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CATVだって大丈夫! KDDIとJ:COMが既存インフラを活用した2K/4K/8K同時送信に成功

» 2013年02月06日 19時21分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 KDDI、KDDI研究所、ジュピターテレコムの3社は、フルHD、4K、8Kの映像を同時に伝送できる映像圧縮符号化方式を開発し、既存CATV網を利用する伝送実験に成功した。2月6日には報道関係者を集めて技術説明とデモンストレーションが行われた。

8Kプロジェクター、4Kモニター、フルHDテレビにそれぞれの解像度を持つ映像が同時に映し出された

 KDDI技術開発本部長の渡辺文夫氏は、「CESに見られるように、次世代メディアとして4Kの動きが世界的に加速している。国内では総務省がスーパーハイビジョンの実用化時期を2年前倒しすると発表した。業務用4Kカメラはこの数年で価格が1桁下がり、民生用4Kテレビも登場するなど動きが活発化している」と話す。

KDDI技術開発本部長の渡辺文夫氏(左)。4K、8Kの最新動向(右)

 実験では、東京・練馬区にある「J:COM練馬」に映像サーバを置き、丸の内の本社まで約40キロ(光ファイバーの長さ)を伝送した。本社内に光ファイバーの終端装置を置き、社内用の同軸ケーブルを使ってCATVのHFC(Hybrid Fiber Coax)と同じ環境を作った。DOCSIS 3.0対応ケーブルモデムを専用デコーダーソフトを導入したPCに接続、デコードした映像をJVCがNHKと共同開発したスーパーハイビジョン対応プロジェクター、アストロデザインの4Kモニター、フルハイビジョンテレビの3つに表示。いずれも映像の破たんはなく、8K、4Kらしい解像度を維持していた。

実験のネットワーク(左)。J:COM練馬内に設置されたサーバとDOCSIS 3.0変換用CMTS(右)

DOCSIS 3.0対応ケーブルモデムを専用デコーダーソフトを導入したPCに接続、デコードした映像をJVCがNHKと共同開発したスーパーハイビジョン対応プロジェクター、アストロデザインの4Kモニター、フルハイビジョンテレビの3つに表示した(左、中)。こちらはローカルファイル再生による2K/4K/8Kの画質比較。写真ではよく分からないが、実際に見ると一目瞭然(右)

階層符号化で効率良く

 技術的なポイントは、「8K映像の高圧縮技術」と「異なる解像度の映像をまとめて圧縮する技術」の2つ。わざわざ異なる解像度の映像を同時に伝送するのは、放送技術の移行期を想定したもの。現行デジタル放送でも、放送開始からアナログ停波までの期間はデジタル/アナログの両方を放送しなければならなかった上、CATVは現在もデジーアナ変換によるアナログ再送信を行っている。CATVの770MHz(256QAM使用時)という帯域幅を有効活用するためには、複数のフォーマットを効率的に伝送する必要がある。

今回開発した8K同時伝送の特長。H.264で行う場合に比べ、使用チャンネルは半分以下になる(左)。8K映像の圧縮技術(右)

 新しい圧縮技術は、従来のH.264比で2倍以上の圧縮効率を実現した。今年1月にITU-TやISOの国際標準方式となった「HEVC」(High Efficiency Video Coding)に近い方式だが、変換・イントラ符号化の部分を簡略化するなどして圧縮効率を向上。HEVCより12〜13%上回るという。例えば従来のH.264で8Kを圧縮すると160Mbps前後となるが、HEVCなら80Mbps、KDDIの新方式では70Mbpsまで落とすことができる。

コーデック H.262/MPEG-2 H.264/AVC HEVC KDDIの新方式
処理単位 8×8〜16×16 4×4〜16×16 4×4〜64×64
変換 DCT 整数変換 DCT/DST DCT
イントラ符号化 DC予測 画素値予測
動き予測の精度 1/2画素 1/4画素
残差信号の符号化 VLC CAVLC/CABAC CABAC
性能 HD放送なら15Mbps MPEG-2の2倍 AVCの2倍 HEVCより12〜13%向上

 2K/4K/8Kをまとめて圧縮する技術には、“階層符号化方式”を利用する。H.264で単純に圧縮すると、上記のように8Kだけで160Mbpsとなってしまうが、階層符号化方式では「2Kはそのまま圧縮するが、4Kでは“2K映像+差分情報”」にすることで容量を削減する。さらに8K映像は4K映像+差分情報とした。なお差分情報とは、元の4K画像から、2Kを4Kにアップコンバートした映像を“引き算”して作られるもので、「色味はほとんどなく、テクスチャーやエッジが強調された画になる」という。

2Kはそのまま圧縮するが、4Kでは“2K映像+差分情報”として圧縮することで、容量を大幅に減らした

 階層符号化方式は、テレビ会議用システムなどで回線状態にかかわらず良好な画質を得るため、一般的に使われている技術だ。今回の場合、映像のビットレートは2Kが8Mbps、2K/4Kの差分情報が20Mbps、4K/8K差分情報は62Mbpsとなり、合計しても90Mbps。DOCSIS 3.0は1チャンネルあたり40Mbpsの伝送が可能なため、3チャンネル(120Mbps)でおつりがくる計算になる。

 「従来は、フルHDで1チャンネル(6MHz)、4Kは2チャンネル、8Kは5チャンネルの計8チャンネルが必要だった。今回の方式により、使用チャンネルは半分以下になった」(同社)。

 もっとも、今回の実験はCATVによる4K/8K放送サービスに直結するものではない。既存のCATV網を活用したといっても、DOCSIS 3.0によるIP通信であり、「あくまでもインターネット技術の応用」(渡辺氏)。IPマルチキャストなどの技術を追加開発してIPテレビとする手もあるが、ケーブルテレビ本来の“放送”ではない。

現在の利用周波数。デジアナ変換の期間が終われば、20チャンネルほどの空きができるという(左)。まずはB to Bに訴求(右)

 そもそもコンテンツのない状況もある。そこで両社はまず、J:COMのエリアの広さを生かし、4K/8Kのパブリック・ビューイングやデジタルサイネージといったB to Bの市場開拓を目指すという。「放送向けの変調技術や運用仕様は今後の課題になる。開発した技術も、標準化することが実用化の前提だ。いずれ地上波/BSなどで4K/8K放送が始まったら再送信できるように準備していく」(同氏)。

 なお、今回のタイミングでデモを公開した理由については、「日本では『4K/8Kは衛星放送じゃないと無理』という思いこみがある。そこに『CATVも4K/8Kのすぐ近くにある』というメッセージを出すのが目的」と話している。

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