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開発期間はわずか1カ月、今後はiPhoneアプリやAndroidで世界へ――GREE iPhone版の開発者に聞く

快進撃を続けるSNS「GREE」。ついにiPhone対応版が登場したが、開発を担当したのは入社間もないエンジニアだという。開発プロジェクトの裏側について、話を聞いた。

 グリーは2010年8月9日、同社のSNS「GREE」のiPhone版のWebサイトを公開した。これを手始めに、今後はスマートフォン対応を強化していく考えだ。このiPhone版Webサイトの開発メンバーに抜擢されたのは、プロジェクト開始時にまだ入社して2週間しか経っていなかった、エンジニアの熊谷健太郎氏である。開発期間はわずか1カ月、担当エンジニアは熊谷氏1人というから、そのスピード感には驚かされる。どのように開発が進められたのか、開発チームに話を聞いた。

  スマートフォンは世界進出への足がかり

 開発チームを率いたメディア開発本部 ソーシャルネットワーク統括部長 プロデューサーの荒木英士氏は、iPhone版「GREE」開発の背景を次のように語る。

グリー メディア開発本部
ソーシャルネットワーク統括部長
プロデューサー 荒木英士氏

 「GREEは、『ユーザー数1億人』という中期目標を掲げています。この規模は、日本国内だけでは満たせません。必然的に海外へ出て行く必要があります」(荒木氏)

 PCより伸びしろが大きなモバイルを選んだグリーは、次のフェイズとして、スマートフォン(iPhone、Android搭載機など)か、フィーチャーフォン(スマートフォンより低価格な高機能携帯電話)か、という選択肢を付き付けられている。

 「(iモードなどが普及した日本とは異なり)海外ではフィーチャーフォンによるネット接続の市場は大きくない。これから取るべき市場はスマートフォンである、という結論に至りました」(荒木氏)

 まず日本国内向けにスマートフォン対応を図り、それを海外向けにも展開していこう、というのがグリーの基本戦略である。iPhone版Webサイトの開発は、その第一歩だ。「Webサイトであれば、iPhone版もAndroid版も共通する部分が多く、汎用性があります」と荒木氏は語る。

 実は荒木氏は、事前に検討のためGREEのiPhone版サイトを試作してみたそうだ。空いた時間を利用してプロトタイプを作ってみると、面倒な部分もあるが、開発にそれほど時間はかからないだろう、と感じた。「1カ月」という開発期間の設定は、このプロトタイプ開発の経験から生まれた。

  入社10日でiPhone担当に!

 iPhone版「GREE」の開発を担当した熊谷氏は、学生時代にユーザー数10万人規模のサービスを作り上げた経験を持つエンジニアだ。彼が当時開発したのは、メールで写真を送ることでフォト日記を作れるサービス「ヤプース!」である(このサービスは後にGMOインターネットに引き取られ、現在は「ヤプログ」に統合されている)。

グリー メディア開発本部
エンジニア 熊谷健太郎氏

 大学卒業後は、ヤフー、GMOインターネットでサービス開発や、HTML5にかかわる研究開発を行っていた。さらに個人としてiPhoneアプリの開発も手がけていた。スマートフォン関連の仕事をしたいと考えていたところ、グリーがiPhone対応のためのエンジニアを募集していることを知り、転職。そのままiPhone版「GREE」の開発に参加することとなった。

 熊谷氏は、エンジニアから見たスマートフォンの魅力を、次のように語る。

 「Webの世界は、Webブラウザでできることしかできません。一方、スマートフォン向けのアプリでは、カメラや、加速度センサーの利用など、『Webブラウザだけではできないこと』が可能になる。デバイスの能力を引き出せることは、大きな魅力です」(熊谷氏)

 熊谷氏に、グリーに入社した直後の様子を聞いてみた。入社後5日間は、グリーCTO(最高技術責任者)の藤本真樹氏による講義があったという。「非常に近い距離感でグリーのインフラの話を聞くことができて、面白い体験でした」と熊谷氏は語る。

 まだ入社後間もないころ、他部署の社員とランチを取ったときに、お互いに自己紹介をし、スマートフォンの担当であることを話すと、「大変だね」と声をかけられた。社内の期待が集まるプロジェクトだということを感じたと熊谷氏は振り返る。

 「そういったことの積み重ねで、『頑張ろう』という気持ちが強くなりました」(熊谷氏)

  短時間の「朝会」で情報共有

 実績豊富な熊谷氏にとっても、与えられた「1カ月」という開発期間は意外だった。熊谷氏が参加した時点では、荒木氏が試作したプロトタイプがあるだけで、詳細な仕様書や設計書があるわけではなかった。結果として1カ月でiPhone版「GREE」をリリースすることができたのだが、その背景には、熊谷氏の能力に加え、

 「自分がなんとかしないといけない。そういう状況や、それを乗り越えたときの達成感が好き」(熊谷氏)

という熊谷氏の性格が寄与したようだ。荒木氏は、熊谷氏の仕事ぶりについて「細かい仕様をどんどん自分で決めて仕事を進めてくれるし、細部のインターフェイスの仕上げも品質が高い」と絶賛する。

 情報共有の場は、主に毎日の「朝会」だ。デザイナーも含め、チームで集まって10分〜20分といった短い時間で情報を共有する。厳しいスケジュールの中で、残り時間を見ながら、優先度を定めて機能の取捨選択を行っていく。

