国が貧しくなるということ

「個人が貧しくなる」ということについては、イメージがしやすいですよね。

毎月カツカツの生活で、ご飯は古々米、おかずは夕方以降の安売りで調達。

というか、週に 3日はバイト先のコンビニから売れ残りの弁当を貰ってきて食べている。

数百円で買えるファストフード以外は外食もしないし、お酒もタバコもやらない。

もちろん洋服や家電も何年も買っていないし、旅行もしない。てか電車に乗らない。

歯が痛くても熱が出ても寝て治し、携帯は 6年前に買ったのをまだまだ使うつもり。

冷暖房もできるだけ付けない。風呂はシャワーのみ。更に進めば、ガスや電気を止められる・・。

もちろん借金も可能だけれど、利子を含めて返済が始まれば、結局は借りる前より生活は厳しくなる。

って感じで、「個人としての貧しさ」はわりとイメージが湧きやすい。

★★★

では、「国が貧しくなる」というのは、どんな感じなのでしょうか? 

日本の場合、国が借金できる限度額が極めて大きいので、今のところ「どんどん借金して、消費額は変えない」方針で来ています。

だから、みんな「国が貧しくなると、どんな感じになるのか?」、具体的にイメージしにくいんじゃないかな。

というわけで、ちょっくら考えてみましょう。(増税側ではなく、支出側ね)


1.現金給付が遅れ、かつ、削られがちになる

生活保護、障害者年金、国民年金などが、一律に 2割減、3割減になる。

しかも支給日に振り込まれず、数日から 1週間は遅配になることも多くなった。

生活保護に関しては、一部が現物支給となる。

福祉が適用されないために、路上で生活する人が増える。


2.すぐに命に関わる病気以外は医療保険が適用除外になる

虫歯や風邪、花粉症、禁煙やコンタクト処方のための眼科など、すぐに命に関わるわけではない病気の治療は、医療保険が効かなくなる。

歯医者に行けばすぐに 1万円、2万円と言われるため、お金持ち以外は歯医者なんて行けない。

価格の高い効果的な薬は保険適用されなくなり、お金持ち以外使えない。

最新の手術機器や新技術(iPS細胞関連も!)を使った治療法も、軒並み保険適用外となり、数百万円は当たり前にかかるようになる。

結果として一般の人は高度医療の恩恵を受けられない。


3.公の建物はメンテされない

公営住宅のメンテは行われなくなり、壁が壊れても、風呂釜が壊れても一切、修理されなくなる。(自己負担で修理するのはOK) 

公民館や図書館、公園、市役所、学校なども、クーラーが壊れても、ドアや窓が壊れても修理されない。

割れた窓には段ボールなどが貼られはじめる。美術館など維持費の高い施設は閉鎖される。

道路もひび割れが多くなり、特に交通量の多い幹線道路や高速道路は痛みが激しく、安全性に不安が持たれ始める。

地方だと時には信号までチカチカしていて、壊れたまま放置されてる。

停電も頻発し、老朽化した水道管が破裂したという理由での断水があちこちで起こっている。


4.公共サービスが削減される

赤字バス路線は廃止。第三セクターの鉄道も廃止。ゴミの収集が週に1日になる。

道路の掃除は行われなくなり、街にゴミが増え始める。

街路樹の剪定も行われないので、落ち葉が堆積して腐り、台風で強風が吹くとあちこちで老木が倒壊する。

公園も荒れ放題。市民プールの衛生状態も悪化し、感染症の源となる。

救急車も呼んでから 30分くらいは来なくなる。

大雪の降る地域でも除雪の回数が減り、豪雪地帯では、事実上、冬は動けなくなる。

都市部ではひったくり、コンビニ強盗などが増え、治安も悪化する。

刑務所の経費を減らすため、執行猶予や仮釈放が多くなる。


5.公務員や納入業者への支払いが滞る

公務員、準公務員の給与の遅配が始まる。ボーナスは削減され、いつしか出なくなる。

新規採用はストップし、足りない人手はパートやアルバイトでまかなう。

市役所、税務署など、どこの窓口も人手不足で待ち時間が尋常でないくらい長くなる。

納入業者への支払いも滞りがちになり、まともな企業は納入しなくなる。

公認保育園や老人保健施設などもスタッフが不足し、子供&老人が溢れかえっているのに、ケアが行き届かなくなって大混乱。


6.不要不急の補助金は全部カット

文化団体、私立大学などへの補助金は全額カットされる。

一部有名校を除き、私立学校の多くが倒産する。

国公立大学も授業料が大幅値上げされ、親が金持ちでない学生は進学率が下がる。

もしくは学生の多くがバイトに明け暮れたり、借金を抱えることになる。

存続のために巨額の補助金を必要としていた大赤字の地方空港などは、事実上、機能停止となり、飛行機も飛ばないまま放置される。

義務教育の期間の教科書は貸与制となり、新品ではなくお古の教科書が配られる。

人口が少ないエリアの学校は統合され、授業はテレビ経由(ネット配信)になる。

人口の大半が高齢者で、ほとんど税収のない自治体(収入は補助金のみという自治体)については、財政運営自体が不可能となり、近隣自治体へ吸収合併される。


7.災害復旧なども遅れがち

地震、台風などが起っても、復旧作業は遅々として進まなくなる。

土砂崩れも放置、流された橋もそのまま。

公的部門の不払いが常態化しているため、業者も前払いでないと仮設住宅の建設を請け負わない。

大災害があった際、助けてくれるのはNPOやボランティアであって、国や地方自治体は何もしてくれないのが普通となる。

その他、薬害問題などで国を訴えて裁判に勝っても、賠償金がなかなか支払われない。


8.円が暴落した場合

日本が貧しくなっても、世界の先進国がそれ以上に貧しくなれば、円安にはならない可能性もあるのですが、ここでは「円が暴落した場合」のことも想定しておきましょう。

ドル建ての石油価格が暴騰し、ガソリン、電気代、輸送費などが高騰。経済的に余裕のある人以外は長距離移動が難しくなる。

生鮮食料も高騰し、貧困層は大量生産のインスタントやレトルト食品ばかり食べることになる。

一方、日本の価格競争力は増すので、アジアのお金持ちが東京の不動産を買ったり、人件費のかかる産業を日本でやろうという動きが始まる。

海外からの旅行者も増える。

ただし、日本の価値ある資産は(伝統ある老舗企業も名旅館も風光明媚な場所も)、海外資本に買収されてしまう。



そしてなによりも、国が一定以上貧しくなれば、「困ったことは国になんとかしてもらおう」という風潮自体が消えていく。

たとえばテレビの討論番組などで、「こんなに困ってる人たちがいる。早急に国が手当てすることが必要だ!」みたいな脳天気な提案は、あまりに白々しく聞こえるため、みんな余り言わなくなる。



そんじゃーね

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