「僕だけがいない街」Netflixで3度目の映像化。アニメとも映画とも違う結末を

    地上TVドラマと異なる制作環境に「最初は戸惑った」と話す監督。コンセプトの大きな違いとは?

    Netflixオリジナルドラマ「僕だけがいない街」(全12話)の配信が12月15日に始まった。人気漫画を原作に、テレビアニメ、実写映画に続き3度目の映像化となる。

    メガヒット作「ストレンジャー・シングス 未知の世界」「ナルコス」など、高クオリティな映像と骨太なストーリーで世界で存在感を増すNetflixのオリジナルドラマ。

    地上波ドラマでも、劇場映画でもない形での「漫画実写化」には、これまでとどんな違いや苦労、メリットがあったのだろうか。

    下山天監督に、既存の映像作品との制作スタイルや環境の違いを聞いた。

    12話のドラマではなく「6時間の映画」

    「体裁は連続ドラマですが、作り手としては1本の長い映画。12話の積み重ねではなく、6時間の映画を12分割している意識です」

    テレビドラマと今回のNetflixドラマ、作り方は違いましたか? そんな質問に下山監督は迷わずこう答える。

    具体的に、TVドラマよりも映画に近いポイントとして以下のような点をあげる。

    • 撮影機材は4Kカメラ、5.1chサラウンド
    • クランクイン時点で脚本は最終話まで決定稿
    • 撮影オールアップしてから編集作業を開始
    • 全話を通し、ひとりのクリエイターが演出面で責任を持つ


    通常の連続テレビドラマの場合、2〜3人の演出家が数話ずつ受け持ち、撮影と編集を交互に進めていくことが多い。3カ月に渡る撮影を一人が演出する今作は、確かに作り方としては映画のスタイルに近い。

    「日本のドラマ制作では考えられない現場で最初は戸惑いましたが、純粋に創作に費やせる時間が長いので、クリエイターとしてのモチベーションは圧倒的に違いました」

    「技術的なクオリティへの要求は、テレビの現場では経験したことのないレベル。邦画の標準的なラインと比べても同程度どころか少し高いくらいかもしれません」

    「演出家が複数人いると、それぞれの好みで指示が異なるシーンも出てきてしまう。指揮系統が統一できたことで、現場のスタッフにもチームとしてのモチベーションが生まれやすく、スムーズに撮影を進められたように思います」

    「もっと暗く」常識破りの要望

    「もっと暗く、モノトーンでいい。日本のテレビドラマの明るい映像を我々のユーザーは求めていない」

    北海道でのクランクインにはNetflix米本社のスタッフも立ち会った。撮影中にかけられたこの言葉が、監督には印象的だったという。

    「すでにやりすぎではないかと不安になるくらい暗めにしていたが、それでも『もっとやってほしい』と」

    「暗くていい」は、単純に明るさを抑えるという意味ではなく「映画に近いトーンに」ということ。コントラストを下げ、柔らかさが出るように、機材や撮影方法も含めて、具体的にレクチャーされたという。

    「日本のドラマの現場では、テレビ局側から『これ、もっと明るくなります?』と聞かれるのが当たり前だったので真逆の要望で驚きました。画作りの段階から、違うものを指向していることがこのエピソードで伝わると思います」

    Netflixのヒットドラマには、映画のような予算規模・撮影規模のものも多い。「連続ドラマではあるが、作り手としては長い1本の映画」であることは、演出指示からも感じられる。

    全話同時に配信するため、気に入った作品であれば最後まで1日で一気に見る視聴者も少なくない。話数は分かれているが、連続視聴を意識するようアドバイスがあったという。

    「『大事なのは1話のテンポ』『2話で驚きを』『3話からじっくり話を展開していく、そこまでついてきてくれた人の多くは最後まで見てくれる』――Netflixが持つマーケティングデータを踏まえて、連続視聴しやすいように、抑えてほしいポイントを提示されました」

    「要求が過剰というわけではなく、あくまで表現の仕方はクリエイターにまかせるというスタンス。自分も経験がありますが、演出の好みはどうしても現場とプロデューサーでぶつかりがち。こちらですべて決めていく責任の重さは感じましたが、その分、やりがいはありました」

    世界配信だからこそ「もっと内向きに」

    日本だけでなく、世界190カ国以上でも同時配信する。原作漫画は今年、フランスのSF専門出版社「ActuSF」により「歴史改変SF大賞」に選出されるなど、海外からも注目が高い。

    日本初のNetflixオリジナルドラマとなった「火花」は、国内よりも海外からの視聴が多いというデータもある。ダイレクトに海外ユーザーに届くチャンスになるが、作り手として意識したことはあるだろうか。

    「『火花』成功の報告を聞き『オクジャ』を観て思ったのは、もっと内向きに作ろう、でした。つまり、強靭な『ジャパン・オリジナル』は価値を持つだろうと」

    <※「オクジャ」(2017):韓国のポン・ジュノ監督の映画。畜産産業と食肉、動物愛護などをテーマにした作品で、ハリウッドのメジャースタジオで撮影できずNetflixで配信した>

    「世界配信だからハリウッド志向や無国籍に走るのではなく、クリエイターが本当に面白いと思える日本発の作品を作ることが、世界に向けて輸出できる強度につながると思います」

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    BuzzFeed JapanNews