 「情報共有は必ず毎日やるようにしていました。小規模に、カジュアルに、という点を心がけています。大きな会議では出ない発想が、カジュアルな朝会で出ることもあります」(荒木氏)

 「朝会」では、開発スケジュール上「無理だ」と一度は判断し、実装しないことになった仕様が、翌週に「復活」することもあった。

 「復活させるのは大体わたしです(笑)。できあがってきたサイトを触りながら、やはりこの機能はユーザーにとって欠かせないだろうと思いなおし、やっぱり入れましょう、ということがありました」(荒木氏)

 スマートフォン対応のWebサイトは、PC版と共通の基盤を利用する。そこで、PC版「GREE」の開発チームとの情報共有も必要だった。熊谷氏は、PC版「GREE」のチームにも参加し、日常の業務の中で必要な情報を周囲に聞くことで、業務を進めていった。

  リリース直前まで修正を続ける、というグリーの「風土」

 iPhone版「GREE」には、PC版ともフィーチャーフォン版とも異なる工夫がいくつか施されている。特に目立つのはAjaxの利用だ。JavaScriptを全面的に用いて、画面遷移を発生させずに同じWebページの中で画面が切り替わる。

 「画面遷移がある場合は、画面が一瞬真っ白になってからレンダリングが始まるので、どうしても体感時間で『遅い』と感じます。フルAjaxの方が待たされる感がなくてすみます」(熊谷氏)

 これはHTML5対応のモバイルSafariを搭載したiPhone向けサイトならではの工夫といえる。従来型の携帯電話向けサイトでは使えない手法だ。

iPhone版「GREE」
画面イメージ

 もう1つ、iPhone版ならではの工夫は、絵文字の採用だ。なんと、GREEで使われているフィーチャーフォン版の絵文字変換ライブラリをiPhone搭載絵文字にも対応したのだという。当初予定していた機能ではなかったが、熊谷氏が独自に工夫して実装したそうだ。アプリのようになめらかに動く「フォトアルバム」機能も、熊谷氏が自発的に実装した機能とのこと。「厳しいスケジュールでしたが、スマートフォンならここまでできる、というのを表現したくて実装しました」と熊谷氏。

 リリース当日のことを、熊谷氏は次のように振り返る。

 「お昼の12時にリリースの予定だったのですが、午前11時になっても『ここをもう少しきれいにしよう』と、ギリギリまで修正作業をしていました。『リリース直前にはなるべく手を入れない』という文化の会社が多いと思いますが、グリーはギリギリまでブラッシュアップする風土なんだな、と思いました」(熊谷氏)

 カルチャーギャップはあったものの、実力とチームの支援で乗り越えた。荒木氏は、「グリーのプロジェクトは試行錯誤をしながら柔軟に仕様を変えていくので、最初にえいやで決めた締め切りどおりに完了したプロジェクトって、あまりないんですよ。珍しいケースです」と打ち明ける。

  「1億人が使うサービス」を開発する魅力

 熊谷氏は、グリーの魅力を「提供しているサービスの規模が大きいこと」「1人ではできないことができること」だと語る。学生時代に10万人規模のサービスを作り上げた熊谷氏だが、「10万人のサービスと、1000万人や1億人が使うサービスではデータ量の桁が違い、求められるアプローチが違う」という。エンジニアとして、大きな魅力につながっているようだ。

 グリーは、今後スマートフォン対応のアバター、ソーシャルゲーム、ゲーム制作会社向けプラットフォームなどを続々と開発していく計画だ。マルチデバイス対応も進める。今回開発したiPhone版のWebサイトに続き、iPhoneアプリ版、Androidアプリ版の企画も進行中だという。

 iPhone版「GREE」は、Android端末で表示することもできる。「iPhoneと違い、Android端末は画面解像度や縦横比率が機種によりまちまちなので、その対応は注意が必要でした。最終的には、きちんとしたHTMLで書く、というやり方で解決できました」(熊谷氏)

 iPhoneとAndroidの違いについて、熊谷氏はこう話す。

 「iPhoneは、とにかく表示が美しい。でもOSの設計には目新しいところはないし、アプリケーション配布のプロセスも閉鎖的。一方Androidは、Webとつながることを前提とした基本設計になっていて極めて現代的。IMEのような主要なコンポーネントであっても入れ替えられたり、アプリケーションの配布が自由に行えるところも魅力です」(熊谷氏)

 iPhoneの世界的な成功と、それを追う形のAndroid端末の急成長で、スマートフォン分野には急激にユーザーが増え、一大市場となりつつある。次々と新しい技術やサービスが投入される、競争が激しい分野でもある。このスマートフォン分野でのグリーの挑戦は始まったばかりだ。

 「自分の書いたコードが1億人に使われる。そうイメージして興奮できるような、そんな人と仕事をしてみたいですね」(荒木氏)

 元はてなの伊藤直也氏が入社し、スマートフォン分野の開発に参加するというニュースが話題となったばかりのグリー。今後、技術開発の一層の強化を図っていくであろう同社の動向から、目が離せない。

提供:グリー株式会社
企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2010年10月12日



会社情報

  • 会社名
    グリー株式会社
    GREE, Inc.
  • 設立
    2004年12月7日
  • 代表者
    代表取締役社長
    田中良和
  • 本社所在地
    東京都港区六本木6-10-1
    六本木ヒルズ森タワー
  • 従業員数
    正社員174名(2010年6月30日現在)