失敗しても前へと進む超前向きな緒花の魅力たっぷりな「花咲くいろは」の「けいおん!!」的な楽しみ方

 今期は「あの花」でもオリジナルアニメのシリーズ構成を手がけている岡田麿里さんですが、もう一本がP.A.works十周年記念作品となる「花咲くいろは」です。各話の脚本は違っていることもあるんですが、岡田女史のカラーが色濃く出ている作品だとも思います。
 「あの花」は逆算されたストーリーというか計算されつくした面白さがあると思うのですが、「花咲くいろは」にはあの花とは違ったゆるさを演出しているような気がしています。実際に1話1話の濃度はかなり濃くて、その話の中で3つくらいの事件が解決してたりイベントが起こっていたりするのですが、何となくこうゆるやかで「このシーンはいらなくね?」とか何かそういう余裕を作るような演出をしているような気がしています。基本的にはさほど驚くような演出があるわけでもなく、喜翆荘という旅館での日常や事件を描いているだけではあるんですが、どうしてかそれが凄く面白いという……。これってどういう種類の面白さなんだろう? と考えてみたら、割と「けいおん!!」的な面白さに近いんじゃないかと感じました。

  • 喜翆荘という狭い世界と舞台

 喜翆荘という舞台……が、けいおん!!で言うところの桜高、あるいは桜高軽音部放課後ティータイム)に近い存在なのではないかと考えています。花咲くいろはではこの喜翆荘という「世界」の中でほとんどの話は動いていますし事件も起こりますが、けいおん!!も軽音部という狭い世界や桜高というちょっと広い世界までしか描かれてませんよね。狭い舞台の中での人間関係が引き起こす日常と事件、ってのが凄く共通している点だと思います。また、桜高にレトロな旧校舎を使っている点も、喜翆荘も古びたおしゃれな旅館を使っている点では共通していると言えるのかもしれませんね。どちらも舞台がレトロでモダンな建物、という共通点や、実際に存在する風景をかなり忠実に作品に落とし込んでいるあたりも近いのかもしれません。
 もちろん、けいおん!!だと既に梓も加入していますし、新たに軽音部に入ってくる人間もいませんから凄く閉鎖的で、逆に花咲くいろはは「お客様」という日常的に外部の人間が入ってくるという点では全く異なるのですが。

  • ゆるさとゆるやかな進展、ゆるやかな成長

 花咲くいろはを観てると、とにかくゆるいですよね。何がゆるいかって、本来ならビシッと厳しく締める立場のはずの女将さんがゆるい緒花にかなり甘い感じ(表面上は怒るけど内心では結構好きですよね)からしても、さほどきつく締める感じではありません。主人公の緒花はアホの子かつ思いついたらすぐに行動してしまうような子ですし、若旦那はよかれと思って呼ぶ経営コンサルタントを盲信して変な試みをしたりしてますし、若女将も百合妄想に走ったりと無茶苦茶です。むしろこれで旅館経営なんて成り立たないだろう……くらいのゆるさですが、これってけいおん!!にも共通しますよね。彼女たちは軽音部なのにほとんど練習してませんし、それでいて本番には強かったりとか、そういうリアルな苦しみとは無縁です。これも、本来なら花咲くいろはで描かれるんじゃないかと思ってた、緒花が働くことの大変さや、旅館の中居としてやっていく辛さを経験して成長していくんだろう……という感じからは完全に外れたところで描かれている点と共通しているように感じます。何せ緒花ちゃん、風呂掃除前に客用の露天風呂に入っちゃうような子なのであまり成長してませんよね。
 それでも、少しずつは前に進んでるんですよね。けいおん!!が実は序盤から伏線をバリバリに張っていたのとは少し違いますが、花咲くいろはも騒がしい日常が淡々と進行しているようでいて、中の人間関係はどんどん変わっていってて何となく前に進んでるんですよね。ちょっとずつおかしな方向に進んでいる気がしないでもないですが、それでも喜翆荘のメンバーがどんどん打ち解けていってるのは前に進んでいることだと思います。この辺は凄くけいおん!!的に感じますね。

  • 主人公が天然かつアホの子で強烈な点

 主人公の緒花はご覧のとおり、かなりアホの子です。時折暴走していらないことを言ったりやったりして波乱をおこしてばかりですが、それでも前に進んでいたり喜翆荘の人たちに認められたり好かれたりと、その主人公力からなのか凄く輝いていますよね。完全に抜けているけいおん!!の唯に比べたら、何もしない母親に成り代わって料理を作れる緒花のほうがポテンシャルは高いですが、絶対音感があったりする唯の天才さとも少し近い気がします。そんなアホの子だけど凄く魅力的な主人公が中心にいて、狭い人間関係の中で動いていく、というあたりがこの二作には共通している気がします。周囲の主人公を観る暖かい目とかもそうですよね。どう考えても変な子なんですが、それがどんどん魅力的になっていき、周りがそんな主人公のファンになっていくような……そんな枠組みな気がしています。

  • 1つに絞ったやることの明確さ

 花咲くいろはでは「旅館での中居としてのお仕事」がメインですが、けいおん!!も軽音楽というメインがありますよね。しかもそのメインであるはずのものをまともにやらなかったりいい加減だったり、非常にそこがゆるいのも特徴的だと思います。とはいえちゃんと頑張ってたりもしてて、中心はそこにあるというのはブレてませんよね。

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 もちろん、全然違うところもあります。それは大人の存在だったり、外部の人間の存在でもありますし、男性も普通にいるし絡むという花咲くいろはは、けいおん!!で感じる不自然さを払拭しているかのようにも感じます。けいおん!!はあの閉鎖的な感じや女の子しか居ないことでの百合っぽさが良かったのかもしれませんが、花咲くいろはでも百合っぽい感じにはなってますしやはり似たような面白さになってる気がします。
 そして何より、どちらも行ってみたいな……と思わせてくれますよね。喜翆荘とか実在したら泊まりに行きたいですから。それは豊郷小学校聖地巡礼してみたくなるけいおん!!と近い気がします。
 花咲くいろはは凄く気軽に、でもしっかりと楽しみたい作品ですね。女将さんが一番の萌えキャラとか考えられませんでしたからw 2クールあるので長く楽しませてくれそうです。

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