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2011-03-07 18:15:50

【ワクチンの安全性について】ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンおよび同時接種の中止問題(2011年3月7日)

「VPDを知って、子どもを守ろう。」の会代表、日本赤十字社医療センター小児科顧問:薗部友良
 

ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンおよび同時接種の中止問題


 皆様ご心配のことと思います。まず、今回亡くなられた4名のお子様およびご家族の
方に、心よりお悔やみ申し上げます。

 結論から先に書きます。この2種類のワクチンおよび同時接種の安全性は、現時点
でも揺るぎないものです。再開され次第、子ども達をこの2つのワクチンで防げる病気
(VPD)から守るために接種を受けて下さい。

 さて、ワクチンは人類の幸せのために極めて貢献していますが、これほど誤解されて
いるものはありません。ワクチンで防げる病気(VPD) はすべて、大変重大な病気です。
麻しんのようにうつりやすく、重症になりやすい病気もあれば、多くの方はあまり重くなりま
せんが、実際には無視できない多くの方が死亡したり、重い後遺症を残したりする重
大な病気(水痘やおたふくかぜなど)もあります。ご心配でしょうが、それを防ぐワクチン
は低開発国の栄養状態が悪い生まれたての子ども達を含めて、世界中で接種されて
いますので、しっかりと安全性が調べられて、確保されているのです。

 まず、ワクチンを接種した後にも、熱が出たり、鼻水、下痢、時には脳炎や死亡など
総てのことが“見られ”ます。世界では、ワクチン受けた子ども達(人)にとって、受けた
後に“見られ”た、これらの“悪いこと”を有害事象(Adverse Events)と呼びます。
 有害事象とはそのワクチンとの関係があろうが、無かろうが、受けたお子さん(人)に
“見られた悪いこと”です。すなわち、有害事象には、「真の副作用(副反応)」と、「ワク
チンとはまったく無関係の偶然の紛れ込み事故、あるいはニセの副作用」の両者が含
まれます。残念ながら、日本ではこの有害事象の総てがワクチンの副作用と誤解され
ているのです。

 ではその有害事象が、ワクチンの副作用かどうかは、科学的に調べられています。
ワクチンが原因と言える条件は、1.ある症状や病気がワクチンを接種した人だけに見
られる。 2.ある病気の発生率がワクチンを受けていない人よりも受けた人に多く見ら
れる。 3.ボランティアにプラセボ(ニセ薬)とワクチンを接種したときに、ある症状がプ
ラセボを受けたグループに比べて、ワクチンを受けたグループに多く見られる。 4.普
通は細菌やウイルスがいない場所(脳の髄液など)から生ワクチンの弱めた病原体が
見つかる。 5.もしワクチンで特殊な病気が起こるとしたら、症状の出る時期、その症
状や経過などに、ある程度の一定の特徴があり、それを起こす科学的な理由が存在す
る。などがあげられます。

 世界中の有害事象調査の結果から言えることは、接種後の鼻水、咳や下痢などのほ
とんどは、ワクチンのためでは無く、周りではやっているカゼによるものです。接種後の
熱に関しても同じで、ごく少数のワクチンでは副作用としてでることがありますが、多くの
ワクチンでは起こりませんので、これもほとんどはカゼなどによるものです。

 真の副作用には、まず接種したところが痛い、赤くなる、腫れるなどの局所症状があ
ります。ほかにも重くない副作用もありますが、以下に皆様がご心配の死亡したり、脳が
侵されたりするなどの大変重い副作用について述べます。
 
 極めて重いアレルギー体質の人では、ワクチンの種類によってはアナフィラキシー
ショックという、血圧が下がって救急処置が必要になる症状が大変稀には出ることがあ
ります。ですがワクチンの改良で大幅に減ってますし、最近は処置によりほぼ全部対
処できているとされます。
 次に、同じく稀ですが生まれつき免疫が大変弱い子ども(重症先天性免疫不全)が、
診断がつく前に生ワクチン(ヒブワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンは生ではなく、不
活化ワクチンです。)を受けますと、そのワクチンで重症になることがあります。簡単な
方法で早期に見つける検査法が開発されていますが、日本では導入されていませ
ん。
 また日本でも使用されているポリオの生ワクチンによって、免疫などに異常のない普
通のお子さんにポリオが発病して、足のマヒなどが50?100万人に1人起こっています。
ただし、これは不活化ポリオワクチン(IPV)では起こりません。緊急輸入措置を含めた
一日も早い日本での単独IPVの導入が望まれます。
 
