【11月25日 AFP】英国王立協会(British Royal Society)の専門誌「バイオロジー・レターズ(Biology Letters)」で24日、インドネシアとフィリピンの間の海で発見された新種の環形動物が発表された。

 体長約9.4センチのこの生物は、学名テウティドドリルス・サマエ(Teuthidodrilus samae)、通称「スクイッドワーム」(イカムシ)と呼ばれているが、その呼び名から想像されるよりずっと幻想的で繊細な姿をしている。

 体の両側側面には頭から先まで、パドルのような形状の極細の突起が並び、泳ぐときはこの突起をドミノ倒しのように連続的に動かし、体を縦にして進む。

 また頭部からは、体と同程度か体よりも長い10本の触手と、コイルのように巻いた6対の頸器官が伸びている。この器官で味やにおいを感じるのだという。

■2800メートルの深海で発見

 米カリフォルニア(California)州のスクリップス海洋研究所(Scripps Institution of Oceanography)のカレン・オズボーン(Karen Osborn)氏ら3人の海洋生物学者のチームが、遠隔操作できる潜水艇を使ってセレベス海(Celebes Sea)の水深2800メートル付近の深海で、この未知の生物を発見した。

 オズボーン氏は「これまでに記録されているどの生物ともまったく違ったので、非常に興味をかきたてられた。この『ヘッドギア』は素晴らしい」と語る。実際、この生物のために生物分類の「属」を新しく作る必要があった。
 
■餌はマリンスノー?

 また「スクイッドワーム」は捕食生物ではなく、海に沈むプランクトンの死骸や排泄物などの「マリンスノー」と呼ばれる海中浮遊物を餌としているようだ。オズボーン氏によると「おいしそうだとは思えないかもしれないが、栄養に富んでいる」のだという。

 「スクイッドワーム」の生息域は海底から100~200メートル上の深海で、未発見の豊かな動物相や植物相がある層だという。オズボーン氏は「私の推定では、深海にいる生物の半数以上は記録されたことがないか、科学的にまったく未知の生物だろう」と述べている。

 セレベス海は、コーラル・トライアングル(Coral Triangle、さんご礁の三角地帯)と呼ばれる海域の一角にある。ここは地質学的にユニークな歴史と多様な生物形態を擁することから希少種が多数発見されるホットスポットとなっている。

 中でもセレベス海は特に、周囲の深海からさらに落ち込み、隔絶された海洋盆地になっている。これまではこうした深海でサンプルを採取し、研究に使える状態でそのまま海上へ引き揚げられる装備がなかったため、セレベス海の調査は進んでいなかった。(c)AFP