまず他にないのではないだろうか(多分)。

永岡ひとみ 出張!とかくめも

 Bootlegの清涼剤、永岡ひとみさんは今回清涼からは程遠いニコラス・ケイジ特集。絵柄のために本物より美形になっているのになぜか本物よりキモイ。最後のおまけに(うるおいがほしい…)と書いた気持ちがよく伝わってきた。
 キモいニコラス・ケイジと言えば『コン・エアー』のロン毛・ヒゲ・タンクトップと3種揃った姿を思い出すのだが、あれは紹介されていなかった。永岡さんがあの映画のニコラス・ケイジをどう思ったか書かれなかったのは残念。

マトモ亭スロウストン 欽ちゃんすら救えないようなワスらの愛で地球が救えるというのか?

 コント55号と欽ちゃんのフィルモグラフィーに沿って、コント55号と欽ちゃんの映画について、相変わらずのテンションの高低で論じた記事。もう愛とかどこにいったのか分からないが。