〈これは「男のカラダが持つ性的な価値」について書かれた本である〉

「anan」で「オトコのカラダ」が特集される時代。とはいえ内容は「手」や「首筋」などの部位エロスについて書かれることがほとんどだ。

2月27日に発売された『オトコのカラダはキモチいい』(ダ・ヴィンチブックス)は、そこからさらにずかりと踏み込む。

アナルと乳首である。

本書は、男性のアナルと乳首の快感について、BLなどの二次元的な側面から、AVやSM文化・ゲイ文化などの三次元的な側面にまで触れている。
著者は、AV監督の二村ヒトシ、腐女子の金田淳子岡田育。五反田ゲンロンカフェで行われたcakes主催のトークイベントのレポート記事を加筆改稿・再構成している。表紙や挿画は『新宿ラッキーホール』雲田はるこ(大変エロかわなイラスト)。


目次はこちら。
・はじめに あらゆる次元を生きるすべての男女と、その狭間にいる者たちへ(岡田育)
・第一章 これからの*(アナル)の話をしよう
・いまさら聞けない!「ボーイズラブ」ってなんだろう?(金田淳子)
・第二章 20歳のときに知っておきたかった「雄っぱい」のこと
・第三章 新宿二丁目で考える──タチはどこへ消えた?
・おわりに 今後の男性(二村ヒトシ)

第一章が通称「アナル会議」イベント(エキレビ!イベントレポはこちら)をまとめたもの。BLに登場するすこしふしぎな器官「やおい穴」の定義や歴史や修正の変化について語り、そのまま現実のアナルや前立腺開発へと話が進んでいく。アナル・前立腺の刺激に抵抗がある男性は多い。
〈男は、自分の体が性の対象になるということにまったく慣れていない。そして男にとってペニスであれば安心して能動的に快感を抱けるんだけど、アナルはそうじゃないんです〉
〈僕自身も、チンコ本位主義者な部分があるんですが、自分にも穴が、それも感じやすい穴がついてるんだってことは忘れずに生きていきたいです〉

第二章は通称「雄っぱい会議」をまとめている。
「雄っぱい」とは、近年BL業界を中心に登場した男性の胸をあらわす造語のこと。少年&青年向けの漫画で描かれる男性キャラの乳首描写の変遷、BLの乳首描写の割合や進化、そして実世界の男性の乳首にまで一直線に突き進む。
〈「男は乳首を発見された瞬間、性的な存在と見なされてしまうのではないか?」という仮説が生まれます〉
〈自分の乳首を見出した男性は「自分の身体のペニス以外の部分も、性的な存在である」って初めて気づくんです〉
〈僕は「男性も女性も、乳首は必ず感じるものだ」と思っています。今、感じていない人さえも。でも、自分の中の思い込みや、いろんなものが邪魔しているから「感じない」と思っている人がいたりする〉

第一章も第二章も、通底しているのは「男性の肉体は性の対象物である」。男性の快感といえばペニスに一点集中しがちだが、アナルも乳首も持っているじゃないか!!! そのことに、そして向けられる性的な目線に男性自身が気づいてみようよ、というメッセージがビンビンに伝わってくる。

イベントでは、アナルや乳首に実際に「気づいた」人々として、多くの男性の前立腺を開発してきた夏樹女王様や、長年乳首を開発されたことにより乳首が親指の先ほどの大きさになったがっちゃん(70代男性)も登場し、多くのイベント参加者を括目させた(括約筋だけに)。

書き下ろしの第三章は、その現実との接続がさらに深められている。新宿二丁目からやってきたゲイ男性・堀川祐樹(仮名)との座談会のまとめだ。これまで二次元における男性のカラダについて饒舌だった金田と岡田が、今度は堀川から実際のゲイ文化について教わっている。
堀川によると、現在二丁目では深刻な「タチ不足」が発生しているのだそう(※「タチ」とは、男性との性交渉の際にアナルを攻める側のポジションのこと)。「男のカラダは性的対象にならない」「男は感じてはならない」という無意識の制約が解放された結果、受け身の男性が増えてきてしまっているのだ。

〈我々が第一章や第二章で啓蒙し、奨励してきたことの三歩先には、「深刻なタチ不足」「深刻なS不足」という不毛な未来が待っているわけですね〉
〈何もかもおっぴろげてしまえば幸せになれるというわけでもないんだよね〉

アナルや乳首を開発し、男性の身体が性的対象となりうることを自覚することが、すぐさま幸せにつながるわけでもない。
前立腺の開発経験があることで、逆にかたくなになってしまった例も知っている。飲み会で一度会ったことがある男性は「前立腺さ〜、一度女王様に開発してもらったんだけど、全然よくなかったんだよね! 俺は前立腺じゃ感じない身体なんだと思う。男の中にはそういうのがいるらしいよ」と前立腺マウンティングを仕掛けていた。
それでもこう叫びたい。アナルはすごい! 乳首もすごい! オトコのカラダはエロいんだ!!

(青柳美帆子)