遠藤功氏と山本孝昭氏の共著『「IT断食」のすすめ』は、無用のメールやプレゼン資料作り、情報入力・検索などIT活用の弊害により企業の生産性が低下したと説き、IT関係者の話題を集めている。著者の一人、遠藤氏はそうした「IT中毒」を克服するために「現場力」の復権を訴える。コンサルティング会社ローランド・ベルガーの会長でもある遠藤氏に真意を聞いた。

『「IT断食」のすすめ』を共著で出した意図は何ですか。

 問題の投げ掛けをしなければいけないというのが意図で、IT利用が過剰なのではないのかというのが出発点です。

遠藤 功 氏
早稲田大学商学部卒業。米ボストンカレッジ経営学修士 (MBA)。1979年三菱電機に入社。88年にボストン・コンサルティング・グループに入社。プロジェクトマネジャーとして戦略策定プロジェクトを担当。92年アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に入社。東京オフィスの戦略グループ立ち上げに尽力し、パートナー(共同経営者)に昇進。97年に日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンのパートナー兼取締役。2000年にローランド・ベルガー日本法人の社長、06年に会長に就任。同年より現職。1956年生まれ。(写真:陶山 勉)

 深刻だと思うのは、ITに逃げ込んでいる人が結構多いことです。問題を解決できない人が、ITで問題を解決しようと逃げ込むわけです。本人は仕事をしているつもりなのかもしれませんが、付加価値をつけているのかは疑問です。つまり、多くの人が生産的な活動に従事していないにもかかわらず、その実態が見えなくなっているわけです。

 もちろん優秀な人は、ITを使いこなしています。厄介なのは、それなりに仕事ができる人です。そうした人がIT中毒になると途端に戦力にならなくなる。PCにしがみつくから、フットワークも悪くなってしまいます。

 実は大学院でも事情は同じです。私はゼミや授業で、院生にPCを一切使わせません。そうしないと、院生はすぐにキーボードをたたき始めます。講義のなかで出てきた企業などを検索しているのです。勉強に来ているわけだから、人の話をきちんと聞いて自分で考えないといけないのに、検索したほうが効率的だと思っているのでしょう。ITの悪い習慣です。