コミックナタリー Power Push - 仮面ライダー

石ノ森ライダーのすべてを豪華BOXに凝縮 島本和彦が猛プッシュするその魅力とは

誕生から40年を経た現在でもなお、新作が発表されては絶大な人気を集めるヒーロー「仮面ライダー」。その原点と言える石ノ森章太郎版マンガのカラー・オリジナル原稿が、石森プロにてこのほど良好な状態で発見。復刊ドットコムより、カラー完全版BOXとして発売される。

コミックナタリーではこれに際し、大の仮面ライダーファンとして名高い熱血マンガ家・島本和彦へのインタビューを敢行。ライダーへの並々ならぬ思いから完全版の魅力まで、存分に語ってもらった。

取材・文/岸野恵加 編集/唐木元

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石ノ森マンガは、作品自体がポエム

第3話「よみがえるコブラ男」より

──島本さんは「アオイホノオ」ほかご自身の作品にライダーのエピソードを登場させたり、「仮面ライダーZO」などライダーシリーズのコミカライズを手がけたりと、自他ともに認める筋金入りの仮面ライダーマニアですが、石ノ森先生のマンガ版はすべてご覧になっているんでしょうか。

小学生のときに週刊ぼくらマガジンや週刊少年マガジン(ともに講談社)を買ってたんで、そのあたりはリアルタイムで夢中になって読んでましたね。でもたのしい幼稚園(講談社)とか幼年誌に載ったものは、見たことないんじゃないかな。

──幼年誌版は単行本化されていないエピソードも多くレアなものなので、目にしたことがある人は少ないかもしれません。

「仮面ライダー」ってテレビとマンガで怪人のデザインが違ってたりするんですよ。蝙蝠男、カニ男……コブラ男なんて全然別物で。それらが幼年誌版ではどうなってるのか、特に気になりますね。

──今回の完全版ではそうしたレアな原稿のほか、扉絵や予告カットも網羅され、本編も雑誌初出時に忠実なページ割りで収録されています。島本さんのようにリアルタイムで読んでいた方は、当時の記憶がよみがえるかもしれませんね。

扉絵がすべて復刻されているということには、大きな意味があるんですよ! 何点かは単行本化されるときに省略されてしまうものですから。今でも鮮明に覚えてるんだけど、本郷猛が初めてマスクを被る回……第2回だったかな。その扉絵がものすごいんですよね。なんというか……ここまで楽をするか、石ノ森章太郎!っていう(笑)。

──えっ!? どういう内容だったんでしょうか。

島本の脳裏に焼きついて離れなかったという第2話の扉絵。

見開きで「仮面ライダー」っていう文字が3つ載ってるんですね。それで、横に流線が引かれている。ただそれだけなんです。

──絵は描かれていないんですか?

描かれていないんですよ。それが忘れられなくて。数年前に石ノ森先生の事務所に伺ったとき、過去の原稿が置かれているライブラリにお邪魔するやいなや真っ先にその扉絵を探しました(笑)。

──あはは。実際に見られてどうでした?

やっぱりまずは、手え抜いてんなあ! って思いましたよ。でもそれが石ノ森章太郎独特の扉ページの演出として、しっくりくるんです。石ノ森先生は魅力的な絵を描かれますけど、それ以上に演出がすごいんですよね。コマとコマの間というか。いろんな人が「仮面ライダー」のマンガを描いてきましたけど、石ノ森章太郎のは全然違う。どう違うのかってずっと考えていたんですけど、ストーリーがどうこうではなくて、ポエムなんです。

──ポエム、というと?

第3話「よみがえるコブラ男」より
第3話「よみがえるコブラ男」より

石ノ森先生の作品自体が、ポエムなんですよ! 小学館漫画賞を受賞した「ジュン」っていう作品がありますが、あれもストーリーがほぼなくてとても詩的なマンガで。「仮面ライダー」で例えると、風力エネルギーで戦っているライダーが鏡を見て「風の音がきこえる」って言うシーンがあるんです。「からだの中をかけめぐる…(戦ったあとの)のこったエネルギーのおたけびがきこえる!」ってモノローグがあって、身体の中を風が駆けめぐっているという表現。

暗い時代に合った絵の変化も魅力的

──なるほど。どこか詩的な雰囲気が漂っているんですね。

そういう描写って、子供の頃は「必要ないんじゃないか」って通りすぎてしまってたと思うんです。今でこそマンガってストーリーがなかなか進まなくても読者が文句を言わなくなってきたけれど、昔はとにかく「1カ月で敵をこれだけ倒さなきゃ」とか、性急さが求められたところがあった。そんな中でぴたっと立ち止まって心理描写をしっかり入れている。石ノ森章太郎は大人だなと。

──少年時代にこの「仮面ライダー」を読んでいた人が大人になって読み返したら「これはこういうことだったのか」って気付けるなど、また別の楽しみ方があるかもしれないですね。

はい。あとこの頃の石ノ森先生の絵が、とにかく素晴らしいんですよ。石ノ森先生って「サイボーグ009」もそうですけど、描く絵がそのときどきで全然違うんですね。設定がきちんと定まらないまま描かれたものがライダーには結構あって、それがなんというか、すごく魅力がある。

──「仮面ライダー」というひとつの作品の中でも、絵が変化している?

