2011年12月、フューチャースピリッツは中国・上海のデータセンターを利用した、中国市場で事業展開している日本企業向けのホスティングサービス「FutureWeb Pro CHINA」の提供を開始する。サービスの特色、そして、なぜ中国・上海のデータセンターなのか? 同社の代表取締役 谷孝 大氏に訊いてみた。

「マネージド」で1ランク上のホスティングサービスを提供

フューチャースピリッツ
代表取締役 谷孝 大氏

フューチャースピリッツは1996年10月に創業、株式会社への改組や関連会社の設立などを経て現在に至る。

ホスティングサービスなどのネットワークソリューション事業を柱として、Webサイト構築に関わるWebプロデュース事業、多機能メールフォームや会員制サイト構築のASP・SaaS事業の3つがメインの事業となっている。

中でもホスティングサービスは、創業当時から提供している基幹事業。現在では京都リサーチパーク内のデータセンターを利用し、回線なども自前で調達して、同社の技術者による24時間体制の保守管理を行っている。

専用サーバーは、顧客がサーバーの運用、保守・管理をしなくてもすむような高付加価値のサービスとなっており、顧客にとっては手離れのよいマネージドサービスとなっている。サポート費用はかかるが、顧客の手間が不要になることで、結果的にコストが抑えられる。谷孝氏によれば、このようなサービスは、過去に他社サービスを利用していて事故やトラブルを経験した顧客からの評判が高いとのことである。

10年前ならば、会社のWebサイトが停止していても、さほど大きな問題ではなかったかもしれない。しかし、インターネットがビジネスインフラとなった現在ではサーバーの停止が機会損失に直結してしまうことも多いだろう。単なるディスク貸しやサーバー貸しにとどまるのではなく、きめ細かいサポートにより、満足度の高いサービスを提供することが同社のポリシーである。

インターネットビジネスで中国に進出する際の障壁

さて、同社が提供を開始する、中国・上海データセンターを利用したフルマネージド専用サーバー「FutureWeb Pro CHINA」に話を進めよう。

多くの企業が進出する中国は、生産拠点としても、巨大な市場としても魅力的な国である。当然のことながら、中国向けのインターネットビジネスも必要になってくる。ボーダーレスのインターネットの世界ならば、日本国内にサーバーを配置し、そこから中国国内向けに情報を発信すればよいと思うかもしれない。

しかし、そこには大きな問題がある。まずは、回線速度の問題だ。谷孝氏によれば、日本国内に中国国内向けのサーバーを設置した場合は、接続遅延やパケットロスが発生し、ストレス無くWebサイトを閲覧できないケースがあり、場合によると、昔のISDN並みの速度しかでないこともあるという。

会社概要程度であれば問題ないかもしれないが、中国国内向けの本格的なWebサイトを構築しようとする企業にとっては、日本国内のサーバーでストレスなくアクセスできるWebサイトを構築するのは、困難といえるだろう。中国でビジネスを展開するにあたって、中国のデータセンターを利用する大きなメリットのひとつがここにある。

さらに回線速度の問題に加えて、中国国内から国外のサイトへのアクセスが制限されている場合もある。FacebookやTwitter、YouTubeなどが、中国国内からは閲覧することができないというのはよく知られた話だろう。この判定も、明確な基準があるわけではないとのことだ。

このような問題が、中国企業が提供しているホスティングサービスを使うことで解決するかといえば、また別の問題も立ちはだかっている。品質や対応が悪いケースや、日本語が通じないケースも大きな障壁となる。さらに、現状では、中国では高付加価値のマネージドホスティングサービスは発展途上にあり、日本のようなサービスレベルを期待できないことも挙げられる。

また、中国でWebサイトを公開するには、特殊な手続きが必要となることを知っている人はどれだけいるだろうか。個人・法人を問わず、中国では法令により「ICP(Internet Contents Provider)サイト登録」が義務付けられている。これは、車のナンバープレートのようなもので、その番号を必ず運営するWebサイト上に表示しなければならない。

そもそも、このような手続きが必要であることさえ、知らない人の方が多いとのことだ。基本的に届け出制ではあるというが、実際には、かなりのノウハウが必要になる。

ICPサイト登録申請書類。同社では登録代行サービスも提供している

中国での新たなビジネスチャンスを提供する「FutureWeb Pro CHINA」

このように、中国で事業展開する日本企業がインターネットビジネスを展開するには、様々な「壁」が存在する。

同社では、まず、中国・上海でデータセンターを運営し、現地日本企業700社以上へのホスティングサービスの導入実績を誇るBohanIT社と資本提携を行い、ホスティングサービスの提供を開始した。上述したように、中国のインターネットビジネスでは、これまでは会社概要程度のWebサイトの利用が多かったが、最近では動的コンテンツを使って大規模なキャンペーンを行うといった事例が増えてきている。

そして、何よりも脆弱性・セキュリティ対策などサーバーの運用、保守・管理を確実に行う安定したサービス品質が求められるようになってきた。まさに、同社がこれまで提供してきた「マネージド」の要素が必要となったのである。そこで、日本と同じレベルのサービスを提供するのが「FutureWeb Pro CHINA」なのである。

しかし、中国には、高付加価値な技術を担えるような技術者がまだまだ不足している。また、技術者の育成には時間がかかる。解決策として、遠隔で日本からサーバーの監視を行うようにした。現地の作業は現地の技術者が行い、セキュリティや負荷の監視は日本から行うのである。この結果、日本品質のサービスレベルがそのまま提供できるようになっているという。

もちろん、現地においても、日本人の技術者が常駐するので、日本人によるサポートを受けることも可能である。企業にとっては悩みの種であった費用や人材の問題も解決できるだろう。「FutureWeb Pro CHINA」は多大なコストをかけられない企業にとっても、最適なソリューションとなる。

「FutureWeb Pro CHINA」サービス概要

また、BohanIT社との資本提携により、上海データセンター運営や「.cn」ドメイン取得・ICPサイト登録などのノウハウを利用することができる。ソフト面をBohanIT社、技術面をフューチャースピリッツという両社の持つ強みを最大限に活用し実現したサービスといえる。ICPサイト登録については別途費用は発生するが、ノウハウを持っているBohanIT社のサポートは大きなメリットになるだろう。

また、費用が日本側でも決済可能(円による支払いが可能)ということも、日本企業にとってうれしい点ではないだろうか。

13億人がひしめく中国は魅力的な市場ではあるが、一方で乗り越えなければならない課題も多い。しかし、優れたコンテンツや売れる商品がありながら、中国市場に進出できないのはもったいないことだ。また、進出しようとしても、文化・制度の違いから、尻込みしてしまう企業も少なくない。

「そこをしっかりサポートするので、今まで中国進出は難しいと思っていた企業の方々に、もっと中国に出ていきましょうというメッセージをホスティング会社として発していきたい」と谷孝氏は語る。

単なるレンタルサーバーではなく、ソフト面でのサービスも高いレベルで提供し、中国へ進出する企業の活動をサポートすることこそが同社の提供する「価値」となっている。

谷孝氏は「(顧客が)中国でのビジネスに成功してもらうことが目的」と語り、今後1年間に200件の契約目標を掲げた。この数字は「契約数」でもあるが、また同時に「中国市場へチャレンジする企業数」にもなることであろう。

「Future Spirits」の通り「未来」についても谷孝氏に熱く語って頂いた