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ぼやき漫才 IKKI&ビーム

2011年5月16日

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写真:奥村勝彦さん(左)と江上英樹さん。実は江上さんの方が年上拡大奥村勝彦さん(左)と江上英樹さん。実は江上さんの方が年上

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写真:左から江上さん、奥村さん、しりあがり寿さん拡大左から江上さん、奥村さん、しりあがり寿さん

写真:IKKI 2011年6月号拡大IKKI 2011年6月号

写真:コミックビーム 2011年6月号拡大コミックビーム 2011年6月号

 対談開始を待つ司会者の方いわく「ゴジラ対キングギドラ」。月刊IKKI(小学館)の江上英樹さんと月刊コミックビーム(エンターブレイン)の奥村勝彦さんという、マンガ界きっての個性派編集長2人が対談するというので取材に行きました。

 時は5月5日、東京・有明の東京ビッグサイトで開催された同人誌即売会「コミティア」会場内。IKKI通巻100号目前を記念し、ニュースサイト「コミックナタリー」による企画「コミナタ漫研EXTRA」として開催されました。

 いずれがゴジラでいずれがギドラか、口からはき出されるのは放射能熱線でも引力光線でもなく、毒、偏愛、ぼやき、自虐、そして気高い志。マンガ愛と編集者根性がビームのごとく飛び交うノンストップ漫才をイッキにお楽しみください。出会いのエピソードから非常識、いや常識破りです。

 江上さん「奥村さんがまだ秋田書店にいたころ僕は『スピリッツ』の編集部にいて、秋田の『チャンピオン』にいい新人のマンガが載った。で、この人の連絡先が知りたくて。相手が『ジャンプ』だったら聞けるとは思わないし、いや『チャンピオン』だってそうだけど、でも電話しました。『連絡先を教えていただけないか』って。その電話に出たのが奥村さん」

 司会者「で、どうしました?」

 奥村さん「3つヒントをあげました(会場爆笑)。ハイそうですかと教えられるもんやないけど、バサッと断ってケツの穴の小さいヤツやなと思われるのもイヤやし」

 司会者「イヤ思わないでしょ」

 「ありがたく、そのヒントで分かったんです。住んでる通りの名前をペンネームにしてる、というのと家業と所属してる団体でしたね」

 「めんどくさいから最近は、作家本人がOKと言うたら連絡先教えてますけどね」

 「ウチもそう。月刊誌なのでウチだけで囲いこむなんてムリですし。結果的にウチをやめて他誌に移ることもあり得るけど」

 「それはバトル。そういう勝負はやった方がいい。自分とこでアカンかったけどヨソで花開いたというのは、悔しいけれど救われるところもある」

 「IKKIが好きで作品を持ち込んで下さっても、それがIKKIに似合うとは限らない」

 「同じような作家、同じような作品ばかり並べるわけにもいかない。今これを載せたら雑誌のバランスがおかしくなるな、持ち込んでくれたのが2年前だったらよかったのになあ、ということも」

 「奥村さんも『バランス』なんて考えることあるんですか?」

 「ありますよ! 良識的な『バランス』はまったくないけど」

 「私も、鉄道マンガ3本載せるのはマズイかな、とは思います」(注:江上さんは鉄道ファンで、趣味全開の「鉄子の旅」をヒットさせた)

 「『鉄子の旅』はええタイミングやった。ヒットして、江上さんキモチええやろな、と思った」

 「ヒットするとは思ってなくて、1本くらい自分の趣味のものがあっても、という程度」

 「それはウチの『フロ』も一緒ですわ(注:奥村さんはフロと歴史が大好きで、趣味全開の「テルマエ・ロマエ」をヒットさせた)。フロでローマで、オレの好きなツボを2つも押しといて、なのに(初回の担当編集者は)読み切りとか言うてるから『オレに任せろ、連載にするでェ〜』と」

 司会者「ヒットの予感は?」

 「あるかそんなもん! 僕がキモチええのが基本。客がキモチええかなんて分からんもん」

 「公私混同ですよね。自分の読みたいものを作家からどう引き出すのか。それで作家の方は、自分の思いもよらない答えを持ってくる」

 「僕ら月刊誌で部数も出とらんし、テレビで言えば11時台――深夜番組とまで言うのはイヤやけど――限られたスタッフと予算の中で面白いことをやってみせるのが仕事。僕らは2大『売れてない雑誌』編集長やから」

 「でもときどきヒットを出しますよね」

 「いつもヒット出してたら会社が期待してしまう。端っこに置いといたらたま〜にエエことありますよ、と会社に思わせるのに10年かかった」

 「僕もボスに『何部まで減ったら廃刊ですか』と聞いたら『お前んとこつぶしても何も変わんねえ!』って言われて。誤差みたいな存在らしい」

 「ただ、部数は少ないけど(読者に向かって)『開いていくぞ』という思いはある」

 「閉じてるつもりはないですね。間口は広く、でも奥行きは深く。なかなかうまくいかないけど」

 「それは、作家の人格が広くて深くないと」

 「人格者ばかり集めるんですか?」

 「それもオモロないな。ポジションが重ならない集団がいい。理想は『七人の侍』。僕がなりたいのは(三船敏郎が演じた)菊千代」

 「僕は木村功(若くてハンサムな勝四郎役)」

 「そういうところがキライや! カッコつけて、女の子と仲良くなりたいんやろ」

 司会者「編集長の一番の仕事って何でしょう?」

 「おもろいものを『おもろい』と言うことが一番の仕事。でもその見極めは難しい。あれこれ考えたり間を空けたりせず、条件反射でパッとおもろいかどうか判断しないとダメ。でも体調に左右されることもあるし…。持ち込みマンガとか、その場でいいか悪いか答えないといかんのに、相手が気の弱そうな女の子だったりすると、ここで『ダメ』となったら電車に飛び込んだりしないか、とか考える」

 「いろいろ断られて、最後の持ち込み先だったりして」

 「僕ら、だいたい最後よ」

 「最後の砦なんだ」

 ここでサプライズゲストとして、両編集長と長くおつきあいのあるマンガ家しりあがり寿さんが登場。両編集長の第一印象を聞かれ「江上さんはカラオケ上手、奥村さんは『顔』」とのこと。「マンガ雑誌の役割は、新人や作家を養い、守ること。お二人ともそれを大事にして、変わった種を繁栄させよう、種の多様性を守ろうとしてくれる人ですね」

 続いて司会者の方から「2誌が誌上で何か共同企画をしては?」という提案が。

 「ビームはいま勢いがあるので、共同企画させてもらったらウチの方が得みたいですけど?」

 「そら、ウチの本当の部数知らんからや。笑うで〜」

 「奥村さんだってウチの本当の部数知らないでしょ」

 「種の多様性のためには、ウチらのような雑誌が生き残っていかんと。何部売ったかより、何人の作家を出したかが大事やないのかな。まあ『誤差』の範囲内やけど、背負ってるものはそんなに軽いものではないと思ってます」

 「今は雑誌はなかなか売れませんけど、コミュニティーのように、ビームやIKKIをみんなで支えましょうと思ってもらえたら」

 「それは僕らから言うことやない」

 司会者「(会場に向け)では共同企画が実現したら皆さん、買い支えてあげてください」

 「募金みたいやなぁ、それ」

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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