初期(左)は丸みが特徴的だったマスクが、次第に洗練されたフォルム(右)に。

そうですね。最初のほうのライダーマスクは、テレビ版で藤岡弘、さん用に作られたもののイメージとぴったり合っていて、丸いフォルムなんです。でもテレビ版のマスクは途中で面長な洗練されたものに変わって、それがすごく人気が出るんですね。マンガ版も石ノ森先生がそれに影響を受けてか、一文字ライダーになった頃からどんどんフォルムが洗練されていく。僕が石ノ森章太郎の歴代の絵の中で一番好きなのは、この「仮面ライダー」の時期(1971~72年頃)なんですよね。

──どういった点がお好きなんでしょうか?

それまでのマンガチックな絵から劇画というか現実的なフォルムに変えられていて、背景もカケアミを多用して真っ黒に潰されてるんです。仮面ライダーが生まれた1971年っていうのは高度成長の末期で、とにかくもう、暗い時代だったんですよ。その時代の雰囲気が漂っていて、それがとっても美しいんですよね。

仮面ライダー 1971 《カラー完全版》BOX / 予価11550円(税込) / 2011年5月下旬配送予定 / 初版完全限定商品

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商品仕様(予定)
  • B5判(雑誌初出時の原寸サイズ)フルカラー(4C・2C・1C)
  • 本文880P(うちカラー約460P)+別冊20P
  • 全2巻(上巻「本郷ライダー編」、下巻「一文字ライダー編」)
  • 連載初出時のページ割りにきわめて忠実な初の編集/全扉絵・予告カット類もコンプリート収録予定/箔押し美麗化粧BOXに収納
  • 封入特典:石ノ森章太郎・画によるオールカラーイラストブック「Masked Rider lllustrated」(B5判、20P)
収録作品(予定)
  • 「仮面ライダー」
    怪奇くも男/空とぶ吸血魔人/よみがえるコブラ男/13人の仮面ライダー/海魔の里/仮面の世界(マスカーワールド)
  • 幼年誌版「仮面ライダー」
    くもおとこのまき/こうもりおとこのまき/へびおとこのまき/うしおとこのまき/デビルエイのまき/かにおとこのまき/モゲラマンのまき/かせきにんじゃディプロカウルスのまき/マンドリラーのまき/みんなのすきな仮面ライダー/エイキングのまき/ナメクジラのまき
  • レコード用漫画「仮面ライダー」
    恐怖のくも男/吸血ゲバコンドル現わる!
石ノ森章太郎(いしのもりしょうたろう)

石ノ森章太郎

1938年1月25日宮城県登米郡生まれ。本名は小野寺章太郎(おのでらしょうたろう)。1954年、漫画少年(学童社)にて「二級天使」でデビュー。1964年に週刊少年キング(少年画報社)にて「サイボーグ009」を連載開始。繰り返しアニメ・映画化され、長期にわたる大ヒット作となる。1971年に週刊ぼくらマガジン(講談社)で 「仮面ライダー」、翌年週刊少年サンデー(小学館)で「人造人間キカイダー」を連載。ともに短期連載だが高い評価を得た。1988年「HOTEL」にて第33回小学館漫画賞を受賞。1986年にはデビュー30周年を記念して、ペンネーム石森章太郎を石ノ森章太郎へと改名した。1998年、東京お茶の水順天堂病院で逝去。生前の業績に対し、勲四等旭日小綬章、日本漫画家協会賞、手塚治虫文化賞および特別賞を授与された。

島本和彦(しまもとかずひこ)

島本和彦

1961年4月26日北海道池田町生まれ。本名は手塚秀彦(てづかひでひこ)。1982年週刊少年サンデー2月増刊号(小学館)にて「必殺の転校生」でデビューし、1983年より少年サンデー本誌にて「炎の転校生」を連載開始。熱血マンガ風の力強い線と熱いセリフが特徴だが実のところギャグマンガ、というギャップと、散りばめられた細かいネタが賞賛を受けた。代表作に「逆境ナイン」、「吼えろペン」など。現在ゲッサン(小学館)にて「アオイホノオ」、月刊ガンダムエース(角川書店)にて「超級!機動武闘伝Gガンダム」を連載中。