■東南アジア諸文字の源流と発展
 ■ODSEAS: Origin and Development of Southeast Asian Scripts
 ■澤田英夫
 ■2001/06〜

概要 東南アジア地域に現存するインド系文字の碑文や写本の画像を採取し、文字体系ごとの字形の変遷や、異なる文字体系間に見られる構造および配列順の異同についてのデータベースを構築する。
 
所内メンバー:澤田英夫、町田和彦、高島淳、峰岸真琴、塩原朝子
所外メンバー:岡野賢二(東京外国語大学大学院博士後期課程)
 
目的 東南アジアにおけるインド系文字の発展は、その発祥の地である南アジアとはまた異なる興味を喚起するものとなっている。何より注目に値するのは、この系統の文字によって表記される言語の多様さである。オーストロネシア系言語(大陸部のチャム文字、島嶼部のジャワ文字・バリ文字・ブギス文字など)、オーストロアジア系言語(クメール文字・モン文字)、チベット=ビルマ系言語(ビルマ文字)、タイ系言語(タイ文字・ラオ文字・シャン文字など)、カレン系言語(キリスト教スゴー=カレン文字・パオ文字など)といった系統を異にする様々な言語の話し手が、インド系文字を受け入れ自らの言語に適応するように改変を加えてきた。ビルマ系・タイ系・カレン系などの声調言語における声調の表記などは、東南アジア独自の発展と言ってよい。

しかしながら、まさにこの言語的多様性が、東南アジアにおけるインド系文字の広まりの全貌を見渡す際に障壁となっていることもまた否めない。これらの文字で書かれた言語資料の研究に当該言語を母語とする研究者が果たす貢献の度合は増加の一途を辿り、それは一方では当該言語・文字に関する詳細精緻な研究を産み出すもととなるのではあるが、他方どうしても当該言語・文字の枠の内部にのみ目を向け、隣接地域の文字をも射程に入れたグローバルな視点に欠けるきらいがある。また一国の公用語でない言語を書き表す文字の研究は後回し、ないしは等閑視されることになりがちである。

もう一つの問題は、従来これらの文字の類似や異同について論じる際に、論点がほとんど字形、とりわけ子音字の字形の類似や異同に終始していたという点である。インド系諸文字の体系の中には、各文字要素の機能とその配置に関して明確な構造が認められ、そのことが他の文字体系に見られないインド系文字の際だった特徴をなしている。インド系文字の発展について語るならば、当然このような構造的な視点を欠くわけには行かない。

本プロジェクトでは、東南アジア地域のインド系文字についての包括的な見通しを与えるための基礎研究を行う。具体的には、東南アジア地域に現存する碑文や写本などの書写資料の画像を採取し、それに基づいて、現在に至る字形の変遷、ならびに文字体系や配列(ソーティング)の異同・変遷についてのデータベースを構築する。東南アジア(澤田、峰岸、塩原)と南アジア(町田、高島)の研究者が協力して研究を行うことで、インド系文字の中に占めるこの地域の文字の位置づけを明らかにし、また南アジアから東南アジアへの文字の伝播と発展について新たな知見を得ることが期待できる。

また、文字資料のデジタル化に必要な文書的情報の蓄積にも資するところは大きい。とりわけ屋外にある書写資料の記録は急務と言える。上ビルマのパガン遺跡にあるミンガラーゼーディーのジャータカ=テラコッタ奉納板にせよ、中部ヴェトナムのミーソン遺跡にあるチャム文字碑文にせよ、摩耗の一途を辿っている。修復を受けるにしても不適切なしかたによって原形をとどめなくなるおそれが多大である。近年とみに進歩した電子画像記録技術によってこれら資料の現状を記録することの意義は、決して小さいものではないのである。

 

ラージャクマール碑文A  ビルマ語面より
 
内容
資料画像公開ページ
 
ビルマ文字の碑文・墨文
   2002.1 バガン、2003.1 マンダレー、バガン、2004.1 ミャウッウー、ザガイン、マンダレー、バガン、2005.1 バガン、2006.1 マンダレーにて調査
 
チャムの碑文
   2001.11 ダーナン、ミーソン、ホーチミン、2003.9 ニャチャン、2005.2 ダーナン、ミーソン、チャキュウ、ドンズオン、チエンダン、ハノイ、2005.11 ダーナン、ミーソン、ニャチャン、ファンランにて調査
 
「言語と文字の出会い、つきあい−東南アジアに渡ったインド系文字−」
(2003年2月1日 世田谷セミナリオ「アジアに広がるインド系文字」発表資料)
プレゼンテーション中の画像・音声リンクが無効になっていますが、ご了承下さい。
 
 
更新履歴:
'03/06/02「東西ペッレイッ寺院」日本語トップページをリニューアル
世田谷セミナリオ「アジアに広がるインド系文字」発表資料をアップ
その他、碑文画像の一部を見やすくする
'03/05/12「バガン期モン=ビルマ文字の字形」にラージャクマール碑文Aビルマ面からのサンプル画像を追加
'03/04/21ラージャクマール碑文Aモン語面、パーリ語面、碑文Bビルマ語面の転写テキストをアップ
'03/04/16「バガン期の碑文」に画像多数アップ

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