『アンダルシア 女神の報復』35点(100点満点中)
2011年6月25日公開 全国東宝系 2011年/日本/カラー/125分/配給:東宝
監督:西谷 弘 脚本:池上純哉 音楽:菅野祐悟 主題歌:イル・ディーヴォ「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」 製作:フジテレビジョン他 出演:織田裕二 黒木メイサ 戸田恵梨香 福山雅治 伊藤英明

≪織田裕二をもっと前面に出さねばだめ≫

前作「アマルフィ 女神の報酬」(09年)はじつにユニークな作品であった。何が面白いかというと、ひとたびこいつを褒めるともれなく猛烈な反発をくらうという、奇妙な特性があるのである。

死ねだのやめろだの金をもらっているだのと、ちょっぴりお口の悪いネット紳士たちからたしなめられるたび私は、これがいわゆる炎上マーケティングというやつかと他人事のように感心する。

こうなると続編『アンダルシア 女神の報復』では、さらに輪をかけ褒めまくり、火に油を注いでやろうとのイタズラ心が芽生えてくる。

かように日本一おちゃめな映画批評家である私は、そんなわけで隅から隅までたくさんの褒めどころを探すべく『アンダルシア 女神の報復』を見に行ったわけだが、残念ながらそうした要素はどこにも見当たらなかった。魅惑の炎上マーケティングはあきらめるほかないようだ。

スペインの隣国アンドラで、日本人投資家・川島(谷原章介)の死体が発見された。パリで開催中のサミットをよそに現地へ飛んだ外交官・黒田康作(織田裕二)は、そこで第一発見者の銀行員・新藤結花(黒木メイサ)と対面する。さらに事件担当のインターポール捜査官、神足誠(伊藤英明)とも知り合うが、両者とも何か訳ありな様子。やがて事件の背後には、何者かのマネーロンダリングが絡む闇があることがわかる。

アマルフィ期待の続編は、一般向き娯楽映画としては事件解明までの流れがややこしい上に地味すぎる。おまけに終わってみればそんな動機かよと、あまりのスケールの小ささに脱力。あれだけ悠々とした前作の続き、さらにドラマ版の完結編としては、みみっちぃにもほどがある設定である。

見せ方もうまいとは言えず、名探偵コナンなら15分で解き明かすようなチンケな真相を、えっちらおっちら2時間以上も追いかける。長すぎるし、無駄が多いし、謎自体にも興味がわかない。完全に脚本づくりの失敗である。

ヨーロッパロケが話題だが、もともとこのシリーズは一部で誤解されているものの観光映画としての魅力はほとんど無い。ロケ地を美しく見せようとの方面にはさほどの労力がつぎこまれておらず、だから本作を見ても、スペイン行きたい素敵、とはまずならない。

となると残るは役者の魅力ということになるのだが、実はこれが今回最大の問題であった。

結論から言うと、織田裕二の引力にその他のサブキャストがまるで追いついていない。黒木メイサや伊藤英明ら若いキャストには、織田裕二のように絵空事ハードボイルドを格好よくみせるだけの説得力がいまだ無い。どうみても織田に見劣りするのに、ストーリー上の扱いはほとんど主人公以上。明らかにスポットライトをあてる場所を間違えている。

織田裕二という俳優は、結局のところアクが強すぎて、誰かに合わせるような使い方は好ましくない。彼にまわりが合わせなくては、なかなかいい映画にならない。たとえPVなどといわれようが、この人を中心に、あとはせいぜいカスミソウ程度の扱いにしなくてはならない。そういう俺様スターはこの上なく貴重な存在であり、周囲のスタッフには伝説を育てる意識で挑んでいただきたい。演技力や外見のいい俳優など代わりはいくらでもいる。だがスターの代役はいない。

『アンダルシア 女神の報復』に続編があるとするならば、このシリーズが織田裕二のものであることを再確認し、回りはどんな大物を配置しようが引き立て役以上に扱わないことが肝要だ。日本唯一のスケールのでかいスタームービーとして、まだこのキャラクターには可能性がある。

さらにいえば、外務官僚という設定を最大限に利用して、時事問題や国際情勢をそれとなく盛り込んだ社会派テーマ&わかりやすいスペクタクルという形にすれば、堂々と世界中に輸出できるコンテンツに育て上げることが出来るだろう。



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