リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

船長の釈放について

手短に要点だけ書いておきます。尖閣諸島沖で不法操業の上、巡視船に衝突した件で拘留されていた中国漁船の船長が釈放されることになりました。那覇地検の判断です。

沖縄県・尖閣諸島周辺の日本の領海内で、海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件で、那覇地検は24日、公務執行妨害の疑いで逮捕、送検されていた漁船の船長セン其雄容疑者(41)を処分保留で釈放することを決めた。  


那覇地検は処分保留とした理由を「わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮した」と説明。船長の行為について「とっさにとった行為で、計画性は認められない」と述べた。同地検は釈放時期は未定としているが、近く釈放される見通し。

中国人船長、処分保留で釈放 那覇地検「日中関係を考慮」 - 47NEWS(よんななニュース)

 今回の事件における中国側の姿勢をみると、少なくとも今回は、本格的に尖閣の領有権を取りに来たわけではなく、先々のために日本側の反応とチャンネルを把握したい、という程度の意図でいたことが推察できます。口では色々と強硬なことを言っても、実際に動かしている手駒は漁船のみで、海軍どころか沿岸警備隊すら盤面に送り出してきていなかったからです。

 従って日本側は、何を言われようが粛々として「国内問題で」「司法の管轄なので」と、蛙の面に何とやらの心得で超然としておいて、中国からの圧力に屈するのではない形式で船長を送還して事態を収束させられればほぼベストだったのではないでしょうか。実際、今回の日本政府は珍しく超然とした姿勢をとって、もう少し事態を長引かせてやりそうな気配でした。

菅直人首相は……日中関係については「今いろんな人がいろんな努力をしている。もう少し、それを見守る」と述べるにとどめた。

:日本経済新聞

 このまま29日の拘留期限まで引っ張って、期限切れでこれ以上は法的に拘束できないから送還、というのが、考えられる落着点のひとつであったように思います。逮捕を実行することで「尖閣諸島は日本領土であり、その領海は日本の法律が適用される」ということを明確にできたし、アメリカから「尖閣諸島は日米安保の対象」という言質を改めて引き出すなどいくらか収穫もありましたので、なかなか悪くない形でここまではきていました。

 しかし今回、那覇地検が処分保留を決めてしまったこと、そしてその理由として「日中関係を考慮」をあげてしまったことは失点だったのではないでしょうか。このあたりの問題については以下のサイトに詳しいので、ご参照頂きたいところです。

尖閣諸島や漁船衝突とは無関係にもかかわらず圧力や影響を受けた省庁や地方自治体、一般企業、マスメディアはどうするだろうか。当然、事態の解決を求めるだろう。


他の省庁から外務省、外務省から国土交通省、本省から海上保安庁・・・、
企業や自治体から地元選出の政治家・事務所へ陳情、政治家から各グループ、各グループから党中央、党中央から政府・・・
そしてメディアは呼びかける「知恵を出して解決を」「冷静に対話を」


そういった有形無形の圧力が「司法」すなわち検察や海上保安庁に直接・間接的に伝わることこそが中国の狙いであり「超限戦」なのである。

……不起訴処分となれば、尖閣諸島周辺海域で不法操業してもよい、取り締まられて抵抗し、海保へ損害を与えても裁判になるほどの犯罪ではない、というお墨付きを与えてしまうことになる。


事実上、尖閣諸島周辺海域から海上保安庁が追い出されることになる。  

中国は「超限戦」で海上保安庁を封殺する-蒼き清浄なる海のために