原子力発電という欠陥技術

福島第一原発事故の事態収拾の見通しがいまだはっきりしない情勢の下、4月10日に東京では少なくとも2カ所で反原発デモが行われた。一つは芝公園、もう一つは高円寺で。私はこれら2つの集会に駆け足で参加してきた。

芝公園の集会の主旨は、静岡の浜岡原発を停止しようという呼びかけだった。浜岡原発東海地震の想定震源域にあり、津波への備えも万全とは言えない。もし福島第一のような事故が起きれば、大量の放射能が西風に乗って神奈川・東京方面にやってくることになる。日本の GDP の多くの部分を生産する東京・神奈川が壊滅的被害を受ければ、文字通り日本という国が存亡の危機に立たされるだろう。

芝公園では、古株の市民団体や労働組合の旗が目立った。より伝統的な左翼的集会という印象だった。チェルノブイリの被災者に対して、20年以上支援を続けている市民団体もあって、こういう地に足のついた活動は偉いなと素直に思う。ただ、私はもともと労働組合アレルギーがあって左翼的なノリは苦手だ。それでも反原発に意思を表明するためにあえて参加したのだ。

その点、高円寺のデモは、政治的集会というより音楽フェスタに近かった。思い思いの個性的なコスチュームにウィットの効いたプラカードをもって集まった若者たち。もともとアーティストの多い中央線沿線らしい集会だった。これなら左翼アレルギーのある私でもすんなり馴染める。実際、集まったのはごく普通の若者たちで、政治的な人たちには見えなかった。沿道は人で埋め尽くされた。2,000 人は軽くいただろう。(後記:この報道によると、主催者発表で15,000人参加したそうだ)


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デモに参加しながら、TL を追っているとソフトバンク社長の孫正義氏(@masason)の怒りのツィートが目に飛び込んできた。文部科学省は児童生徒たちの被曝限度を 20mSv/年とするというのだ。これは彼が怒るのも無理はない。なんせ放射線業務従事者という放射線のプロの被曝限度が 20mSv/年なのだから。放射線により影響を受けやすい子供たちにこのレベルの被曝を許容するのはもってのほかだろう。

私自身は、もともと原発推進でも反原発でもないノンポリだった。福島の事故が起きたあとも、原発はいずれ全廃しなけれならないと確信しつつも、一部のあまりに急進的な反原発論にもついて行けないような中途半端な人間だ。それでも、いまだに原発推進を主張する人たちには次のことだけは言っておきたい。

現行の原子力発電の技術は、軽水炉だろうが高速増殖炉だろうが共通の致命的欠陥がある。それは大量の厄介な核分裂生成物を生み出すことだ。私は、原子力の技術者たちに声を大にしていいたい。原子力発電の安全対策というなら、まずはこの核分裂生成物を短時間かつ安全な方法で、安定した無害な元素に変換する技術を生み出してほしい。話はそれからだと思う。いちど核分裂生成物が作られたら、あとは隔離して冷やし続けるだけなんて、どこがハイテクだ?そんな原始的な手法に頼っている限り、私は現行の原子力発電を続行するべきではないと考える。そういう技術が開発されたあとに再開しても遅くはないはずだ。

核分裂生成物を短時間かつ安全な方法で安定した元素に変換する」なんて科学的に無理だというならそれは間違っている。核エネルギーが発見されてまだ100年ちょっとしか経っていない。それ以前の人類にはそんなものあることを想像さえできなかった。だから、私たちはいつの日か経済的かつ安全な方法で自由自在に元素の転換をできるようになるかもしれない。それまで、現行の原子力発電はお預けにしようではないか。

エネルギーはコストだけの問題だ。化石燃料でも石炭の安全供給は見込めるし、シェールガスのような新しい資源もある。太陽光発電のコスト低下も急ピッチだ。安いと喧伝されてきた原子力だが、使用済み燃料の処理費用や事故対策費用を考えれば、化石燃料よりずっと高い。

ならば原子力のような誰からも嫌われる忌まわしい技術を使い続ける必要はないではないか。脱原発へ一歩踏み出そう。当分の間、化石燃料に頼りつつ少しずつ自然エネルギーにシフトして行こう。「いままで出来なかったからこれからもできない」? それは違う。私たちたちはいままで本気で脱原発を目指してこなかった。これからは本気で目指そう。そうすればきっと達成できる。意志あるところに道は開けるのだ。