放射能デマを取り上げるとかえってパニックを拡大するので、いつもは無視しているのだが、広瀬隆氏と明石昇二郎氏が行なった刑事告発は悪質なので、事実関係を訂正しておきたい。

彼らは32人を東京地検に告発しているが、告発なんて誰でもできるもので、それ自体は犯罪に関与していることを意味しない。普通のメディアは無視しているが、「自由報道協会」は彼らに記者会見させ、それをニュースメディアではBLOGOSだけが報じている。

この刑事告発が悪質なのは、行政の責任者だけではなく、山下俊一氏(福島県立医大副学長)などの専門家も対象にし、犯罪者として立件するよう求めていることだ。山下氏は、長崎の被爆者などの調査をもとに「100mSv以下の被曝と発癌率には因果関係がない」という結果を発表し、今回の事故についても福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーとして勧告してきた。これは学界でも広く認められた説であり、彼が研究者としてそれにもとづく勧告をするのは当然である。

これに対して、広瀬氏らは山下氏は「安全デマを流す御用学者だ」というが、そのデータは自分たちの都合のいい二次情報だけを集めたものだ。特に問題なのは次の部分である:
ヨーロッパ議会の中に設置されている調査グループ「ヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)が、国際原子力機関(IAEA)と日本の公式発表情報から得たデータを使用して、福島原発事故によって近隣地域で今後発症すると予想される癌患者の増加数を発表した。ECCRの予想では、333万人8900人が住んでいる福島原発から100km圏内では、19万1986人が今後50年間で癌を発症し、そのうち半数は今後10年間で発症する。
19万人以上が癌になるとすれば深刻な事態だが、普通のメディアはまったく報じていない。それはこのECRRなる団体が、ヨーロッパ議会とは何の関係もない「緑の党」傘下の反核団体だからである。したがって彼らのプロパガンダをもとにして研究者を犯罪者扱いすることは、名誉毀損であるばかりでなく、学問・研究を刑事罰で取り締まるという、戦前の特高警察と同じ発想である。

自由報道協会は、記者クラブを批判する自称ジャーナリストの団体だが、これまでも放射能デマを流し続けてきた。ジャーナリストにとって重要なのは、記者クラブに所属しているかどうかではなく、事実を客観的に報道するかどうかである。特定の政治的立場から言論の自由を刑事罰で脅迫する広瀬氏の行為は、言論にたずさわる者の自殺行為である。それを宣伝する自由報道協会は言論を圧殺する団体であり、会見を無批判に報道するニコニコ動画やライブドアも共犯者である。