NTTドコモにとって、正しく“渡りに船”の急展開だった。

 8月23日、通信ベンチャーの日本通信は、世界中で売れている米アップルの高機能携帯電話iPhone4用の「SIMカード」を発表した。

 iPhone4は、国内ではソフトバンクモバイルと回線契約をすることが義務づけられている。だが、国外で買ってきたSIMフリーのiPhone4に、26日から日本通信が出荷を開始するSIMカードを差し込めば、ソフトバンクよりもネットワークの品質がよいドコモの回線でiPhone4の機能をフルに使えるようになる。

 たとえば、ソフトバンクは国内でiPhone4を販売するに当たり、通信ネットワークに過度の負担をかけないために、「テザリング」(iPhone4をPCのモデムとして使ってインターネットに接続すること)の機能をはずしていた。

 だが、日本通信のSIMカードであれば、ドコモの3Gネットワーク(FOMA網)が使えるので、海外のiPhone4同様に、手持ちのPCと連携しながら、本来の機能を楽しむことが可能になる。

 じつは、ドコモは、今年の5月5日、大型連休最後の日に大きな決断をした。というのも、アップルの多機能データ通信端末のiPadが、当初予想していたSIMフリーの端末ではなく、ソフトバンクからSIMロックされた状態で独占的に発売されるという情報が入ったからだった。

 このとき、本社に集合した山田隆持社長以下のドコモ役員は、iPadと一緒に使うことが可能な「携帯型無線LANルーター」の増産を決定した。これは、NTTブロードバンドプラットフォームが企画した小型中継機で、ドコモの夏商戦で市場に投入された。

 このルーターを使えば、ドコモの3.5世代携帯電話網(HSDPA)と、全国各地にある公衆無線LAN(WiFi接続)のいずれかの電波をキャッチして、受信状況に応じてネットワークを切り替えられる。ターゲットは、ズバリiPadの通信料金の獲得だった。

 そして、ドコモは、iPadを自ら販売することを希望していたので、海外と同じ仕様のSIMフリー端末に対する準備を水面下で進めていた。と同時に、アップルの機器に適合するSIM(マイクロSIM)も2万枚以上手配していた。結局、無用となったSIMは、今回、ドコモが日本通信に貸与するという格好で、iPhone4用のSIMとして復活した。

 両社が急接近した理由は、通信キャリアであるドコモ側が、自分たちの回線を借りて商売している日本通信のようなMVNO(仮想移動体通信事業者)のサービスに対する見方を改めたからだ。

 匿名が条件のあるドコモ幹部は、きっぱりとこう語る。「少し前まで、MVNOは、自分たちの畑(既得権益)を荒らす存在だと敵視していた。だが、ドコモが逆立ちしてもできないことが可能な日本通信と連携すれば、結果的にドコモの回線契約数を増やしてくれる」。

 かねて日本通信の三田聖二社長は、「端末と通信回線を選べる自由な市場をつくるべき」と主張してきた。快進撃を続けるソフトバンクにとっては、手強い“連合軍”の誕生である。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

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