公開鍵暗号をはじめ、インターネットの世界では暗号化は欠かせない。しかも、ほとんどのメール送受信で、暗号化が行われているが、多くのユーザーは意識せずに使っているのが現状だ。

この暗号化で、理論上はどのような技術でも盗聴できないという、量子暗号技術を使ったネットワークの試験運用を、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)量子ICTグループ、NEC、三菱電機、NTTが共同で開始した。

量子暗号ではまず、送り手と受け手に量子鍵配送装置を用意し、光回線経由で秘密鍵を共有する。そして送りたい情報を、その鍵を使ってワンタイムパッドにより暗号化する。

量子鍵配送では、送信者が光子を変調することで情報を付加して伝送する。受信者は届いた光子の状態を調べて盗聴の可能性があるビットを排除し、安全な秘密鍵を送受信者間で共有するというものだ。盗聴は、光子を測定すると痕跡が残るというハイゼンベルグの不確定性原理を利用して見破る。

現在の暗号は、数学アルゴリズムがベースになっているため、PCを含めたさまざまな機器で利用できる汎用的で経済的なものとなっている。しかし、コンピューターの性能が上がると解読される可能性がある。一方、量子暗号は物理法則に基づいているため専用装置が必要だが、盗聴の心配がないため安全なのだ。

いままで、実用化には多くの課題があり、アメリカ国防総省や欧州連合のプロジェクトでは音声データの暗号化が限界で、伝送距離も光ファイバーで数十km程度までだった。

日本では、2001年からNICTの産学連携プロジェクトで研究開発に取り組んできた。そして今回、10kmから最長90kmまでの複数の回線パターンからなる量子暗号ネットワークを構築し、盗聴攻撃の検知実験、多地点テレビ会議システムの試験運用を行うこととなった。秘密鍵の生成速度は、45kmの光ファイバー回線で毎秒約10万ビットと実環境では世界最高速となる。

今後は、試験を通じて改良していき、国家レベルの機密通信、電力・ガス・水道網などのインフラの通信保護、金融機関の秘匿通信などへの利用を目指すとしている。

独立行政法人情報通信研究機構(NICT)
NEC
三菱電機
NTT

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