施主が本当に建てたかった家(その2)
前回は家づくりをシステム開発あるあるになぞらえてみました。といっても、私は別にシステム関係の人でもなんでもなくただのアホなのですが、一晩経ってみても当たらずといえども遠からずという気がするので、まあいいんじゃないかなあ、と。
さて、昨日最後にちょろっと出したこちらの図。システムあるあるを家づくりあるあるに改変してみたものです。ざっくり作ったので当たってるかどうかそれぞれ考えてみましょう。
【施主が説明した要件】
いやー、やっぱりここはこだわりのあるけん、憧れてた3枚板は使いたかとですよ。ずっと夢見てて憧れてたしコレだけは譲れんとですよ。ムフー。
【営業の表現・約束】
いやー、ウチは完全自由設計ですからこんな感じでソファ乗っけちゃうなんてのもできるんですよ。ほら、モデルルームでもそうなってますよねー。ムフー。
【設計の理解】
まず3枚板に憧れてるってのが訳わからんし、営業はソファ乗っけろとか言うし、でもそんなんぜったい減額調整でボシャるし、まあ、ソファ乗っかる幅だけは取ってやろうとは思うけど、それだとロープをずらす必要が出てつまり機能を果たさなくなるけど、どうせ3枚板なんかにしたら機能性ゼロなのは一緒だから、まあ、いいか。
【実際の設計図】
でもって自社のルールに当てはめて構造計算出して建築基準法に照らしたら全然さっきの成り立たないし、しょうがないから営業通して施主さん説得してもらったけどあのクソ営業が日和りっぱなしで訳わかんない作りになってかっこ悪くて耐震性もイマイチ心配だけど、まあ、俺が住むわけじゃないし、いいか。
【大工さんによる施工】
あのクソ設計士が訳わかんない図面書いてきてやがるけど、施工マニュアルと全然違うしそもそもこんな収め方できねえしこれだと雨漏りするし金具マトモにつかないし、オマケに現場に顔出す施主はあーしろこーしろうるさいし、監督の指示はこれっぽっちも要領得ないし、まあ、テキトーにつくっとけばいいか。
【現場監督の施工管理】
設計図とか見てもよくわかんないし、施主は細かいこといちいち突っ込んできてうるさいし、職人はなんか俺のことバカにしてるし、こっちはそもそも職人と材料の手配だけで一杯いっぱいだし、まあ、段取りだけやっとけば後は勝手に建つでしょ。え、施工管理? なにそれおいしいの?
【引き渡された建物】
おいのこだわりがコレっぽっちも反映されとらんうえにあそこもここもどこもかしこも手抜きのオンパレードやなかやっか! こがん建物にカネば払えいわれてもそがんもん払いきらんばい!
【請求書】
というわけで施主様、当初仕様からの変更と追加工事とオプションと現場でのやり直し代とあとは諸経費と諸経費と諸経費とアレコレ一式でこちらのお値段となります。あ、ローン大丈夫ですか?
【引き渡し後のサポート】
え? そんな事言われましても弊社の50年保証は毎年弊社の有料定期メンテナンスを受けていただいて、弊社指定の材料で修繕していただいて初めて有効になるものですから。あと、そもそも躯体や雨漏りだけが対象ですし。
【施主が本当に建てたかった家】
自分なして板3枚とか言うとったんやろか。変なこだわりでそがんこと言わんかったらもうちっとマシな家ば、もっと安く建てられたんやなかやろか。ばってん今さらそがんこと言い切らんしもうローンも組んでしもうたしあああああ。
妻「……」
私「……」
妻「なんかこう実体験と私怨が入り混じっとる気がするばい」
私「そんなことないです」
妻「ほんとに?」
私「だって、少なくとも引き渡された建物と本当に建てたかった家に大きな差はないぞ」
妻「最初に説明した要件とはだいぶ違ったけどねえ」
私「それはほら、柔軟なモノの考え方というものだよ」
妻「へー」
私「ほら、最初の要件って、つまり素人の勝手な思い込みってことじゃん?」
妻「まあ、たしかに」
私「で、それをペラペラしゃべって、営業さんがそれを愛想よくふんふん聞いてくれるじゃん?」
妻「まあ、フツーはそうね」
私「そうしてるうちに自分の言ってることが全部正しく思えてきちゃって」
妻「ほう」
私「で、そういうのが無駄なこだわりになって、結局わけのわかんないモノになっちゃう、と」
あんまり適当な言い方ではない気もしますが、しょせん私たち施主なんてただの素人。どんなに勉強したって調べ物したって、プロから見ればただの余所者になるわけです。
どんだけ野球の知識が豊富でも、ただの素人がプロのコーチになれるかといったら難しいわけで、その難しさというのは知識の量や正確さではなく、単に「オメーら素人に何が分かんだよ」というプロのプライドの壁とも言えるかもしれません。
自分の仕事に置き換えてみても、素人であるところのお客様のご意見は尊重すべきものである反面、こらアカンというようなアホな要求とかもあるわけで、でもってそういう要求に限ってなんだか異様なこだわりを見せることがあったりもするわけで。
そんな時粘り強く「おかしいよ、やめようよ」と説得できればいいのですが、心の余裕がなかったりすると、口ではなるほど素晴らしいですねなどと言いながら、片手でまったく違うモノを作ったりなどということはままあるわけで(おい)。
私「というわけで、つまり素人の最初の要求なんてウンコみたいなもんなのですよ」
妻「どういうわけか分からん上にきたない」
私「すみません」
妻「ばってんちょっとわかる気もする」
私「そうでしょうそうでしょう」
妻「君は言うことクルクル変わりすぎやけどね」
私「家まで小さくなったしね」
あー、また無闇に長くなったし、ベイスターズもヒドい負け方をしたのでまた明日。今度はこのイラストを、我が家の場合に当てはめてみます。
次回「施主が本当に建てたかった家(その3)」につづく