給料地銀トップ!スルガ銀行「結果につなげる経営会議」はここが違う

地銀壊滅時代に5期連続の最高益更新

静岡県の地銀2番手ながら、全国区の知名度を誇る。その背景には社会の変化を見通す眼力と旺盛なチャレンジ、IT技術の活用があった。オーナーと経営陣が議論を重ねて進める異形の経営の本質。

会議で沈黙は許されない

スルガ銀行(静岡県沼津市)の経営方針を決める取締役会は、毎月1回、東京・日本橋にある東京支店の会議室で行われる。

会長、社長以下7名の取締役と3名の社外取締役が出席し、ここに監査役が加わる。毎回15名ほどの出席者で1時間程度、激論が交わされる。

経営トップの指示が言い渡されるだけの静かな会議ではない。幹部が粛々と報告するだけの儀礼的な会議でもない。会議室にあるのは、役員が侃々諤々と議論する喧騒だ。沈黙は許されない。

経営の機微に関わるため、詳細は記せないが、ある日の経営会議では社内システムを将来的に海外の業者に委託するか、その際のガイドラインについて議論が交わされた。

Photo by iStock

スルガ銀行のオーナー会長・岡野光喜氏(72歳)が口火を切る。

「社内システムのクラウド化(外部のサーバーに委託すること)とオンプレミス(自社で管理すること)の割合はどのくらいが妥当だろうか」

取締役が意見を言う。

「クラウド化を進めたほうが、コストを圧倒的に削減できます」

別の取締役も言う。

「いや、まだシステムを完全に外部に委託するのは時期尚早です。コストが下がったとしても、安全性に問題があります。一定のレベルまでのクラウド化に留めましょう」

一通り意見が出揃うと、岡野会長が決断をする。

同行で社外取締役を務める元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏が語る。

「取締役会では無駄な議論は一切ありません。一つの会議で20から30のテーマが話し合われますが、各役員から意見が出ると、岡野会長が『面白いよ、すぐやろう』、『それはまだ無理だ。考え直せ、はい次』と、どんどん進む。

最終ジャッジこそ岡野会長の役割ですが、すべての役員がアイデアを出し、それを実行に移そうとしています。

雰囲気はベンチャー企業の役員会議に近いですね。ざっくばらんで言いたいことを言い合える。初期のマイクロソフトの役員会議が、まさにこんな感じでした」

 

闊達に議論し、新しいことに挑戦するベンチャーのような経営――。これが地銀壊滅時代に、今期まで5年連続で過去最高益を叩き出し続けるスルガ銀行の「強み」だ。

同行が躍進したきっかけは、企業への法人融資から個人への融資に軸足を移したことにある。経営コンサルタントの加谷珪一氏が解説する。

「銀行の収益力を測る指標で最もわかりやすいのは、『預貸金利ざや』(貸出金利と預金金利の差)です。

この数字が高いほど効率的な経営をしていることになりますが、スルガ銀行は約2.4%です。一般的な地銀は0.3%程度だから、いかに突出しているかがわかります。

最大の理由は、法人向け融資を捨てて、住宅ローンなどの個人融資に特化した点にあります。スルガ銀行の融資のうち、約9割が個人向けになっており、これは独特の経営といえます」

スルガ銀行が個人向け金融に舵を切ったのは、岡野氏が頭取時代の'86年のこと。高度経済成長を終えた日本では、資金のニーズが企業から個人に移ると見抜いたのだ。

同行は一般の銀行では融資を受けにくい自営業者や勤続年数の浅い会社員に着目し、リスクを取って住宅ローンなどを貸すことで、高い金利を設定することに成功した。

「静岡には静岡銀行という大手地銀があり、地場の法人を押さえているからスルガ銀行は個人に特化したと思われがちですが、実態は逆です。

地方の法人は中小企業が中心ですが、業績不振ながら、行政の支援でなんとか生きながらえている『ゾンビ企業』が少なくない。

そういった企業に融資をしても儲かるはずがないと判断した岡野会長は、法人融資を減らして、個人向けを拡大してきたのです。

その結果、住宅ローンやアパートローン、個人向けローンで独特な商品をラインナップし、高い利益を上げることができています」(加谷氏)

関連記事