 ワクチンと聞くと脳が侵されると思われている方もおられかも知れません。接種後の
脳炎に関しては、日本でもよく調べられています。ワクチン接種後に多いこともないし、
積極的にワクチンが悪いと言う証拠はないのです。脳炎を起こしたお子さんをよく調べ
ると脳炎を起こす別のウイルス(代表は手足口病の原因のエンテロウイルス)などが見
つかることも多いのです。日本ではインフルエンザや突発性発疹(年間約100名)を含
めて、毎年約千人の子どもが脳炎にかかっています。平均すれば毎日3人がかかって
いるのです。これだけ多ければ、ワクチン接種後に脳炎が“見られる”ことも多いので
す。

 ワクチンの歴史はえん罪の歴史です。ただしその原因の一つは、今から60年くらい
前に、日本でのある会社のワクチンの製造法が未熟で、多くの死亡者が出たこともあり
ます。同じことが世界でもそれ以前に起こりました。しかし、それ以後ワクチンの品質管
理が極めて厳格に行われるようになり、製造法に関しての安全性の問題点は出ており
ません。
 そのために、それ以後多くのことがワクチンが原因と一時疑われました。その代表的
なものは、脳障害、乳幼児突然死症候群(SIDS)、自閉症などです。しかし世界中の数
多くの調査によって、ワクチンとは関係ないことが証明されています。
 
 日本では旧型のDPTワクチン接種後に、今回のように2人の赤ちゃんが突然死して、
ワクチン接種を止めたことがあります。その結果ワクチンのおかげで流行が防がれてい
た百日咳が大きく再流行して、多くの子どもが死亡したり、脳障害が起こるなどの不幸
が起こりました。同じことは英国でも起こりました。現在の目で見直すと、これもまったく
ワクチンとは関係なかったのです。

 ワクチンを受けられるくらい元気な子どもが亡くなることは極めて稀ではないかとお考
えだと思います。しかし実際は多いのです。乳幼児突然死症候群(SIDS)も毎年約150
人の子どもに起こっているのです。類似の突然死を含めると数はもっと多くなります。そ
れを含めて0歳児では毎年、生まれつきの病気(特に心臓病)、肺の病気、細菌性髄
膜炎を含めた感染症などで約2,500人の赤ちゃんが亡くなっているのです。
 世界では、重症な病気の子どもこそワクチンを優先して受ける事が勧められている
のです。当然これだけ多いと、ワクチン接種後に、ある一定の数の赤ちゃんに死亡す
ることが“見られ”ても 何ら不思議はないのです。時にはそれが重なって“見られる”こ
ともありうることです。
 
 今回話題になっているヒブワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンは世界では10-20年
前から、何億回も接種されて、その効果と安全性が確かめられています。同時接種も
同じです。小さいお子さんに接種しますし、欧米では2か月の赤ちゃんに6種類のワク
チンの同時接種をしますので、極めて厳密な調査が行われてきましたし、これからも行
われます。結果として、これらのワクチンが原因で死亡したと科学的に証明できるお子
さんはいないのです。日本人だけはワクチンに弱いのではないかとの疑問も出るか
と思いますが、欧米で受けた在留邦人や日系人にも問題は出ていません。米国では
予防接種を実質上義務接種にしていますが、一つの理由はこの安全性からです。

 この2種類のワクチンで防ぐ細菌性髄膜炎などの病気は大変重篤です。接種再開が
遅れれば、遅れるほど日本の子どもの健康と命が侵されます。同時接種をしなければ、
大変面倒で、受ける方が減り、最終的には日本の子どものVPD被害が増えるのです。
 また今回の接種事業から外れたすべての通常の任意接種ワクチンで防ぐVPDの被
害は、現在でも大変大きいのです。そのため、予防接種法の大改革を行い、欧米同
様にこれらワクチンをすぐに定期接種化して、日本の未来を担う子どもたちを守ってい
く必要があります。皆様の熱い愛情に裏打ちされた冷静なご判断をお願い致します。